(オイディプースはポーキスの三叉路から逃げてテーバイへと向かった。この頃テーバイでは女神ヘーラーにより送られたスピンクス<スフィンクス>という怪物に悩まされていた。
スピンクスはオルトロスを父としエキドナを母とする怪物で、女面にして胸と脚と尾は獅子で鳥の羽を持っていた。スピンクスはムーサより謎を教わりピーキオン山頂に座し、そこを通る者に謎を出して謎が解けぬ者を喰らっていた。
その謎とは「一つの声を持ち、朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何か。その生き物は全ての生き物の中で最も姿を変える」というものであった。
この謎が解かれた時スピンクスの災いから解放されるであろうという神託をテーバイの人々は得ていた為、この謎を解くべく知恵を絞ったが何人も解くことは出来ず、多くの者がスピンクスに殺された。
一説によるとクレオーンの子ハイモーンもまたスピンクスに殺された。この為クレオーンは、この謎を解いた者にテーバイの街とイオカステーを与えるという布告を出した。
テーバイに来たオイディプースはこの謎を解き、スピンクスに言った。
「答えは人間である。何となれば人間は幼年期には四つ足で歩き、青年期には二本足で歩き、老いては杖をついて三つ足で歩くからである」
謎を解かれたスピンクスは自ら城山より身を投じて死んだ。これは謎が解かれた場合死ぬであろうという予言があったためである。・・・ウィキペディア『オイディプース』より)
※※ パソコンからご覧の場合で、画像によってはクリックしても十分な大きさにまで拡大されず、画像中の文字その他の細かい部分が見えにくいという場合があります(画像中に細かい説明書きを入れている画像ほどその傾向が強いです)。その場合は、お手数ですが、ご使用のブラウザで、画面表示の拡大率を「125%」「150%」「175%」等に設定して、ご覧いただければと思います。※※
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世田谷事件のことを考えていると、なぜかこの、ギリシャ神話の怪物スフィンクスの逸話が、よく思い出されました。
ピーキオン山の頂(いただき)に座し、道ゆく人々に奇妙な設定の謎掛けをしたというスフィンクスの姿と、年末ごとに新情報と称しては、事件に新たな「設定」を付け加え、「その全ての設定に辻褄が合う答えは、何だろうか?」と、人々に向かって謎掛けするかのような警察の姿とが、重なって見えたということかもしれません。
謎を解いたオイディプースは、スフィンクスの言葉を文字通りに解釈して答えを導いたのではなく、まず自らの直感で「人間」という答えを出し、そこから逆算して、スフィンクスの一見不可解とも見える「設定」を解釈したのかなと思います。
世田谷事件の場合も、17年を経て解決を見ていない以上、警察その他によって提示された数々の「設定」に拘泥するのではなく(それら「設定」の中には、いつの間にか無かった話にされているものもある)、時には、それらを離れて俯瞰して見たり、場合によっては、直感に合わせて取捨選択してみるということも、この期に及んではありではないかと。
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11. まとめのまとめ(侵入時に何が起きたのかという妄想も含め)
さてこれまで、
「外国人の複数犯による犯行(屋内侵入者は一人、他は侵入前に逃走)」
「動機は金(現金というよりは、キャッシュカードと暗証番号)」
「素人の思い付き的な犯罪であり、プロ組織による関与なし」
などと結論付けてきました。
犯行に至るまでの経緯や、犯行時の流れについても、思うところは述べてみました。
しかしまだ一点、触れてない部分があり、それは、これまで何度か「複数人で侵入しようとしたが、侵入時に想定外の出来事が起きたために、屋内侵入を果たした一人を残して、他は全員逃走した(結果的に、その屋内侵入者が一人で大暴れ)」と言ってはみたものの、ではその「侵入時に起きた想定外の出来事」とは何なのか?・・・ということでした。
ここまで読んでくださった方や、世田谷事件に詳しい方なら、すでにお察しではないかと思うのですが、これが、実に言いにくいことなのでした。
今回、区切りとして、その点に触れてみたいと。
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まずは、「その13」からの続きということで、宮澤家の近所に住んでいたAと、吉祥寺あたりに住んでいたB、この二人組による犯行だったと仮定し、一連の流れを妄想してみると・・・
12月29日の昼ごろ、宮澤家の風呂窓に目を付けたAからBに、犯行を持ち掛ける電話があったと。(以下の会話「OK~」までは「その13」からの再掲です)
A「俺らにもチャンスが巡ってきたかもしれない」
B「なんだ?」
A「金が欲しいって話をしてたろ? いい仕事があるんだ、やらないか?」
B「どういうことだよ?」
A「俺の近くに金持ってそうな家があるんだ、お前もたまに来てるから知ってるだろ、ほら、あの列車のある公園の裏の・・・」
B「ああ、スケボーやるところの横にある、あれか」
A「そうそう、そのスケボーやるところの横にあるあれがさ、裏の窓が開いてて、フェンスに上れば中に入れそうなんだ。夜は人目もない」
B「中に入って・・・殺るのか?」
A「なに、ちょっと脅してカードを奪うだけさ。殺ることはない」
B「そうか、どんなやつが住んでるんだ?」
A「見たところ、40歳くらいの母親と、小さな子供が二人、あと婆さんだよ。旦那はまだ見てない」
B「ふ~ん、そこを確認しなきゃな」
A「だからさ、今日明日でそれを確認しようってことだよ。明日は土曜だから旦那もたぶん家にいるだろ。とりあえず武器になるものを用意して、今からこっちにこないか?」
B「わかった。でも俺のとこは雑魚部屋だから部屋のは持ち出せないぞ」
A「新しいのを買えばいいよ。吉祥寺なら駅前に西友ってのがあるだろ、あそこなら買える。なるべく見た目、凄そうなやつを頼む」
B「なら刺身包丁だな。あれは柄が滑って人を刺すには向かないだろうが、細長くて先が尖ってるから凄そうには見えるよ」
A「OK、それで頼む。金を奪えば簡単にペイするよ。安い先行投資だ」
2枚の黒ハンカチが用意された経緯を妄想してみると・・・
A「ところでお前のとこにマスクはあるか?」
B「マスク? 俺は持ってないな。どうした? 風邪でもひいたか?」
A「いや、今度の仕事の話だよ。押し込む際に顔は隠したほうがいいと思ってさ。あの界隈は俺の地元だ。あとで人相を証言されるのはまずい」
B「そんなに心配なら殺ればいいだろ? そうすりゃ証言されることもない」
A「簡単に言うなよ、全員殺してもし捕まりでもしたら死刑だぞ。殺るのは抵抗されたり声を上げられたりしたときの最後の手段でいい。それにしくじるということもある。顔は隠しておくに越したことはない」
B「そうかわかった。しかし俺はマスクは持ってないぞ」
A「じゃあそれも西友で買ってきてくれよ、二人分でいい」
B「また買うのかよ、布を巻けばいいだろ?」
A「それでもいいが、覆面に使えそうな布を持ってるのか?」
B「持ってるよ、薄手で後ろで結びやすいやつがいいんだ。ハンカチで十分だよ。色もいいのがあるから貸してやる」
A「じゃあそれを頼む」
この通りではないとしても、これに似た謀議がなされたものと思われた。
Bは、吉祥寺の西友に赴き、凶器(柳刃)を購入。
(29日の昼ごろ、凶器と同型の柳刃包丁1本だけを購入する、黒ジャンパー姿の男が防犯カメラに捉えられている)
いったん帰宅して、箱から柳刃を取り出し、これをヒップバッグに押し込んだ。
(柳刃やヒップバッグのサイズについて、詳しくは「その1」をご覧いただければと)
さらに、ベランダの物干しかどこかにあった2枚の黒ハンカチを取り、これもヒップバッグに押し込んだ。
ふとエアテックを脱ぎ、下に着ていたラガーシャツを色あせたラグランに着替えたのは、単にとあるブログの面倒くさい設定上、無理にでもそうせざるを得なかったこれからチャリに乗って、場合によっては血が流れるかもしれない現場に向かい「一仕事」するにあたり、「動きやすい軽装を」「汚れてもよいものを」とのことだったかもしれない。
Bはヒップバッグを腰に巻き、チャリで出た。
腰のあたりに「プスッ」と違和感を感じたのは、出発後、すぐのことだったと思う。
見ると、ヒップバッグの底の片隅を、柳刃の刃先が突き破っていた。
「こりゃまずい・・・」
男はひとけのない路地に乗り入れると、ヒップバッグから柳刃を取り出し、一緒に入っていた2枚の黒ハンカチを掴むと、ぐしゃっと丸めてバッグの隅に押し込み、緩衝材のようにしてそこに刃先をあてがい、再び出発した。
約20分で、上祖師谷か成城あたりにあるAの部屋に到着、
「現場を見ておくか?」
Aの提案により、二人して宮澤家の周辺を歩いてみたりした。(29日午後~夜間)
「その日(29日)の夜のうちに決行するべく、ポッポ公園にやってきたが、周囲に人目があり断念した」という可能性もあるが、そこは考えないとして話を進めてみると・・・
翌30日(土曜日)、今夜決行という時になって、
A「おお、そういえば覆面の布を貸しといてくれ。いいのがあるって言ってたよな?」
B「ああ、これ・・・」
Bはヒップバッグから2枚の黒ハンカチを取り出した。
柳刃の切っ先にあったそれには、すでに多数の切裁痕が付いていた。
A「なんだ、穴が開いてるじゃねえか・・・」
B「すまん、包丁がバッグを突き破ったんで刃先に当てていたんだが、まさかここまでなるとは・・・」
怪訝そうに一枚を受け取るA、
「ちょっと小さくないか?」
そう言いながら鼻先に当てた瞬間、その顔が激しく歪んだ。
生乾きの嫌な臭いがしていた。
「なんだこの臭いは・・・、これを俺にしろってのかよ・・・」
仕方ねえなあ・・・そう呟きながらAは奥に行き、なにやらゴソゴソしていた。
戻ってきた時には、その手に小さな黒いボトルがあった。
ドラッカーノワールのボトルだった。
Aはそのハンカチに5~6プッシュほどもしてみた。
が、臭いをかいでみて再び激しく顔をしかめた。
生乾きの悪臭と香水とがブレンドし、臭いはさらに異様さを増していた。
「いいよ、俺のは俺が用意する」
結局Aは黒ハンカチをBに返却、部屋の引き出しを漁っていたが、やがて自分用のハンカチかバンダナを見つけて上着の右ポケットに突っ込んだ。
そこにはすでに、家族を緊縛するための粘着テープや、ことによるとバタフライナイフなど折り畳み式のナイフも入っていたのである。
「そんなに臭うかぁ?」
Bは不服そうな顔をしながら、一枚を自分用の覆面としてズボンの右ポケットに入れ、もう一枚の、香水を大量に吹き付けられたほうは再びヒップバッグの底に押し込み、柳刃の刃先にあてがった。
そして、ヒップバッグを腰に装着し、おそらくは二人して、チャリで家を出たのだった。
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(警視庁のサイトで公開されている情報や、ポリスチャンネルの動画によると、ドラッカーノワールは、「ヒップバッグの中」と、「現場に残されていたハンカチ」から香ってきたという。
「これは香水です。あのー、現場に残されてましたハンカチですとか、あとはヒップバッグの中から香ってきた匂いになります。 フランス製で、ドラッカーノワールという商品になります。全国の量販店などで、30ml入りで約3000円くらいで販売されていました。」(特別捜査本部・野間警部の解説@ポリスチャンネル)
「現場に残されていたハンカチ」は2枚あるので、その両方にドラッカーノワールの香りがついていたのかと、当初は思っていたが、どうもそうではないらしく、警視庁のサイトには、ドラッカーノワールの説明として、「凶器を包んでいたハンカチについていた香水」とあるので、それによると、ドラッカーノワールは「覆面として用いられたとみられるほうの一枚」には付いておらず、「柳刃包丁の柄を包んでいたとみられているほうの一枚」のみから香っていたということになる。
その「設定」が事実なのか、という気がしなくもないが、しかし、それを言っても仕方ないので、警察の説明を文字通り解釈して、香水が香ったのは一枚だけという見方に立ち、その上で、二枚の黒ハンカチが用意された経緯や、そのうちの一枚に香水が付けられた経緯を、無理やりでしたが妄想してみました。
吉祥寺西友男などを実行犯と設定し、話を作っていますので、無理やり感は酷く、読むに堪えないかと思いますが、そこは、その程度のものとしてご容赦いただければと。)
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夜の11時半ごろ、男らは、宮澤家の中2階風呂窓下にあるフェンスの前(ポッポ公園側)に立っていた。
狙いの小窓の明かりは消えており、やはり、ほんの少し開いていたかもしれない。
ポケットをまさぐり、黒ハンカチを取り出すB。
薄手のそれを三角に折ろうとして、手の動きが止まった。
分厚い豚革の手袋をしており、ハンカチの端をつまむどころではなかったのである。
「そういえばこいつをしていたんだった・・・」
手袋をして侵入する予定だったが、今この公園で一時的に手袋を脱いで覆面を装着すべきか、迷っているところへAが促した。
「おい、ぐずぐずするな、早く中に入ろう。ここで覆面などしている姿を人に見られたらまずい」
「俺が見たところあそこは風呂場だ。明かりが落ちている今は誰もいない。覆面はあそこに入ってからでもいい」
Bはハンカチをポケットに戻すと、フェンスに手を掛けた。
体を引きずり上げ、フェンスの上辺に右足、壁を伝う配管に左足を掛けると、風呂窓は顔のど真ん前に来ていた。
(画像は事件後に風呂窓あたりを調べる警察の様子)
網戸に手を伸ばし、右側にスライドさせようとしたが、これが思いのほか動きが悪かったのかもしれない。
「おい早くしろ、外せないのか?」
下からAが指示を飛ばした。
Bは網戸に両手をかけ、これを外すとAに手渡した。
それをそっとフェンスに立てかけるA。
Bは風呂窓のふちに両手をかけ、頭から屋内に滑り込んだ。
逆立ちになるというほどの体勢ではなく、入ってすぐのところにあった風呂ふたに両手をつき、顎を上げ、体を斜めにして侵入したものと思われた。
(頭から突っ込むイメージ)
風呂窓の斜め向かい側すぐのところ、ポッポ公園の階段脇には、当時から一本の街灯があり、弱いながらも、これが光源になっていたと思われる。
(赤矢印の先、園内の歩道を照らす街灯)
洗い場に降り立つB、急ぎ手袋を脱ぎ、風呂蓋の上かどこかに置いた。
ポケットから黒ハンカチを取り出し、これを三角に折って顔に当て、手早くその両端を後頭部で結んだ。
窓の下では後に続くべく、Aがフェンスによじ登っていた。
登り切ってフェンスの上に右足を置き、左足を壁の配管に掛けようとした、
その時だったと思う。
「うきゃああああああああああああああああああああああああ!!」
暗い窓の奥から、異様な叫び声が響いた。
礼君の奇声だった。
「確かに礼くんは特別な子だった。言葉がなかなか出てこない。目が合わない。それだけではない、言葉の代わりに奇声が、大声が、あふれるほどに出てくる。どれほど周囲を心配させたろう。当時はイギリスに暮らしていた私だったが、ロンドンで開かれた自閉症の子どものための講座に出向いたりした。礼くんはまだ受診もしていなかった頃のことだ。私が心配しても妹の心の負担を増やすだけかもしれないが、
知識だけは持っておこう、心の準備はしておこう、という気持ちだった。」
「『野原だから気兼ねしなくていいのよ。』この場所だから、ご近所に気兼ねすることなく子育てができると、いつも言っていた妹。礼くんの奇声と表現するしかない大声、それは何年続いただろうか? 立て込んでいる市街地に住んでいたら周囲の人の迷惑になる、と妹は言うのだ。だが、その声も就学を目前にしてだいぶおさまってきた。たくさんの人に支えられて、ようやくここまできたのだ。それだけに保育園の先生や仲間、地域の方々の存在を心強く思っていたのだろう。妹一家は立ち退きの決意ができないでいた。礼くんのような子どもにとって、環境の変化が及ぼす影響ははかりしれない。引っ越しだけならまだしも、慣れ親しんだ保育園の卒園、さらには小学校への進学も目前に迫っている。が、ようやく、妹たちの心が決まった。土地の譲渡、新居への移転。『本当によかった・・・。』ほっとした思いだった。妹の決心がなにより嬉しかった。」
「みきおさんはいろいろなことに興味を持つ人だった。広範な興味を示すかのように、仕事場の本棚にはさまざまな分野の本がぎっしりと詰められていた。やがて、にいなちゃんの誕生を機に、子どもの本が次第に増える。にいなちゃんはほとんど手のかからない子で、幼児期を迎えても、部屋が雑然としていたことなどあまりなかった。(中略)が、礼くんが誕生し、幼児期に入ると、(みきおさんの)仕事部屋の雰囲気が一変する。目が合わない、表情に乏しい、と気を揉んでいるうちに、やがて始まった奇声。それは妹たちの悪戦苦闘の始まりでもあった。なんとか礼くんとコミュニケーションをとりたい。そんな思いで過ごす日々。いつもきれいに片付けられていた部屋が、次第に雑然とせざるを得なくなっていったのはその頃からだった。」
「妹たちは、あの家を気に入っていた。礼くんがどんなに大きな声を出しても、気兼ねすることなく、のびのびさせてあげることができるから。立ち退きが遅れたのもひとえに子どもたちを思ってのことだった。」
(斜体部分、入江さんの著書より)
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(ここで、「礼君の奇声だった」と書きましたが、この妄想仕立ての話の流れでそう設定したに過ぎず、間違いなくそうだったと言いたいわけではないです。
ただ、この時点でまだ屋外にいたであろうAが直後にとったらしい行動から推し量れば、そのとき起きた「想定外の出来事」とは、侵入者らをして肝を潰させるレベルのものだったのでは・・・と考えざるを得ず、
それは例えば、「フェンスに足を掛け、今まさに侵入しようとしているAの視線の向こう<仙川の方向とか>に、人影が映った」だとか、「遠くから、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた」とかのレベルではなく、
「Aが仰天して逃げ出すと同時に、その夜は、宮澤家にはもはや心理的に近づけなくなるほどのものだったのではないか」と思われ、
果たしてそれは何だったのか、ということになると、先に引用した入江さんの記述に加えて、警察の見解によると、礼君がまだ起きていたらしいこと---それは礼君が亡くなった時の状況を描いたイラストからも想像される---を考え合わせれば、
あるいはもしかすると、その時、礼君のいわゆる問題行動の一つだったという「奇声」が発せられたのかもしれないということを、可能性の一つとして考えざるを得ないと。
もちろん、礼君が、風呂場に降り立ったBに、「おじちゃん、何してるの?」と問いかけ、トコトコトコっと奥に走って行っただけだった・・・ということも考えられる。
それだと、その直後のAの慌てふためいたと見える行動を説明するには、若干弱い気がするが、しかし、風呂場でBに、「おじちゃん、何してるの?」と呼びかける子供の声を聞いたAが、「これは、侵入しているどころではない。早く逃げなければ、親にも見つかり、通報される」と思って、慌てて逃げ出したということもあり得るとは思うし、
Aの行動はともかく、「礼君のところに真っ先に行って扼殺した」というBの行動については、礼君が風呂場のBに姿を見せたうえで、「おじちゃん、何してるの?」と声をかけ、奥に走っていった、Bが反射的にその後を追ったと設定するほうが、説明しやすいようにも思う。
奥に誰がいるかもわからないのに、子供を追うことなどあり得るのか・・・と思われるかもしれないが、世の中には、「猫が玄関に入っていくのが見えたので、入れると思って、その家に侵入した」というほど短絡的に行動してしまう人間も中にはいるのだった(蟹江町@2009年)。
ともあれ、すでに亡くなっている礼君のためにも、こういった推理をするのはどうかと、躊躇するところもあった。
しかし、宮澤みきおさんの父親であり、2012年9月に84歳で亡くなった宮澤良行氏は、生前、「推理小説家や一般の方たちも含めて、多くの推理を寄せてほしい」と語っておられたとのことで、
犯人の素性や動機が判然としない中、悪意によるものでなければ、なるべく多くの見方を参考にしてみたい・・・というスタンスであられたようでもあり、私も今回、自分の思うところを書かせていただいた。
たとえこの推測の通りだったとしても、幼い子供が自室で大声を出すことに非があるはずはなく、悪いのは、勝手に侵入を図り、大声に驚いた犯罪者らであることは言うまでもない。
以下、このブログ的には、「奇声」が発せられたという、ブログ筆者個人の妄想を前提に話を進めてみたい。)
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「ヤバイ!!」
Aは咄嗟に、フェンスと宮澤家の壁との間にある、細い通路に飛び降りていた。
あるいは、「うおっ!」とかの素っ頓狂な声を上げながら転げ落ちたのかもしれないが、いずれにしても、その通路をスケボー広場の方角に向かい、脱兎のごとく逃走した。
およそ30m先にあるスケボー広場前の通りに出るとき、左手から車のヘッドライトが迫ってくるのが見えたが、男はかまわず飛び出した。
通りを突っ切って植え込みのブロックに飛び乗り、振り返って宮澤家のほうを見たという。
おそらく驚愕の面持ちだったのではないか。
(男は、母と娘2人の計3人が乗る車の前に飛び出してきたという)
Bは風呂場で固まっていた。
「なんだ、今の声は・・・」
風呂場の扉は閉まっていた。
あるいは、仮にそこが開いていたとしても、脱衣場の引き戸は閉まっていたものと想像する。
誰かに見られたとも思えなかった。
声は、壁一枚隔てた隣の部屋(これが子供部屋だったが)から響いたようにも感じられた。
気づかれたのか?・・・
なぜ大声を出されたのかわからず、Bは疑心暗鬼に陥った。
二人して侵入し、一人が刃物を突き付けもう一人が緊縛し、目的のものを奪えば殺すまでのことはない、しかし、抵抗されたり大声を上げられれば話は別だ・・・
もともとそんなところで話はまとまっていたのかもしれず、この「非常事態」に、Bの頭は即座に後者に切り替わったのかもしれなかった。
いずれにしても、仲間の侵入の邪魔になる、通報などされる前に対処しなければ・・・
Bはヒップバッグに手を入れ、柳刃包丁の柄をつかんだ。
体育館などで試せば実感できるが、底が厚く硬いスポーツシューズで板の間を歩けばドカドカと音がする。
それを経験的に知っており、なおかつ、犯行中に靴を脱いでいた時間があったとすれば、それはこの侵入直後からしばらくの間だったのではないかと思われるが、そこはよくわからない。
男は、まだ何も巻かれていない裸のままの柄を右手に持ち、左手でそっと風呂のドアを開けた。
脱衣場があり、2~3歩でそこを抜けると、階段の踊り場に出た。
左手にはロフト(屋根裏部屋)への梯子、トイレの扉、正面には1階へと降りる階段、1階には明かりがついており人がいるらしい、
右斜め前には2~3段ほどの上りの階段があり、さらにその右側、男の位置から1.5mほど離れた場所には部屋の入り口があった。
その部屋の住人のやや特殊な事情のために、家の主(あるじ)が平素からそうしていたのか、それとも、部屋の住人自身がもともと開閉に無頓着であり、その時も単に閉め忘れていただけなのか、
いずれにしても、その扉は開けられており、中には煌々と明かりがついていたものと想像する。
奥には黒いピアノらしきものも見えていた。
男の足は自然にそちらに向かった。
中に入り、右手に目をやると男の子がいた。
礼君だった。
発達障害のある礼君は、ほぼ毎晩夜中まで起きて遊んでいたという。
(フジテレビ『放送スクープSP 激動!世紀の大事件Ⅱ』)
この時もまた、礼君は起きてベッドに腰掛けるか、ベッドの傍に立つかしていたものと思われる。
「子供か・・・」
男はやや安堵すると同時に、子供とはいえこうして目撃された以上、捨て置くことはできないと瞬時に判断していた。
仲間が来てくれるものという思いも、まだ捨ててはいなかった。
「ここで声をあげられるのはまずい・・・」
男は無言で礼君に近寄ると、柳刃をベッドの上に置き、空いた右手を礼君の首にあてがい、ベッドに押し倒した。
左手は、礼君の口をふさいでいたとみられている。
このあたりにも、なぜこの殺し方だったのかという理由・事情が垣間見えているのではないかと思う。
礼君の殺害後、男はいったん風呂場に戻ったかもしれない。
入江さんによれば、その夜は風が強かったという。
窓の下では街灯の明かりのもと、ツバキの花や葉が風にざわめいていたものと思われる。
男は窓から顔を出して、下の様子をうかがってみた。
仲間の姿はそこになかった。
右側に首を捻り、スケボー広場前の通路を凝視するも、仲間の姿はそこにもなかった。
二人でやるはずが、どうやら一人にされていた。
ここで逃げることもできたはずだった。
しかしすでに侵入した家で一人を殺害する中で、一度抱いた犯意を収めきれなくなっていた。
「こうなれば皆殺しにして総取りだ」
男は風呂窓を閉めると、柳刃を手に、再びもと来た方へと引き返した。
踊り場の前に立つと、右手の短い階段が目についた。
ほぼ毎日遅くまで起きて遊んでいたという礼君のことを思えば、その短い階段の先も無人とはいえ、おそらく、小さく明かりが灯されていたのではないかと想像する。
「誰か寝ているのか?」
忍び足でその階段を上がった。
4~5歩もすると突き当たった。
左手には引き戸があり、右手には奥にソファーのようなものが見えていた。
男は左手の引き戸をそっと10センチほど開け、中を覗いてみた。
部屋は狭く、洗濯機のようなものが置かれているのみで、人の気配はなかった。
身を返して右手の奥へと歩を進めた。
ソファーまで進むとそこは広くなっており、傍らにはテレビやテーブルが置かれていた。
どうやら居間らしかったが、人の姿はなかった。
ここに来て緊張の糸が少し緩んだかもしれない。
エアテックを脱いで椅子に掛け、ヒップバッグから香水のついた黒ハンカチを取り出し、柳刃の柄に装着した。
帽子やマフラーも脱ぎ、戦闘態勢を整えた。
(2階の台所~居間)
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その後の経緯は、これまでの、いわゆる主流的な見方と大差なかったのではないか、と思う。
すなわち犯人は、みきおさん → 泰子さん&にいなちゃんの順に殺害したと想像する。
みきおさんについては、犯人自らが1階に赴き襲撃したのか、それとも階段上の死角で待ち伏せ、みきおさんが上がってきたところをいきなり頭上に刃物を振り下ろし、みきおさんが階下に転落し悶絶しているところを上から襲い掛かったのか、
おそらく、(想像するところの)礼君殺害の経緯などを見てみると、階段上の死角で待ち伏せた(いわば消極的なやり方)というよりは、大胆にも自ら階下に赴いた、
その気配を察してパソコンの椅子を立ち階段下に顔を覗かせたみきおさんと、揉み合いの末に殺害したのではないかという気がするが、よくわからない。
階段にはカニ歩き(横歩き)の跡が付いていた、との情報もあり、これは、犯人が1階に向かう際に音をなるべく消そうとしたのではないかとも言われている。
この情報から推し量れば、カニ歩きの跡は、おそらく素足や靴下のそれではなく、スラセンジャーのそれだったのではないかと思う。
真冬の深夜に、あの底が厚く硬そうなテニスシューズを履いて階段を下りれば、忍び足でも、音は隠しようもなかったと思われ、さすがに途中でみきおさんの察知するところとなったのではないか。
「あなたー、なにー? どうしたのー?」
階下の異様な物音に、ロフトでにいなちゃんを寝かしつけていたとされる泰子さんが、こう声をあげなかったとみるほうが不自然ではないだろうか。
しかし、その声は半ば自分たちの居場所を知らせてしまった。
みきおさんを片づけたとみるや、男は刃先の欠けた柳刃を手に階上へと向かった。
踊り場に立つと、正面には侵入口となった風呂場と脱衣場、左手には先ほど男の子を殺めた部屋と、エアテックを脱いだ居間へと続く上りの短い階段、
右手にはトイレの扉、見上げると大きく口を開けたロフト(屋根裏部屋)の入り口と、そこへ架かる折り畳み式の梯子が目に留まった。
念のため、トイレのドアは開けてみたかもしれない。しかしそこには誰もおらず、男の注意はすぐさまロフトへと向かった。
そこから薄明りも漏れていたのかもしれず、たとえ声を上げなかったとしても、気づかれるのは時間の問題だったかもしれない。
その後に起きたと思われることについては、すでに幾度か触れているので、ここでは割愛したい。
(画像中、ピンクの丸は、ロフトへの梯子が掛かっていたところ)
逃走について、『真犯人に告ぐ!』によると、
「犯人はクローゼットのハンガーからみきおさんの9着分の背広、ズボンなど衣服を取り出し、床にぶちまけていた。みきおさんの魚模様のトレーナーがなくなっていることから(これに)着替えて逃走したとみられる(成城署捜査本部)」
とのことだったが、隣人であり、宮澤家の普段着については最も詳しかったと思われる入江杏さんが、その著書の中で、「特にみきおさんの衣服は、ほとんど、私にはうろ覚えと言ってよい」と明言している以上、
あの魚模様というのか、アルファベット模様というのか、とにかく奇抜なデザインのトレーナーがなくなっているからといって、必ずしも犯人がそれを着て逃げたとは限らず、
「このトレーナーは、もう着ないなあ・・・」
そう考えたみきおさんが、事件前に処分してしまっており、犯人が着て逃げたのは別の服だった可能性もあるのではないかと思う。
(胸に"DIVE"の文字)
また、ズボンはおそらく返り血を浴びていると思われ、これも着替えたかったのではないかと思うが、血染めのラグランが遺留されていたのとは対照的に、なぜかズボンは遺留されていなかった。
もしかすると、犯人はみきおさんのズボンに着替え、血染めのズボンについては持参していた(あるいは宮澤家で奪った)リュックのたぐいに入れ、それを持って逃走したことも考えられるが、
他の、帽子であるとか、マフラー、エアテックまでどうやら置いて逃げているところを見ると、血染めのズボンのみをリュック等で持ち帰ったとするのは違和感があり、やはり、そのズボンは穿いたまま逃げたのではないかと思われる。
血染めのズボンを穿いたまま逃げたのだとすれば、それには、それなりの理由があったと思われ、例えば、「そのズボンに、身元特定につながる、何らかの刺繍が施されていた」とか、「非常にお気に入りのズボンだった」等の理由が考えられるが、
やはり、「みきおさんのズボンのサイズが犯人に合わなかったため、やむなく、ズボンを着替えるのは断念した」とみるのが、無理のないところではないかと思う。
警察は現在、犯人の身長について「170センチ前後」としているが、身長165cmのみきおさんのズボンがサイズ的に合っていなかったのだとすれば、当初発表されていた犯人の推定身長「175cm前後」というのは、そう的外れではなかったのかもしれない。
逃走時間については、「深夜から未明にかけて逃走した」という説、「翌31日午前10時ごろに逃走した」という説など様々だった。
暗いうちに逃走した可能性については、アマゾンプライムで見ることのできるテリー伊藤氏の世田谷事件関連動画でも、2014年の年末、午前11時ごろのポッポ公園の様子を紹介しながら、
「見ての通り人が多い。この時間に風呂窓から出てくれば、誰かに見られると思う。暗いうちに逃げたのではないか」という見解を示していたが、それには説得力を感じた。
ただ一方では、どうやらキャッシュカードや数字を書いた手帳を持ち出さずに逃げているという状況があり---私はそうした状況を偽装とは見ないので---それらの状況を重視したい立場からは、
犯人が「カードで金を下ろす」ということを諦めて、カードや手帳のたぐいを打ち捨てて(深夜のうちに)逃げたのではないとすれば、残る可能性としては、犯人はそれらを持ち出す暇(いとま)すらない状況の中で慌てて逃走した、
すなわち、31日の午前10時40分ごろ、隣のおばあちゃん(泰子さんの母親)がやって来たことに慌てて、取るものも取り敢えず、裏の風呂窓から逃走したのではないか(いわゆる長期滞在説)と思われてくるのであり、自分的にはこの見方に立ちたいと思う。
これは、2014年の年末に警察がリークした「犯人は31日未明のうちに逃走したものと思われる」という見方とは違ってくるが、捜査初期において、「犯人は深夜~未明のうちに逃走した」という見方に固執するがゆえに、「東武日光駅の男@31日午後5時20分ごろ」への捜査が後回しにされた(1年遅れになったらしい)ことを考えれば、
2014年の年末になされた警察によるリークは、「マウスを落下させたのは、おばあちゃんである可能性がある」という、従来の時系列(しかしそれを知らない人間が大多数)に合わない理屈をつけてでも、「31日深夜~未明の逃走と判断した初動にミスはなかった」ということを言いたいが故のものだった・・・と考えれば---いじわるな見方かもしれないが---逃走時間帯についての警察による見方と自説との齟齬については、さほど気にする必要はないのではないかと思う。
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さておそらくは日本で最も有名な未解決事件であると同時に、今なお多くの人々が議論を繰り広げているこの世田谷一家殺害事件について、今回思うところを書き連ねてみました。
「その12」でも書いたのですが、事件の構造について「こうだったのでは?」と思ったところを端的にいえば、世田谷事件のほぼ1年後に発生した、中韓留学生らによる大分の恩人夫婦殺傷事件、これに似たものではなかったか、という気がしました。
(「だから中韓留学生による犯行だ」というのではなく、構造が似ているのではないかということ)
ただし、世田谷事件の場合は、屋内侵入を果たしたのが一人だけだったため、犯人らの計画は狂い、結果的に事件の外観としては、2009年に愛知県の蟹江で起きた中国人留学生による母子3人殺傷事件に似たものとなったのではないかと。
(「単独犯による不可解極まりない犯行」の外観を呈した)
① 公園フェンスに立てかけられていた網戸(共犯Aの存在の可能性)
② 午後11時35~40分に、スケボー広場前通路に飛び出した飛び出しマン(これが共犯Aだった可能性)
③ 黒ハンカチの多数の切裁痕については、包丁を何日何か月と持ち歩くうちにできたのではなく、事件直前の短時間(下手をすると一瞬)のうちにできた可能性
④ 柳刃の柄に施されていた、滑り止めとみられる黒ハンカチの細工については、侵入時から皆殺しのつもりでその細工をしてきたのではなく、侵入後の予定変更に伴う応急処置としてその細工が施された可能性
こういったところが、自分の見方の軸になったような気がします。
今後、例の警察による小出しのリークで①あたりが否定される展開があるかもしれませんが、仮にそうなっても、②の「飛び出しマンが共犯だったであろう」という自分の心証が変わるとは思えず、事件についての見方も、大筋で変わることはないかと思います。
外国人の複数犯による犯行、動機は金(キャッシュカードと暗証番号)、侵入口はここ、殺害順はこう、犯人の探し物はこれ等、いろいろ書きましたが、全体的に依って立つところが曖昧、かつ決めつけに満ちたものだと自覚はしています。
他の見解について「それはあり得ない」等、否定してかかるものでは毛頭ありません。
真逆の見方についても普通にありだと思っています。
また、ある本には書いてあるが、その他の本や記事には全く言及がなく、信頼が置けるかどうかわからないと感じた情報、
科学的・客観的な体裁で書かれてはいるが、実はフィクションではないかと感じられた情報、
噂のレベル、信ぴょう性がどうかと思われた目撃情報、その他細かい部分も含めて全て取り上げ検討していくときりがないので、そういったものについては、取り上げるのは控えるか、取り上げても深入りしていないという部分もあります。
この事件について知識のない人でもこれを読めばほぼ網羅できるという、微に入り細に渡った書き方はしておらず、読んでくださる方がこの事件についてある程度知識をお持ちであることを前提に、ざっくりとした書き方をしました。
取り上げていない情報や論点などまだまだありますので、そういった部分については、ネットの記事や関連書籍などをご覧いただければと。
世田谷事件については、このあたりで一区切りとさせていただきます。