スタイリング(だけ?)がウリのイタリアン・カーですが、どうして
こうもデザイン好きの人に好まれるのか?いえ、特段デザインに
強い嗜好を持っていなくても、誰でも気づくカッコ良さといいま
すか、個性あるスタイリングが特徴ですし、それをアピールして
販売もされています。

しかしながら、現代では自動車とは広く一般消費者に購入される
ものですから、まったくデザインを無視して製品を完成させると
いうことなどなく、程度の問題はあっても、全ての自動車がデザ
インされて製造されているのはいうまでもありません。

さらにしかしながら、例えば皆さまおなじみの国産車というのは
新しいデザイン・初めてのスタイリングで登場しても、2年も経っ
てマイナー・チェンジを迎える頃には、登場当初の新鮮さは薄れて
すっかりお馴染みとなり、強烈な個性で刺激された購入意欲も
減退を認めて迷ったり悩んだりするようになります。

これは昨今デザイン力に気づいてしまったドイツ車などでも同様
で、本国で発表され翌年日本に導入され更に翌年街中で見かける
ようになると、登場時のインパクトが薄れてしまうのは日本車と
あまり変わりません。

ところが、どういう訳かそれが秘密かイタリア車だけは登場時の
インパクトが長く続き、3年経っても「あ、アルファロメオだ」
となるのはマイナーの特権だけではないでしょう。

その秘密は何故だろう?と考え続けて、どのくらい考えていたか
も忘れてしまった頃に気づく大事件がありましたので、ご報告申
し上げます。

その秘密とは凸凹(でこぼこ)ガラスにあったのです。

ある日、我がポンコツ車を洗車していてガラス部分を吹き掃除し
ていたら、ガラスが凹んでいて「あれ?」と思いました。

フロントガラスのAピラー側の縁が凹んでいるのです。

LanciaY-frontwindow.jpg
▲ミア・マッキナのフロントウィンドウ。車体中央から凸面で続
いてきて、ピラー接続部前で突然凹面になっているのが分かる。

一頭最初に気づいたときには、これは何かの間違いではないか?
と思いました。そんなことがある訳ないと。

これは、やっぱりイタリアの機械だから不良品とか製造歩留まり
の問題なのではないかと疑ってみました。

しかし、次にフロントガラスの製造工程を考えてみると、皆さま
あまりご存知ないかもしれませんが、凸面ガラスの凸部は熱して
真っ赤に軟らかくなった板ガラスを宙吊りにして重力の力でたわ
ませて作るんですよ。

するってえと、凸面が途中で凹面になるなんてことがある訳ない。

ということは自然現象の摂理ではなく、人間が意図的に加工して
作っているから凸と凹が連続して”~型”に成る訳です。

もうひとつ、もし不良品とか製造歩留まりの問題ならば、ウィン
ドウシールドやピラー部との接合面がピタリ合うはずがない。

やはり、人間が意図(=デザイン、設計)して、このように仕様を
決定しているわけですよ。

そんなスタイリングのクルマ、他の国にはありません。

これに気づいてから、ドイツ、フランス、アメリカ、もちろん日本
のクルマもチェックしましたが、こんなことやっている国は他に
ありませんでした。

もうひとついうと、側面ドアについているサイドウィンドウも、
窓の下部は凸面ですが、サッシ枠に填っている窓上部はフラット
か、または若干凹面です。これも意図していることは明白です。

いや何が言いたいかって、この凸凹ガラスを上手く使うことによっ
てボディのスタイリングが物凄くシャープになるんですよ。知ら
ずのうちに。

ほとんど誰も気づかないようなところで、驚くような小ワザが効
いている。この小ワザがもたらす効果はスタイリングデザインの
寿命に永続性すらもたらしている。

素晴らしい。

ひょっとすると、日本車メーカのスタイリストだって気づいてい
るだろう。ドイツ車のデザイナーだって知っているかもしれない。

でも、絵を描くことが出来たって、コストばっかり掛かって性能
にはまったく影響がないのなら、実際にラインで作ることが許さ
れるかどうかが別問題だ。というより、許されるわけがない。

それに「GO」を出すイタリアの自動車メーカに敬意を表しよう。

たとえ標準の車高が高くたって、その上に架装されているボディ
はミロのビーナスだ。

だからイタリアのクルマを買うということは、凸凹ガラスを買っ
ているんですよ。

そこに誇りを持つのがモードってものでしょう。

感謝!