ポズナー米連邦最高裁判事といえば、「法と経済学」をかじった人間であれば誰もが知っているフロントランナーです。

もちろん、私など足下にも及ばないでしょう。


彼の著書でなかなか(多くの方々にとって)興味深いのが「性について」という文献です。


ポズナー判事は、性行為を「コスト・ベネフィット」で考えます。


まず、ベネフィットとしては、「性行為」そのものによる快楽のみならず、相互理解を深めるところまで言及されています。

早い話、「性行為なくして相手を理解できない」ということのようです。


次に、コストは今日の技術進歩によって急速に低下していると述べておられます。

性病、妊娠の危険、などは言うに及ばず、男女ともに「性行為」→「結婚」という図式が今日ではなくなっているということです。


また、女性の社会進出に伴って、「性行為」→「結婚」というのはキャリア形成にとって不利益な場合があり、仮に「性行為」があったとしても「結婚」するか否かの自由は女性に留保されるべきだとも説いています。


その裏側として、男性も「性行為」→「責任をとる」→「結婚」という図式はナンセンスだと説いています。


要するに、現代社会において「性行為」と「結婚」は全く別物であり、それを混濁するといい人生を歩めないというような論旨であります。


米国では、経済学的素養のある法律家がたくさんいて、ポズナー判事はその最先端でありましょう。


では、人間を抑制しているのは何かというと、キリスト教的教義であったり古いモラルであるとのことです。


頭を白紙にして考えれば、寄り添っていて、さらに性行為に及んでも快楽を得られるのであれば、妊娠や性病などが確実に予防されている今日、それを敢えて自重する理由は見当たりません。

もしかしたら、100年後になったら歴史の教科書で「愛し合っている男女の性行為も結婚を前提にしないと許されなかった時代があった」と書かれるかもしれませんね。


前回同様、平成12年度と平成21年度の司法統計の離婚動機を考察したいと思います。


今回は、モラハラ防止と被害者のケアを1つのライフワークにしている私にとって最も興味深い「精神的に虐待する」という項目です。


夫  平成12年度 11.8%

    平成21年度 14.8%


妻  平成12年度 22.9%

    平成21年度 25.5%



全体の数の多さはさることながら、あまり増加していないと感じられた方が多いのではないでしょうか?


そんなに騒ぐほどモラハラ(モラル・ハラスメント)は増えていないじゃないか?

という印象を受けた方もおられると思います。


しかし、私はこの数字を見て実は背筋が寒くなったのです。


モラハラの第一歩は「自分が被害者であることを気づくこと」なのです。

ストックホルムシンドロームのように、被害者が加害者におもねってしまっているのではないだろうか?

だから、自分が被害者であることに気づいていないのではないだろうか・・・。


様々なことが頭に浮かんできます。


弁護士1年生だったとき、今から考えると明らかに「ストックホルムシンドローム」に陥っている女性が(当時検察官の力も借りて)男性から必死で逃したのに再びその男性と一緒にいるという電話を受けて激怒した自分が恥ずかしいです。


自分が被害者であることを認識することがいかに難しいか・・・現実をもって痛感している自分だけに、この数字には別の意味での恐ろしさを感じます。


モラハラについて(フィクション仕立てですが)、現在私が調べた要因などを書いたのが以下の本です。

小説 離婚裁判<モラル・ハラスメントからの脱出> (講談社文庫)/荘司 雅彦
¥610
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私が司法修習生だったころ、朝日新聞の論説主幹の方が司法研修所に講演においでになり、次のような話をされたことを憶えています。


「アメリカの夫婦関係を一言でいうと『セックスの切れ目は縁の切れ目』とでもいうべきでしょうか、セックスレスが離婚原因の多くを占めています」


最近、日本でも「セックスレス」や「セックスレスを誘因とする妻の浮気」などが話題にのぼっていますが、はたして現状はどうなのでしょう。


平成12年度の司法統計と平成21年度司法統計(最新)を比較してみますと、確かに上記のようなトレンドが読み取れます。


家庭裁判所への離婚関係事件の「申立の動機」の中の「性的不満」「性的不調和」の数字を申立総数で割った割合の推移は以下のようになっています。


夫の申立動機における「性的不満」「性的不調和」の割合


平成12年度 11%

平成21年度 13.3%


妻の申立動機における「性的不満」「性的不調和」の割合


平成12年度 6.4%

平成21年度 9.3%


このように10年間の推移ではありますが、「性的不満」「性的不調和」の割合の増加は圧倒的に妻側の方が増加しています。


もっとも、これはあくまで家庭裁判所の門を叩いた人たちだけの統計にすぎず、確か動機は3個くらい記入できたと記憶しています(曖昧な点はご容赦下さい)。


裁判所の門を叩かない純粋な協議離婚の方が圧倒的に多い今日の日本。


私は、夫婦とも「性的不満」「性的不調和」の割合はもっと高いのではないかと推測しています。

なぜなら、裁判所の窓口に提出する書類に、「性的不満」「性的不調和」という動機を選ぶのは、まだまだ日本人としては恥じらいがあると考えるからです。


この点における夫婦関係は、着実にアメリカに近づいているのでしょうねえ・・・。