12月の夜空は寒い。
梅田の東通り商店街は、12時を回ってもお酒の入ったスーツ姿の人々で場を暖めていた。
僕はそういった輩にも目も暮れず、ひたすら宛無き目的地へと自転車を走らせるのだった。
右手には明日の朝、食べるもりのパンとコーヒー。
コーヒーは元々冷たかったが、この寒さが手伝って更にキンキンとなっている。
そして防寒具としては何とも頼りないボロボロの会社の作業着を着て、寒空を彷徨っているとなんだか泣けてくる。
これじゃまるでホームレスだ。
というか、今晩は本当に家に帰れないのだ。
何故なら家の鍵を無くしたから。
取引先のお客に呼ばれ、芦屋の高級カニ料理店でたらふくカニをごちそうになったまでは良かった。
梅田に戻り、上機嫌でマンションに帰って扉を開けようとポケットをまさぐるも何の因果か、鍵が無い。
半べそかきながら、彼女に連絡をとるもがんばれとコンパクトか無駄の無い男気あふれるエールを頂戴した。
このままでは凍死はまぬがれない。
今夜の宿を探すべしと思い立ち、彼女との電話を切って自転車を走りだした。
その直後、どこでどうなったのか靴ひもが何かに絡まり、そのままチャリごと夜道のアスファルトに体が叩き付けられてしまう始末。
いでに朝食も道路にブチまけてしまった。
家に入れず、チャリでこけるなんて。
しばらくアスファルトの上で仰向けになり、夜空を見上げてるとなんだか三途の川が見えた気がしたので、あわててネットカフェへと逃げ込んだ。
ネットカフェは暖かい。
時計はこの時、1時を回っていた。
深い眠りにいたのもかの間、突然地響きに似た何かを体に感じ取って飛び起きた。
あわてて時計を確認すると深夜2時だった。
反射的に地響きの正体を確認したところ、それは隣のブースに入っているサラリーマン男性のいびきだった。
彼のいびきは翌朝6時まで続き、その間、僕は隣のブースで毛布片手に今や遅しと彼の顔に毛布をかけるタイミングを見計らっていた。
結局、サラリーマンとの不毛か意味不明な攻防戦が続き、不眠不休のまま職場へ向かうことにした。
最悪な一日だ。
そう嘆きながら我が自転車を走らせようとすると、なぜかチェーンが外れている。
もはや発する言葉も無く、黙々と手を油で汚しながら修復して職場へ向かった。
気を取り直して現場へ直行すると不思議と穏やかな気分になり業者さんとも会話が弾む。
昨日が駄目でも今日があるじゃないか。
今日からうまくやっていこうぜ。
僕に神様が語りかけてくれているようで、ふとビートルズのあの名曲が頭の中を流れた。
感傷にひたっていると突如、便意を催し、あわてて僕は近所のモバーガーに駆け込んだ。
そしてその日出た物が、とにかくすごいことになってしまってトイレを詰まらせてしまった。
なんとかなるさ。
きっとそうだろう。
もはやなす術無く、僕は逃亡してしまった。
そんな最悪な一日。
そして、会社から一本の連絡が入った。
来月までに今のマンションを引き払って引っ越してくださいね続く