いつだってそうだった。

あまり物覚えがよくなく、いつもぼんやりとしていた。

小さい頃の記憶も曖昧で、思い出したり消えたりぼやけたり

掠れていったりした。

三上くんのこともそうだ。

思い出したり消えたりぼやけたり霞んだり、する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

机に置かれた飲みかけの珈琲は、もう冷めてしまった。

  

 

   珈琲ね、、、、とつぶやく。

 

口から漏れる珈琲の香りに、心を落ち着かせようとする。

 

そういえば20歳になっても珈琲が飲めなかったよな、紅茶派で、三上くんが珈琲を頼むから

私も飲んでみようと思ったんだっけ、、

 

喫茶店から見えるイルミネーションを見つめながら、麻希は残りの冷めた珈琲を飲み干した。

喫茶店を出ると外は肌寒く身震いした。

足早に通り過ぎていく人混みの中でも、

麻希は三上くんの事を考えていた。

 

今の麻希の趣味は?と聞かれたら、すかさず「三上くんです」と答えるだろう。

それくらい三上くんの事を、いつもどんな時でも考えている。

考えたくないのに、

三上くん三上くん三上くんと想ってしまっている。

 

 

   気持ち悪いな、、

 

そうつぶやいたら、いっそう寂しくなって、いっそう身震いした。

 

 

 

 

ーーーーー18時、噴水前

 えーと、まだ15分前かぁ、、もうちょっと喫茶店に居てもよかったかもしれないなぁ

麻希はケータイを取り出し、三上くんからメールが届いてないか確認した。

 

待ち合わせ場所はいつも決まってここだった。

 月曜日・18時・噴水前

 

彼は大体18時ちょうどにやってくる。

仕事を終え、電車に乗り、ここまでやってくる。

私に会いに、やってくる。

今頃会社を出たところだろうか。

駅の改札で、定期を取り出そうとしているところだろうか。

私の事を、少しでも考えてくれているだろうか。

彼も私に、会いたいと想ってくれているのだろうか。

 

 

  会いたいな、、、

 

つぶやいたら胸がきゅっとして、涙が出そうになった。

重症だ。

 

噴水前はあまり賑わってはいなく、

閑散としていた。

 

 

(つづく)