最初は樽の話、2回目はブランド?の話、3回目はブレンドの
話、今回は品質管理の話です。

山梨県の北杜市という所、というよりも小淵沢といった方が
通りがいいかもしれません、にサントリーの白州蒸溜所があり
ます。ウィスキーを飲まない方でも、天然水のミネラル・ウォー
ターでご存知でしょう。

テーマがウィスキーですのでウィスキー・ベースで進めますが、
サントリーのウィスキーといえば山崎が有名で代名詞的存在です。

確かに山崎は京都と大阪の国境にあるサントリーのマザー工場
ですが、サントリーのウィスキーはブレンドを前提に製造して
いる要素が強いので、白州の原酒がなければサントリー・ウィ
スキーが成立しないのも事実でしょう。

ピートやミズナラの風味が強い山崎の原酒に対して、白州の
原酒は干草や白樺の風味が強い山林の霧や靄を感じさせるもの
で、市場に対しては「竹炭でフィルタリングすることで、この
特徴がでる」とアナウンスされます。

hakushu-heavypeated.jpg

さて、先日サントリーが運営するモルトバーで、白州1992
なるウィスキーを飲みました。バーのオリジナルボトルですので、
写真はありません。すみません。

これを飲むきっかけは、いつもの癖で「アルコール辛く、塩っ
ぽいウィスキーが飲みたい」という、いささか意地悪な注文を
してしまったのですが、驚いたことにこの1992年の白州モ
ルトは、想像をはるかに越えたアルコール辛さと塩味を持って
いて、思わず唸ってしまいました。ちなみにシングルカスク
ではなくてバッティングだそうです。もし今年瓶詰めしたの
ならば20年前の原酒ですから、長期熟成ウィスキー向けの
バッティング原酒かもしれません。

これまでの記事をお読みいただいた方は、この内容をご理解
いただけると思いますが、今日書きたいポイントは残念ながら
ここではありません。白州というウィスキーそのものについて
です。

メインの山崎に対して、どうしてもサブの位置づけになる白州は
伝統的なネーミングがされたシングルモルトも、山崎に対して
「おとなしい」印象があり、国内のニッカでいう余市に対する
宮城峡のような印象です。ウィスキーの世界ではスモーキーな
臭いをクセが強いといいますが、クセの強さを縦軸にとり、
アルコール辛い・甘いを横軸にとれば、興味深いマトリクスが
出来上がります。
        クセが強い
          |       
     余市   |  山崎
    (ニッカ)  | (サントリー)
辛い ----------------------------- 甘い
     白州   |  宮城峡
    (サントリー) | (ニッカ)
          |       
        クセがない

クセが強いかどうかは、ピート濃度や個性の強い樽の影響で
簡単に決まりますが、クセがないなかでの辛さや甘さは
麦の種類や酵母、シェリー樽等々の複数の影響が考えられる
ので、簡単に決まるわけでもありません。

そこで白州の竹炭処理が登場してきます。白州の12年や
17年といったオフィシャルボトルを飲んだ方なら、口当たり
の優しいウィスキーの印象を覆すメロウな柔らかさを感じら
れることでしょう。そして竹炭でフィルタリングしていると
説明されます。

ウィスキーが樽から瓶詰めされる前に、樽内の木屑や樽材の
隙間に挟んで液漏れを防ぐガマの穂などが混入しないように
ろ過処理をします。しかし、このろ過処理の際に、香味成分も
一部フィルターに掛かってしまうため、無ろ過のものに比べる
と豊かな香りはどうしても劣ります。

私が飲んだのは、そうするとシングルカスク原酒をバッティ
ング(混和)したものの、竹炭でのろ過処理をする前でかつ加
水処理(アルコール濃度を下げる)前の香味豊かなブレンド原酒
だったのではないか、という仮説が成り立ちます。そして、
このバッティング原酒は、オフィシャルボトルより美味しく
蒸溜所の個性がより伝わる”いい酒”だったとしたら?

これは推測ですがこういうことでしょう。サントリーにとって
山崎がマザー工場であり、ブランドの象徴であることは動かせ
ない事実です。一方、白州の原酒もブレンドに用いてサントリー
製品の重要な一部を構成するから品質は同じくらい重要。そう
すると、山崎と白州のシングルモルトを市場に出すときには、
互いに差別化をしなければ一般消費者に認知してもらうことが
難しいので、クセの強さ/弱さで分かりやすくポジショニング
する。もともと出来が悪い製品を良くすることはできないが、
元の出来がよければ、市場にあわせて位置決めを調整すること
はできる。そして竹炭でのフィルタリングは、世界中他のどの
蒸溜所でも行っていない。

作られるウィスキーが商品である以上、市場での認知を獲得し
なければ継続することができませんから、そのための品質管理
なら行われるべき必要なことということになりそうです。

個人的に私は、サントリーには山崎でブレンド用を基本に据えた
原酒をどんどん製造してもらい、白州ではシングルモルト用を
基本路線においた原酒をどんどん製造して、竹炭処理を用いなく
とも「白州って美味しいね」と言ってもらえるウィスキーを
作ったらどうかと思います。その原酒を用いてブレンドした
サントリー製品の方が美味しいだろうからというのと、製造
設備等を変更することなく、より美味しい商品の製造にすぐに
舵を切れるからです。

さて、その5はどうしましょうか。書きますか?(笑)

感謝!