涙、ポロポロ、ポロポロ、止まれへん
膝が落ちて崩れそうなのを看板を支えに何とか立てていた
それでも、涙、ポロポロ、ポロポロ、止まれへん
「よしおっ、しっかりしいや」オカンの声
不思議な縁やった。
生玉から梅田に店を移転した。
その少し前にかおるちゃんは消えた。
梅田から天馬にさながらジプシーのように一年もたたずまた店を移転した
天馬に移って間もないある夜
店を閉めに階段を降り路地に出て看板を終いかけていると
薄闇の向こうから大きな台車を押してくる人影
見るとはなしに見て
「あっ」
「あっ」
お互いが同時に驚きの声
「ボクな、生玉を追い出されてこの前まで扇町公園に居ってん。そこで今の
会社の社長と知りあって、仕事させてもろてんねん。アパートも借りてくれて」
かおるちゃんは、
クマが店をしてた生玉の裏にある公園でブルーシートのテント暮らしをしてた。
ひょんなコトから知り合いになって、仲良しになった
そのコトが縁で、かおるちゃんを主人公にした小説を書き始めた
『小説・かおるちゃ』
http://plaza.rakuten.co.jp/machisanso/diary/200910130000/
クマより一つ年下の初老のかおるちゃんと言う人と
そこから、いわゆるホームレスと言われる人達に主眼を向けて
かおるちゃんは
クマが生玉を去る少し前に消えた
クマが梅田に店を出しているほぼ同時期に扇町公園で野宿者をしてた
その頃、クマは浮田町の借家を根城にしていたから
毎日のように扇町公園を横切っていた
天馬に店を移した少し前から
かおるちゃんはこの界隈のゴミ収集の仕事にありついた
不思議なえにしや、見えん糸で二人の生活園が同時に同じ場所に移行してたんや
それから、何度か昼間店に訪ねてきた
落ち着いて話ししたり一緒に飲むというのがかく、いつもむそそくさと帰った
野宿者生活から仕事を得てアパート暮らし
どんな過去があったかは知らんけど
気ままな独り身で安定した収入が入るようになって、クマもホッとしていた
一週間ほど前の夜、
店を閉めて看板を入れに降りた
この時間、かおるちゃんが仕事にくる時間でもあって時々出会う
そんな時のかおるちゃんは、台車を押してテキパキとゴミを集める
あいさつ程度の短い会話を交わし
「頑張ってやー」で別れる
さぁて、そろそろかおるちゃんが、と
予期した通り向こうから台車を押してくる人影
かおるちゃん、ん?? 何かチト違うぜよ
深夜、わずかに点った明りを背に影だけを見せるその人はかおるちゃんとちゃう
近づく程にその人の姿が判明して、かおるちゃんより一回りも年下の男性
「すいません、収集の人が変わったんですか」
「ええ、一週間ほど前から俺がやってます」
「えっ、そしたら前の人は?」
「さぁ???」
「すんません、前の人はどうなったか会社で訊いてくれませんか」
「何か不都合なコトでありましたんか?」
「いやいや、そうとちごうて、いうたら友達みたいな人やさかい」
昨夜、オトンとオカンが帰るのに看板も入ようと一緒に降りた
二人が遠ざかるのとすれ違いにゴミ収集の人がこちらにやって来た
「分りましたか、前の人のコト」
「それが、、、死にはりましてん」
「えっ、、、、」
「肝臓を悪うして入院して、10日前位に逝きはりましてん」
「、、、、、」
涙、ポロポロ、ポロポロ、止まれへん
オトンとオカンが怪訝にこちらを覗ってるのを、何とか手招きして
「よしお、どうしたん」
涙、ポロポロ、ポロポロ、止まれへん
「小説に書いてたやろう、かおるちゃん、死んだんやて」
涙、ポロポロ、ポロポロ
「よしおっ、しっかりしいや」