五月中旬ごろ神代植物園の薔薇園には素晴らしく見事な薔薇が咲きほこります。私の父は薔薇が大好きで庭には何種類もの薔薇を春と秋には沢山咲かせていました。薔薇の季節には、私達姉妹が学校に持っていくように毎朝50本位切ってぬれえんに並べて置いてくれます。私は長女ですので一番先にきれいなものを選んで側に置いてある新聞紙に包んで学校へ行きます。薔薇には棘があるのですが、父はその棘を丁寧に取り除いておいてくれます、ですから私達姉妹は安心して持てたし学校の花瓶に生ける事が出来ました。お花屋さんで薔薇を求め花瓶に生けるたび棘に刺され50数年前の父のやさしさを、思い出します。さて、神代植物園の薔薇園に「クリームソングローリー」という香りのたかい深紅の薔薇があるのですが父の薔薇です。薔薇園が出来る時に責任者の方から求められて植樹したそうです。が、現在はつる薔薇しか残っていません。しかし同じ香りと形と深く真っ赤な薔薇です。父は「薔薇は剣弁の花びらがいい」と言っていましたが、私は「クイーンエリザベス」の薔薇のように空に向かって真っすぐに伸び丸い花びらのが好き。
父の呼吸が止まったとき花瓶の「クイーンエリザベス」がバサバサと音をたてて散り医者も看護師も私も、ただただその薔薇を見てしまいました。
医者が父の寝巻きの胸元を開き、蘇生しようとしましたが、私はそれを止めました。医者は私の手を父の心臓の上に持っていき「静かに心臓がとまりますよ、確かめてあげて下さい」と言いました。
