プロフェッショナルの定義はいろいろあるでしょうが、英語でプロフェッショナルという場合、医師や弁護士などの専門的な知識や技能を必要とする職業(専門職)という意味です。

 

 では、スカウト活動におけるプロの専門職員には、どのようなことが期待されるのか。私なりの考えをまとめてみました。

 

 諸外国では、専従職員という場合、scout officialsという用語が一般的に当てはまります。officialsは、公務員とか官僚という意味ですから、さしずめ「スカウト官僚」とでもいう意味合いでしょう。

 

 官僚は、昨今、天下り問題などでバッシングの対象になり、あまりイメージがよくありませんが、本来は政治家(首長や議員)が選挙で代っても、時々の政権の政策を行政に反映させつつ、行政の継続性を維持し、安定的な行政を行う役割を担っています。政権交代による、振り子のふり幅を調整し、滑らかな行政遂行をしたり、政治家の任期をまたぐ中長期的な行政の方向性を決定するためのデータの蓄積、解析、指針の策定などの役割も担っていると思います。しっかりとした有能な官僚組織がないと国や自治体の行政は絶対に上手くは行きません。政治と官僚は敵対関係ではなく、補完的関係であるべきだと思います。

 

 スカウト運動における「officials(官僚)」の役割は、行政の世界と基本的には同じです。例えば青少年のプログラムの開発を例に考えてみましょう。プログラムの開発のプロセスは概ね次のようになります。

 

1.現行プログラムの実施状況調査と分析、課題の抽出

2.現在のスカウティングを取り巻く社会環境の変化や青少年の教育ニーズ、スカウト運動に対する社会的要請などの調査や評価(マーケティング)

3.他団体や関係諸団体、諸外国との連携、情報交換、最新のプログラムの情報収集と分析

4.教育プログラムの開発、デザイン

5.ハンドブックや活動ツールの製作

6.試行や実験、研究開発と評価、修正

7.新(改訂)プログラムの実施展開

 

 このような流れは、切れ目なく、スパイラル的に続かねばなりません。プログラム開発が「7.実施展開」の段階になると、次の改訂を視野に入れた1.のプロセスが始まります。改訂されたプログラムが実施に移されたら、次のプログラム改訂のための準備を始めるのが、プログラム開発の常識です(恐らく商品開発でも同じでしょう)。

 

 日本連盟は、これまでこの作業の大部分をボランティアに頼ってきました。「職員」は大抵の場合、ボランティアの下請け的な事務仕事(議事録の作成、文書の清書など)が中心でした。当然、ボランティアは任期があり、人がどんどん入れ替わります。先ほど述べた政治家と同じで、ボランティアの作業には継続性や安定性に難があり、せっかく時間をかけて検討してきたことが次の任期のボランティアには引き継がれず、あるいは次のボランティアの考えが異なって、お蔵入りになることが間々ありました。

 

 

 このようなプログラム開発の仕事は、単にスカウティングを知っている、ある程度経験があるということだけでできるものではありません。プログラムの開発手法はもちろん、作業チームを率いるリーダーシップやコミュニケーション、調査分析(マーケティング)技法などの専門的な知識や技能が必要です。そういったトレーニングを受けた「専門家」が不可欠です。

 

 私は、こういったプログラム開発や、指導者訓練スキームの策定など、中長期的な視野や、施策の継続性などが求められる事業について、専門的な立場で従事する職員を、専従指導者と考えています。ボランティアはあくまでも、専従指導者の仕事をオーソライズする、あるいは求めに応じて助言をする程度の役割でいいと思います。

 

 さて、こういった「専門職」をどのように得るかが問題です。

 

 一つは、採用の時に、「専門職」の採用枠を設け、例えば、教育系(野外活動系)の学生を採用し、育成することです。ただ、残念ながら今の事務局に専門職の「先輩」がいないこと、育成プログラムがないことが大きな課題です。

 

 これからの時代、専門職を終身雇用することは勧めません。大学の研究職や他の青少年活動団体、NPO、官庁、学校、少年自然の家などから専門職員を期限付きで採用する方法がよいかもしれません。募集する人材のスキルとタスクを明示して、広く公募する方法です。契約の際は、仕事の達成目標と任期、報酬を確認し、業績評価によって契約の継続の可否を決定します。大学の教職員は最近この方法が多くなっています。事務局長もこの方法で適材が得られる可能性があります。ただこの方法の課題は、日本ではキャリアパスの習慣がまだまだ定着していないことです。一端大学の研究職を離れて、ボーイスカウトの専門職を経て、その次のキャリアが見えにくいという問題です。この辺りが欧米と決定的に異なるところでしょう。また、専門職にはそれ相応の報酬が必要となります。人材の質と報酬とはおおむね比例するからです。

 

 今、日本連盟の事務局には、およそ30人ほどの「有給スタッフ」がいます。この中には、いわゆる総務(経理、人事、労務、文書業務)や広報(スカウティング誌の編集発行、WebPageの管理など)、スカウト用品(商品企画や仕入れ、販売)、登録業務などの純粋な事務を処理する職員が多数います。そのほとんどは常勤正規職員で、報酬以外の雇用経費(退職金引当金、雇用保険、健康保険などの負担分など)が必要な職員です。果たして、単純な事務のためにそれだけの職員の雇用が必要なのか、財政逼迫の折から検討は急務です。

 

 普通の民間企業であれば、可能な限り業務をアウトソーシングして、コストを削ることを考えるでしょう。例えば登録業務などは、もしかしたら中堅職員一人分の報酬で十分外注が可能ではないでしょうか。経理や労務、広報などもしかりです。限られた財源を必要な人材確保に集中投下する、これは、経営の基本ではないかと思うのです。

 

 ボーイスカウトのような「教育組織」にとって、たゆまぬ教育プログラムの開発と、指導者の確保・養成は根幹をなす事業です。それを担う専門職員不在の現状は、一刻も早く改善すべき課題であり、スカウト運動のイノベーションには、事務局機能の根本的な変革が不可避です。