今年のベスト映画作品は、これしかないだろう。狙われすぎた男。
主役のフィリップ・シーモア・ホフマンが亡くなってしまい、遺作
となったため、ホフマンを中心に語られることが多いが、もちろん
前提として脚本が素晴らしい。

ホフマンに関して言えば、私の印象としては「器用な役者さん」と
いうポジションであって、心から魂を揺さぶるような感動を引き
起こす種類の俳優とはちがって、大変失礼ながら誤解を恐れずに
言えばお笑い芸人さんのような印象をもっていたことを告白しな
ければいけない。

しかし。しかし。本作でのホフマンは、これまでとまったく異なる。
魂を揺さぶるような情熱を内に秘めた演技で観客を圧倒するのだ。

もしかしたら、ホフマン死亡や遺作となったニュースが本作の評価
に影響を与えているのかもしれない。もしかしたら、私自身が客
観性を失って観てしまったのかもしれない。しかしながら、それ
らを差し引いたとしてもなお、マグマのような熱い緊張感を銀幕
から感じるのだ。そしてそのような作品は、今年これしかなかった。

20世紀に生まれ育った人間にとって、タバコに火をつけるシー
ンやタバコを燻らすシーンは、手っ取り早く画面を絵にする便利
なものだが、それをそれに終わらせずにシーンに無言の主張を漂
わせる演技は、画面からタバコを失った21世紀の我々にとって
強力なストレートパンチを食らわせる。

そしてそれを紫煙の中で撮影したであろうからこそ、匂うような
画面が出来上がっているともいえるだろう。

だから、そういう意味で、本作は監督と脚本と主演俳優の情熱が
化学反応を起こしている傑作なのだ。

人によっては、「ティンカー・ソルジャー・テイラー・スパイ」と
比較した人もいる。その気持ちはよく分かる。しかし、それはそれ、
これはこれで観たほうが良いだろう。

そこまでの要素をすべて通してみて、初めて生まれる評価があると
思うからだ。

感謝!