時空ONTHEリセット1
【矢崎美佐子(本名新田良子)殺人事件特別捜査本部】
「おはようございます」
植松警部が黒板を背に立った。
おはようございます、と全員が起立し、頭を下げて着席した。
「古川刑事。矢崎美佐子殺人事件の関係者の概要を説明してください」
「はい」
慣用椅子から重い腰を上げ、壇上に立った。
「では、早速男子タレントから始めます。この黒板に書かれている関係者と思える参考人物の男女の名前を説明いたします」
ハンドポインターで黒板を示した。
NSTTVチーフディレクター殿山武四十歳。同じくアシスタントディレクター樫山正平三十六歳。チーフアシスタント桑原周作二十八歳がテレビ局関係者です。この後が【ゴールデンなんです】出演者タレントになります。司会者の大手ナカムラプロダクション所属、お笑い芸人の西原幸次五十五歳。妻子持ちで子供が二人、長女美紀十六歳。長男洋一十二歳。同じく大手コジマプロダクション所属、お笑い芸人の大菩薩峠英一三十八歳。同じく大手カワダプロダクション所属、お笑い芸人の高吉政弘四十五歳。芸能プロダクションヤザキ所属、陣幕譲四十一歳。ジャイアントプロ所属タレント早乙女高志三十三歳。同じく岡村博人二十八歳が容疑対象者です。それと仲の良いと思われる女性のタレントと女子アナです。女芸人から春日千恵美三十二歳。綿貫明子二十八歳。後藤冬子四十三歳。小久保よし子四十五歳。小鹿優四十四歳。あと雑誌モデルでタレント吉原詩織二十六歳。田畑ココミ二十五歳。女子アナからは沖葉月二十六歳。こんなところです」
植松警部に目を向けた。
「では、この線で辿っていきましょうか」
植松警部は慣用椅に子座り、言った。
「全員が容疑者、て、ことで捜査開始しますか」
篠田刑事が聞いた。
「そうだな」
古川刑事が向き直り、篠田刑事に目を向けた。
「スマホの発進着信履歴を開いてみましたけど、SNSのラインやメールでも仕事関係の人ばかりで、これと言った怪しい話はなかったですね」
「隠語で話しをしていた形跡もなかったのかね」
「そうですね」
「じゃなく」
「では、もう一度調べ直してみますよ」
「一語一句見落とさずに頼むな」
「はい」
一番後に座る野沢婦警が手を挙げた。
「植松警部長。女性の方はどうしましょうか」
「女子は容疑者から外して参考意見を聞けばいいでしょ」
「わかりました」
腰を下ろした。
一時間弱で情報は出終わった。
「では、会議終了して捜査開始します」
古川刑事がハンドポインターを黒板に置いた。
はい!
全員が返事をした。
「明日から聞き込みを開始するから、何班に分かれて捜査しましょぅ」
植松警部警が檄を飛ばした。
はい!
「では二人組で回るので組み合わせを決めますよ」
はい!
「犯人は【ゴールデンなんです】出演者の中に一人だと思うけど、もしかしたら複数いるのかしれないので聞き込みは慎重にして、一言たりとも聞き逃さないようにメモ取りをしてくださいね」
万年筆で書く真似をした。
分かりました、と全員が言った。
「警部。今日はNSKTV局には誰が行きすか」
古川刑事が聞いた。
「人選はあなたに任せるので決めてください」
「そうですか」
「お願いしますね」
「今決めた方がいいですか」
「そうね」
「では、テレビ局担当は篠田刑事と里見刑事にお願いします」
はい!
「男子芸人は山下刑事と私が担当します」
「女子芸人は野沢婦警でお願いします」
はい!
「一人では多変だから、私も行きましょう」
植松警部が言った。宜しいのですか」
「本部にいなくて宜しいのですか」
「たまには外回りもしないと、勘が鈍りますからね」
「では、お願いします」
「和加さんいいわよね」
「もちろんです」
「以上です。では、よろしくお願いします」
頭を軽く下げて解散した。
******
聞き込みが終わり、四時に事務所に戻った。
「明日警部のとこに行って、こちらの集めた情報を報告しなければならないから、二人とも来てくれるかい」
会議兼用のソファーに座り、二人を交互に目を向けた。
「犯人につながる決め手の話は聞けなかったので、電話でもいいと思いますが」
亘が横着のことを言った。
「警察にも容疑者の情報が集まっていると思うから聞きに行くのよ」
「そうですね」
「香蓮親分もいいよね」
「警部に会いたいので、喜んで行かせてもらいます」
「だいぶ気に入ったみたいだね」
「なぜか、警部や刑事さんたちの顔を見ていると、江戸の町に戻った気がするのですよ」
「帰りたいかい」
「九兵衛も気になるので一日も早く帰りたいです」
「こればかりはどうにもならないから、焦らず生きていれば何かのきっかけで戻れるかもしれないよ」
何の保証もないが、とりあえず慰めるしかなかった。
「そうだといいのですが」
視線をそらして目を伏せた。
「必ず帰れるからね」
言ってはみたが、涙が潤むと不憫でならなかった。
「おはようございます」
午前十時に三人で警察署に向かった。
「ご苦労さまです」
事務係の沢田婦警が言った。
「植松警部は」
「いますよ」
「では、行ってみます」
「はい」
東山がドアを三回ノックした。
「どうぞ」
「おはようございます」
「ご苦労さまです」
資料に通す目を留め、腰を上げた。
「どうぞ」
ソファーを示し、一人掛けに座り、三人が長椅子に腰を下ろした。
ドアをノックし、野沢和加婦警が香蓮の横に腰を下ろした。
「昨日、現場のアパートに行って両隣と真下の住人に聞いてきましたよ」
「それでどうでした」
「三人の話を総合すると犯行時間は十時半から十一時半ごろまでは、人の話し声や物音は聞こえなかったそうですね」
「そうですか」
「鑑識の結果はどうでしたか」
「結果が出るまでは早くても十日はかかるから、遅くなると一ヶ月以上になりますね。
だからそれまで待たないとだめね」
「一致したら間違いないですね」
「この時間帯に声も音も聞いていないのね」
「プレミアムフライディーですから、友達と遊んで帰りが遅かったのですが、酔っていたり風呂に入っていたりで部屋にいても、十時から十二時までの肝心なところは記憶が抜けているのですよ」
「仕方ないわね」
「警部の方は容疑者の目星はついているのですか」
「まだ、参考人として聞くのよ。それに、赤の他人の犯行ではないのが分かっているので仕事の交友関係から洗うつもりよ」
「誰か浮かび上がっていますか」
「テレビ局側だと殿山武、桑原周作、若狭良樹で、タレント側だと西原幸次、大菩薩峠英一、高吉政弘、陣幕譲、早乙女高志、それと岡村博人などが引っ掛かっているのよ」
「話は聞かれたのですか」
「一人ずつ呼んで聞くつもりよ」
「私たちも参加して宜しいでしょぅか」
「もちろんよ」
「ありがとうございます」
「香蓮ちゃんの名推理も聞きたいしね」
聞き入る目に熱い視線を送った。
「お奉行様にそう言われると有難いです」
嬉しさで鳥肌が立った。
「期待しているから頑張ってね」
「はい」
頼りにされているのを感じ、改めて気を引き締めた。
「誰から聞きますか」
東山が聞いた。
「男性タレントは男が聞きて、女性の方は和加さんと香蓮ちゃんに行ってもらおうと思っているのよ」
「その方が本当の話が聞けますね」
「香蓮ちゃんが行ってくれるなら、私は本部で吉報を待っているわ。和加さん。それでいわね」
「警部の期待に応えられる情報を集めてきます」
腰を上げ、敬礼をした
NSKTV局に全員が集まる打ち合わせの時に早めに来てもらい、話を聞いた。
テレビ局側にはアリバイがあり、白と判断した。
時間に制限のない出入り業者のタレントから話を聞いた。
飲み会の後に「飲みたらないので一人で二次会に行った。酒を抜くためにサウナに行った。毎日健康ジムに行った。一人カラオケに行った」などあやふやで、不明なタレントばかりだったので、時間が取れる時に改めて聞くことにした。
「一度解散しているけど、その後の足取りが分からないのよ」
和加警察が言った。
「証人がいないですからね」
東山が言った。
「そうなると全員アリバイがないと言えますね」
亘が言った。
「一緒に帰った人が誰もいないのよ」
和加警部が言った。
「次からは手分けして一人ずつ聞くほかないですね」
東山が言った。
「そうね」
「矢崎雅美は万年お局でしたよね」
東山が言った。
「どこかで見とことがあったと思ったら、タレントだったのよね」
植松警部が言った。
「金曜日のレギュラーです」
亘が言った。
「では東山先生方はレギューたちを洗ってみてくださる」
植松警部が言った。
「分かりました」
東山が言った。
「犯人はモデル系の美女がたくさん共演しているのに、なぜ往年の醜女を選だのかしら」
植松警部が不思議な顔で言った。
「そこが謎なのですよ」
東山が言った。
「一人ひとり洗うしかないわね」
「また、野沢婦警と親分で矢崎被害者と仲の良かった男性はいないか、女性に聞いてみたらどうですか」
亘が言った。
「女性が聞いた方が話しやすいですものね」
植松警部が同意した。
女子芸人の控室に行って話を聞くことになった。
矢崎雅美被害者の妹分、後藤冬子の控室に行った。
和加婦警がドアを三回ノックした。
「はい」
「おはようございます」
メイクをする背中に言った。
「おはようございます」
鏡で和加婦警を見て言った。
「お忙しいところ申し訳ございません」
「どういたしまして」
テッシュで顔を拭き、向き直った。
「どうぞお座りください」
食い残しが置いてあるテーブルを示した。
ありがとうございます、と二人で慣用椅子に腰かけた。
「矢崎被害者のことでお話をお聞かせいただきたく参りました」
「何時までかかりますか」
「それほどではありませんので、思い当たることがありましたらお聞かせください」
腕時計に視線を落とした。
「何を聞きたいのですか」
「では、お聞きします」
「どうぞ」
「矢崎雅美さんは独身でしたが、お付き合いしていた方はいらっしゃいましたか」
「若い時は、かなり粋な噂を流してゴシップ誌を楽しませてくれましたけど、五十代に入ってからはほとんどと言っていい程なくなりましたね」
「結婚相手になるまでの付き合いはなかった。て、ことですか」
「そうだと思います」
「そうですか」
「そう言えば、飲み会の時の話だったのですが……」
「私さ。女を捨てて芸を磨いて頑張たんだけど、それが実ってどうにか目が出て今は人気者になったでしょ」
「そうですね」
「それでさ。結婚しようと思ったのよ」
「ふうぅん」
「それでさ。誰かいい人がいたら紹介してくれる」
「あれだけ浮名を流した人が、冗談ですよね」
後輩の綿貫明子が言った。
「今度は本気よ」
「なら見つかりますね」
「でも、自分に合った人がいないのよ」
「今までの人はどうしたの」
「帯に短し襷に長しで、漫画のだめんずうぉーかーで、私の理想とはかけ離れていたのよ。でも、戸籍は一度も汚していないから、死ぬまでに一度は姓を変えてみないと寂しいわよね」
「それで遊びで付き合っていたのですか」
「後腐れがないよぅに分かれる時は金を払っていたのよ」
「トラブルはなかったのですね」
「そうなのよ」
「良かったじゃないですか」
「もう還暦でしょ。一人暮らしも終活が近づいてきたから、お墓の一つも建てたいと思っているのよ」
「お金があるのだから、この際アパートから出て高級老人ホームにでも入ったらどうですか」
「それも考えたのよ。でも、あと十年経ったらそれもいいけど、やはり結婚してもいいかな、と思い直したのよ」
「離婚歴があると、また別れると敬遠されて祝儀をもらえないですものね」
「確かにもらいづらくなるよね」
「今までがそうでしょぅ」
後藤が祝儀泥棒の顔を思い浮かべた。
「でも、焦ると結婚詐欺に引っ掛かるから、興信所で十分調査してもらった方がいいと思いますよ」
綿貫明子が言った。
「付き合ってから『この人なら』と思うけど、年を取ると胡散臭いところがある人しかないのよね」
「私もその年に近くなって来たから、多くなったような気がしますよ」
「もしかしたら、外国にいるのかもしれないわね」
後藤が言った。
「外国人の方は話が通じないだけ、もっと危ないわよ」
綿貫明子が言った。
「外タレも日本語を習ってきているけど、妻子持ちが多いものね」
しんみりした口調で言った。
******
「と、結婚相手に悩んでいたみたいですよ。それと、女西遊記の二時間スペシャルドラマがあるらしく、それに出演が決まっていたらしいですよ」
「主役ですか」
「まさか。還暦の女が主役にはなれませんよ」
「そりゃそうですね」
馬鹿なことを聞いた、と苦笑いを浮かべた。
「猿顔だから親分らしいですよ」
「三蔵法師も女性ですか」
「佐藤詩織ちゃんがやるみたいですよ」
「彼女は今人気上昇中ですものね。でも、出て来た時はやぼったくて鈍くさかったけど、人気が出てきたらセンスが良くなりましね」
「プロのスタイリストがついたのでしょ」
「そうだと思いすね」
「出演料上がったのでしょ」
「そうかもしれませんね」
「華道家の先生も出た時は薄汚いおねぇに見たけど、人気が出たら小奇麗になりましたものね」
「よく覚えていますね」
「面白くて毎週観ていましたよ」
「そうですか」
「今は輝いていますものね」
「優秀なスタイリストがついたと思いますよ」
「でしょうね」
頷き、一息入れた。
「横道にそれてすいません」
「いいですよ」
「その後どうなったのですか」
「脇役もほぼ決まっているらしいのですが、主役の孫悟空が決まらなくて話しが頓挫しているのですよ」
「芸人さんでも猿顔で人気のある若い女性はいませんものね」
「そうなのですよ」
「ちなみに、お共の猪八戒や沙悟浄は誰がやるのですか」
「候補に挙がっているのが八戒は安西夏ちゃんで沙悟浄は牧村褌さんですよ」
「なんか、適役ばかりですね」
体型を思い浮かべ、亘が言った。
「それに、金閣が豚松直子ちゃんで銀閣が決まっていなくて、牛魔王がプロレスラーのラジャババコングさんですよ」
「なるほど」
天井に目を向け、一息入れた。
「で、お釈迦様は」
「コマツ・スタンダードさんですね」
「これだけ適役が揃うと、当たりそうですね」
「だと思いますよ」
「後藤さんは出ないのですか」
「喜劇ですから酒場の主で出られそうですよ」
「それは良かったですね」
「ありがとうございます」
「少し関係ないことをお聞きしますが宜しいですか」
「私に答えられることならいいですよ」
「バラエティー番組などを観ていると、どこの局も人気のある同じタレントさんが出てきますけど、あれは一ヶ所に集めて観光バスかなんかで移動していくのですかね」
「どうですかね」
「一本撮りで解散ではなく、何本か撮るのではないのですか」
「それはありますね」
「レギュラー以外は一本ずつ交代で番組を作っているのではないかと思うのですよ」
「それだと効率がいいですけど、どうしてそう思うのですか」
「なんとなく、座っている場所で分かるのですよ」
「よく、観ていますね」
「何事にも名前と顔は確実に覚えないと、探偵業は務まりませんからね」
「勉強になりました」
質問をぼやかした。
「ゴールデンなんです、の出演者とは、お付き合いしていた人はいませんでしたか」
香蓮が聞いた。
「どうかな」
「西原さんは年齢的に見ると既婚者でしょぅか」
「若い時に不倫の噂さが流れて、かなりメディアから叩かれていましたからね」
「そんなのことがあったのですか」
「本人に言わせると【浮気ばれ営業自粛秋の海】と一句詠みたいところじゃないですかね。ひと夏の恋の終わりなら青春の良き思い出になるとこですけどね」
「花火が火遊びになって大火傷をしたわけですね」
「痛い思いをしただけで売れ子芸人としたら洒落にもなりませんからね。それからは二度と女遊びはしなくなりましたよ。今では子煩悩の愛妻家ですよ」
「で、奥方様は美人ですか」
「元、化粧品会社の専属モデルでしたから、かなりの美形ですよ」
「浮気などしなくなりますね」
「飲み会が終わると、ホステスがいる店に誘われても行かず、帰えりますからね」
「あと大菩薩峠英一さんは独身ですか」
「そうです」
「だと、遊びは盛んですね」
「ボルタリンが趣味で、週に三回はジムに通っていたみたいですね」
「それで細身なのですね」
「猿、そのものですよ」
片頬をつらせ、白い歯を見せた。
「手足の指は強いですね」
「握力など測っているところを見たことがないですからね。でも、あれだけの絶壁を登るのですから、かなり強いのではないですかね」
「女性関係はどうでした」
「一時、世間を賑わせたアダルト女優と付き合っていたみたいですけど、結局相手は金目だったので、だいぶ慰謝料を取れみたいですよ」
「性格はどうですか」
野沢婦警が聞いた。
「と言うと」
「明るい方ですか」
「付き合ったことがないから分からないけど、あれで女性にはまめでしたよ」
「いつも癇癪起こしたような喋り方をしていますが、あれは漫才の演技ですか」
「そうだと思いますね」
「趣味はボルタリングだけですか」
「酒は付き合い程度飲めるけど、ギャンブルはやらなかったみたいですね」
「他の方々はどうですか」
「高吉さんは他局のMCを何本か持っていて忙しくて、恋愛などしている暇などないのではないですかね」
「そう言えば他局の人気番組で観ますよね」
「それに後輩芸人の面倒見も良く、他のプロダクション所属の芸人仲間に評判がいいから、悪く言う人はいませんね」
「陣幕譲氏は関西芸人の漫才天下取りで優勝したから天狗になりましたね」
「先輩たち叩かれてからはおとなしくなりましたよ」
眉を動かせず答えた。
「その他、トラブルめいた話はなかったですか」
「グラビアモデルで女優の石倉真紀さんと離婚したので、バツイチぐらいですね」
「ありましたね」
「あの時も『全部僕が悪いのです』と記者会見を開き謝ったので、あまり世間様から叩かれず済んだみたいですよ」
「早乙女高志さんはどうですか」
「彼は今一番勢いのあるコニーズエンターテインメントプロダクション所属で、マネージャーもしっかりした人が担当ですからね。もし、トラブルを起こすとクビになるから悪いことできないと思いますよ」
「昔は多かったですものね」
「企業イメージを上げるためにも、新人オーディションの人選は厳しくなっているみたいですよ」
「岡村博さんは」
「早乙女高志さんと同じプロダクションですので、女性関係には気を付けているみたいですよ」
「二人とも親しい女性タレントはないなかったのですね」
「今のところは聞いていませんね」
「そうですか」
「この方は洒落た格好しているけど、やはり婦警さんなのですか」
香蓮に目を向けた。
「探偵です」
「なんか江戸時代から飛び出し、令和時代のファションに変えたみたいですね」
「かっこいいでしょ」
野沢婦警が言った。
「美人だから女優さんみたいですよ」
「香蓮親分は劇団にいるのですが、それだけでは食えなくて東山事務所にアルバイトで働いているのですよ」
「どこのですか」
「と、言われても?」
口から出まかせだったので返事に困った。
「そんなに無名なのですか」
「時代劇を見せる、どさ回りの劇団です」
適当に言った。
「それなら、うちの事務所に来なさいよ。顔立ちがアニメ顔だから、すぐトップスターになれるわよ」
リップサービス抜きで、ほめ殺しした。
「なるほど」
「芸人だと漫画顔の方が売れますからね」
「聞いていいですか」
香蓮が手を挙げた。
「なんですか」
「アニメ顔とどう違うのですか」
「かわいく描くのが女優で、面白くするのが女芸人じゃないですかね」
「分かりやすい説明ですね」
「うちに来ない」
「考えておきます」
「腹が決まったら連絡してね」
似顔絵入りの派手な名刺を渡した。
「はい」
時間がなくなりここで終った。
「また、話を聞かせてもらって宜しいでしょうか」
「スケジュールが開いている時間なら、いつでもいいですよ」
「その時はお願いします」
「はい」
「ありがとうございました」
NSKTV局を出て駅に向かった。