●特別【だった】人●
あの人は,関西育ちだけど,不思議なことに生まれは実家のすぐ近くで,ゆとり世代の同い年だった。あの人は,これまで知り合ったB型のなかでも特に変わった人だった。あの人は,邦ロックと小説と映画とコーヒーと,スープカレーと,そしてサブカルが好きな人だった。あの人は,僕に音楽や小説の趣味を与え,映画の嗜好を幅広くしてくれた人だった。あの人は,感情豊かで,真顔がちょっと怖く,でも美味しいものを気持ち良いほどの満面の笑みで食べてくれる人だった。あの人は,お酒が入ったときの作り笑顔がちょっと下手な人だった。あの人はきっと,女性らしさというステレオタイプと自分らしさとの狭間で,生傷を作っている人だった。あの人はきっと,対人関係がちょっとだけ不器用で,そのことに悩みながらも,でも逞しく生きようとしている聡明な人だった。あの人はきっと,たった一度きりの人生を,自身の人生という映画を,懸命に楽しもうとしていて,そこが美しい人だった。文字に起こしてみたら,こんなちょっとのことしか知らないのだと気付いた。僕にとっての不幸は,あの人と出会った場所が水商売の世界だったこと。でも,あの場で無ければ絶対に接点を持ち得なかった。本当はお酒が入ったときにも素敵な笑顔が出来る人だったのかもしれない。だから,,,仕方のないこと。後ろめたさを感じる仕事で出くわした人間を選ぶわけないよな,そりゃ。あの人の幸せも,不幸も,分かち合える存在となるのは他の人だった。30歳ちょうどにフィレンツェという夢を叶えてあげられるのは他の人だった。年末のフェスでは,一緒にいるところを友人に見つからないように必死だったのかもしれない。最後は,嘘を混ぜることに疲れさせてしまったのかもしれない。約束の“さよなら,僕のマンハッタン”を見ながらそんなことを考えていた。やっぱりやっぱり,すーっと消えるんじゃなくて,ちゃんと断って欲しかったぜ、さとみん。特別【な】人を,特別【だった】人にする決心をした。文字に起こしてみて良かった。方法は,,,これから考える。以上。おしまい。2018.5.12 記