ファニーなルックスが目を引くトヨタの小型7人乗りミニバンが
シエンタです。

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多くの方は、私がシエンタを買うはずがないと感じていらっしゃ
るでしょう。その通りです(笑)。ですがドライヴしましたので、
備忘録として記録することにしました。

シエンタの印象は角を丸めたキュートなルックスで、5ナンバー
小型車なのに、一旦蓋(ドア)を開けて車内に入ってみると、7人
乗って移動できる車内容積の大きさに驚きます。これは、顧客
ーゲットに対するアピールでしょう。

「5ナンバーで小さく税金も安いのに、車内は広くて最大7人
乗れる。もちろん燃費も15km/Lだからよく走る!」

ルックスがかわいいのに、機能面でこれだけの長所が詰め込まれ
ていれば、文句なしに気に入ってもらえる商品力です。もちろん
ヤンママに代表される、通勤や日常の買い物から子どもの送迎ま
で使い勝手の良いアシグルマを求める女性に対してでしょう。

現代に至って、クルマを機械として云々言うのは若干野暮な雰囲
気すらありますが、どんなにキュートになったからといってクル
マはやはり機械です。

しかし機械としての印象も、見た目の印象とオーバーラップして
いるのに驚きました。

このシエンタというクルマは、確かに5ナンバーサイズですが、
ホイルベースは2700mmもあって大きいです。だってカロー
ラよりも長いんですから。

小さく見えるボディも、乗ってみた実感のほうが正しくて、着座
位置は極めて高く、セダンと普通トラックの中間くらいの高さが
ありますから、運転感覚としてはほとんどトラックです。

対して、ボディの四隅を丸く切り取っているので見切りが悪く、
狭い道や後進時には車両感覚が掴めません。もうぶつかると思っ
ても壁まで1mあったそうです。

さらにこの車両感覚を掴みにくくしているのは、ステアリングの
初期応答性の遅さが影響しています。個体には175-65/R14のオー
ルテレーンが装着されていましたが、初期応答性の問題はタイヤ
よりもステアリングのセッティングの方が大きな割合を占めてい
ると言ってよいでしょう。ラックのピッチの問題が大きいのでは
ないかと思いました。

もうひとつ。これは燃費性能からの要求だろうと思いますが、非
線形の煽るスロットルに対して、線形のスポンジーなブレーキも
クルマの動きをギクシャクさせてしまいます。加速時と減速時で
Gの掛かり方が異なるのです。

例えば、子どもを後部座席に乗せ、スーパーでの買い物をリアゲー
トに載せて、駐車場から車道に左折で合流するとき。このクルマ
ではステアリングを過剰なくらい切り、スロットルはそおっと踏
まないとスムーズに車道に出ることができません。車道に出た後
では、慌てるようにステアリングを元に戻す必要があります。

ひょっとすると、このクルマのセッティングは対象とするコア・
ユーザーの平均的な運転技量に合わせて最適化作業をしたのかと
思われますが、この点は別の意味で興味深いテーマになります。

それはメーカの製品としてのブランド・イメージの視点です。

例えば、メルセデス・ベンツというクルマは、エントリーモデル
のAクラスに乗っても、フラッグシップのSクラスに乗っても、
ステアリング・フィールは同じような印象です。いわゆるメルセ
デスの乗り味をセッティングで作っているからです。

対して、このシエンタとフラッグシップのクラウンでは、ステア
リング・フィールはかなり違います。違う乗り味のクルマが同じ
トヨタブランドで販売されているわけです。

日本の自動車オーナー像を考えてみると、例えばお父さんはクラ
ウンに乗り、お母さんは買い物用にシエンタに乗る、というケー
スが考えられるでしょう。もちろん、車種は別のものでもかまい
ません。

このとき、同じメーカの別々のクルマを運転したとき、ステアリ
ングからくる乗り味が全然違ってしまうと「同じメーカのクルマ」
だという認識が強化されません。

先の例では、メルセデスのAを運転してもSを運転しても「同じ
メルセデス」だというブランド認知が強化されますが、トヨタの
場合はそれが起きにくいことになります。

カスタマーロイヤルティを考えるとき、ヴィッツやシエンタを買っ
た顧客に、いつかクラウンやアルファードを買ってもらいたい
ものですけれども、それが起きにくい。

いつ買うか分からない「いつか」だからよいのか、「いつか」だ
からこそ大切になってくるから「ブランド」なのか。なんだか、
先日書いた「売れるクルマの作り方」になってきましたが、実は
そのあたりが興味深く面白いところです。

今回乗ったシエンタに関して言えば、見た目の印象と機械としての
セッティングの最適化とが、とても高いレベルでオーバーラップ
していて、商品企画と車両企画、設計と製造との極めて高い最適化
レベルに感嘆いたしました。

技術を使ったり、判断するのは、あくまで人間ということでしょうか。

感謝!