郵便屋さん、ご苦労さん。この家だろ?

ええ、速達なんですけど。

あっそう、オレがもらっとく。どうもありがと。

おかえりなさい。

おう、さくら。なんだい、速達だよ。お、みんなおそろいじゃないか。

おかえりなさい。
おかえり。おかえり。

どうしたい。おいちゃん、おばちゃんも元気か?

うーん。

うん、それはなによりだ。おう、博。

しばらくです。

ハハハ。お前も相変らず額に汗して働いてるか?

なんだい、こざっぱりしたカッコして。どっかへ出かけんの?

いえ、別に。

あ、そう。うん、さくら、いつもと変わりはねえけど、オレのみやげだよ。

あ、どうもありがとう。

うん。

ねえ、早く行こうよ~。

うん?

どこ行くんだい?

おかえりなさーい。

どうも様子がおかしいなぁ。何かワケあんのか?

なんだい。まだ行かなかったのかい、水元公園。
早く行かないと陽が陰っちゃうよ。

おう、寅さんおかえり。

おう、社長。元気か?

元気だよ。元気だけど、まずい時に帰って来たなあ。

今、なんて言った?

いや、別に。

さくら、何かい?今じゃ、とらやはこんなもんで客に茶入れてんのかい?

あのね、お兄ちゃん。
実はね、今日は天気もいいし、水元公園のアヤメがきれいな盛リだっていうから、
みんなでお弁当持って出掛けようとしてたとこなの。
本当はおいちゃん達、新緑の箱根か伊豆に行きたいって言ってたんだけど、
そんなゆとりもないしね、手近な所で済まそうかって、そういうことになったの。

ふう~ん、そうか。これからみんなで水元公園出かけようって矢先に、
やっかい者がバカ面下げて帰って来たってわけか。

いやいや、そうじゃないんだよ。

ちょっと間が悪かっただけなんだよ。

だって、せっかく帰って来たお兄ちゃんに、留守番しててくれなんて言えないでしょう?

さくら、お前そういう気の使い方をするんだよ。
『あたしたちこれから水元公園に出掛けるのよ。お兄ちゃん留守番してくんない?』
素直にそう頼まれりゃあ、ああいいよ、行っといで。オレは二階の部屋でちょっと
ひと休みして、おまえたち帰って来たら、お重の残りで一杯やろうじゃないか。
気持ちよくお前たちのことを送り出してやれるんだよ。

そうだろ?満男?

(寅次郎ハイビスカスの花)