お兄ちゃん、これ、お兄ちゃん宛よ。

誰がよこしたんだ?

リリーさんからよ。

リリー?

何があったんだろう。速達なんかで。

いいから、ちょっと読んでみろ。
大したことじゃねえだろう。大きな声出して。

うん、いい? 読むわよ。

読め読め。

ええっと・・・寅さん、私のこと憶えてる?

憶えてるよ。おまえのこと忘れるわけねえだろ、バカだなあ。

いい女だったねえ。眼つきが色っぽくてさあ。

黙ってろタコ! とにかく、読め読め。

このあいだ東京で博さんに会って、あんたのこといろいろ聞いたわ。

会ったって言ったなお前な。なんだいろいろって。
え、おまえなんかオレの悪口言ってんじゃないか。

僕はそんなこと言いませんよ。

ちょっと聞いて!

今頃寅さんどうしてるかしら。
どっかできれいな人と恋でもしてんのかしら。

お前、誤解ですよ。誤解。フフ。

私、今病気なの。

え?

歌うたってる最中に血を吐いて、この病院にかつぎ込まれたの。

先生は気の持ち方で必ずよくなるってそう言うけど、
でも生きてたってあんまりいい事なんかないしね。別に未練はないの。
ただ一つだけ、もう一ぺん寅さんに会いたかった。
寅さんの面白い冗談を聞きたかった、それだけが心残りよ。

さくら!リリー、病気!?

うん。

死ぬ間際にオレに会いたいって言ってんだな。

そうね。

よし!

ちょっと待ってよ!

お兄ちゃん、どこへ行くつもりなの?

決ってるじゃねえか!リリーのとこだよ。

リリーさんの病院がどこか分かってるの?

どこだ、その病院は。

沖縄県那覇市。

沖縄?

そうよ、遠いとこよ~

そこ、ど、どうやって行くんだ、どこで汽車乗り換えるんだ。

立ち話じゃ無理よ。ちょっと帰って。

リリーが待ってるんだよ!

分ってるけど、とにかくみんなで相談しなきゃ。

待ってるんだよ、おい、よう。

(寅次郎ハイビスカスの花)