野外劇場というのは、そのときの天候や周囲の状況を公演にとり込んでしまうものである。劇場によっては背景が本物の海だったり山だったり空だったりするわけで、そればかりか自然の、あるいは飛行機や船の人工の音までも、予期せぬところで上演にとり込まれていく。自然を背景の一部に見立てるという点では、日本庭園の借景に似ている部分があるなぁと、きちんと作られた野外劇場や、フリンジの仮劇場をいくつか回って思った。音という点では、計算に入れられないから面白いとも言えるし、ある場合ではその予測不可能性までも予測して演出するから面白いとも言える。というわけで、今回はイギリス南西部にある Minack Theatre を訪ねたときの話。


Minack Thatreと言えば、Rowena Cade (1893-1983)というイギリス人女性が(彼女の庭師のBilly Rawlingsの助けをかりて)作り上げたことで有名な野外劇場である。(参考 Minack Theatre Web Site)入り江のがけっぷちに添うようにして建てられていて、上演中でも波の音が聞こえる劇場だ。入り口は車も通れるように丘をに敷かれた道路を登っていく表口と、海水浴場でもある入り江の崖に作られた細い階段と道をひたすら進む裏口との二つがある。個人的には、入り江から裏を回って入っていく方が、劇場の非日常空間にとり込まれていく感じがして好きなのだが、いかんせん、浜辺を通るために靴に砂が入るのと、思っているよりも階段が急かつすれ違うのが難しいほど狭い道なので、表口を通る方がストレスは少ないかもしれない。(とはいえ表口は表口で、ひたすら歩道のほとんどないような道を車に気をつけながら歩かないといけないので、それはそれで辛い。)劇場まではペンザンスなどの主要駅からバスが出ているのだが、交通の便がいいとはあまり言えないので(時間が遅れるのは良くあることとして、峠道のヘアピンカーブでバスが乗客の重さに耐え切れず、カーブになった坂道を登れずにずり落ち始めたときはさすがに肝が冷えた。まあ、これはめったにないことだけれども。)、公共交通機関を利用する場合はそれも加味して観劇の時間を決める必要がある。

さて、劇場の中に入ると、そこには崖を上手く利用して作られた観客席があり、観客席の間の階段を下りきった先に舞台がある。舞台の裏や一番上手側の観客席の横はもうすぐそこが海であるので、常に波音が聞こえる。今回は、スタインベック原作、ガタリ翻案の『怒りの葡萄』を観劇したが、ぜひ次の機会は『リア王』や『テンペスト』をここで見たい。(そもそもは『テンペスト』上演のためにこの地が選ばれたのだという。)

さて、肝心の『怒りの葡萄』の方だが、残念ながら、手放しで面白かったとほめることはできない。音響設備のせいか、マイクを通しているのに声が流れてしまって聞き取りにくかったことが最大の要因である。(私の英語能力の問題や座席の場所というのも、おそらく無視はできないけれど。)これは、今回だけの問題なのか、それとも劇場の構造上いつもそうなのか、何度か観劇してみないと分からないので、置いておくとして、全体的には箱馬や板を組み合わせた大道具の展開(車からキャンプへ、そしてまた車へという転換の繰り返し)が上手く、ルート66を旅していくロードムービー的な要素がこれによって強調されるという効果があったように思う。役者は総勢40名近くいて(!)アンサンブルとして布で洪水を表現したり、あるいは主人公一家が道々で出会う様々な人々として登場したりとこちらもその人数の多さがあだになることなく、効果的に演出されていた。役者の質としては、前述の音響の問題もあって、公平に評価することが難しいのだが、やはり特に主人公一家を演じていた役者たちが良かったように思う。