ランちゃんが私立高校入試に挑んでいるその時、小学校では授業参観が行われた。

マキちゃんのクラスは担任お得意の国語。
古文の暗唱から競技かるたまで、とてもよく仕込まれている子どもたちの美技を披露してくれた。

それでも受験生を持つ母親の関心は向かない。
わたしも兄弟が同じ歳のお母さんと、公立受験がどうの、内申がどうのと話していた。


競技かるたのとき、保護者も子どもの近くで観戦するように言われた。
マキちゃんが「ママ早く!」と呼ぶ。
めずらしいとその時思った。
対戦相手はなかなか強く、マキちゃんはちっとも取れない。
わたしはまだのんきにファイト〜!と声をかけていた。
ところが、負けが濃厚になった時点で、マキちゃんの目から涙が出てきて止まらなくなった。

「ただのゲームなのになんでー?いつもはせんぜんこんな感じじゃないですよー」
と先生は慌てていた。

わたしはここでやっと気づく。
マキちゃんは、かるたに強いところを見せて、わたしの関心を向けたかったんだ。
ずっとランちゃんにかかりきりだったから。
寂しい思いをさせていたんだぐすん


このあと保護者同士で対戦したのだけど、相手のお父さんが、
「ボクちょっとできますよ。家で子どもの練習に付き合ってきたんで」
と言っていた。
そうか。マキちゃんも練習したかったよね。
でもうるさくしないように遠慮したのだ。
そういえばここのところ、『ちびまるこの百人一首』を読んでいた。
気づかなくてごめん。

案の定わたしはまったく太刀打ちできなかったので、途中で席を立ち、
「ママじゃダメ!マキちゃん交代!」
と無理矢理代わってもらった。
あうんの呼吸というか、相手のお父さんも上手にマキちゃんを勝たせてくれた。
(というより本当に強かった!)
最後は笑ってたよ。


ランちゃんが帰宅したあと、マキちゃんの下校時間に合わせてプチと迎えに行ったら、マキちゃんはすっかり元気になっていたけれど、プチとわたしを見て嬉しそうだった。


その夜、ランちゃんはマキちゃんのために少女漫画風のイラストを描きました。
「これがマキちゃん。優しくて賢いんだよ」
長い髪に太い眉、くりくりの目、長めのフレアスカートを履き、両手を前できちんと合わせて立っていた。
「スカート持ってないよ」
とマキちゃんが笑う。くすぐったそうに。

2年後にはこんな女の子になってるかもしれないな。