遁甲盤(とんこうばん)という言葉

 

 

遁甲盤という言葉には、

少し不思議な響きがあります。
けれどその歴史はとても長く、

実は古代中国の戦いに用いられらた、

と言われています。
遁甲とは、古代中国の陰陽五行説に基づく

占術・呪術の一つで、
特に「奇門遁甲」(きもん とんこう)が有名です。

これは、特定の時間・方位を

「吉」として捉え、行動することで開運を呼び込むとされ、
『三国志』の諸葛孔明が

戦略に用いたとも伝わる「方位術」です。





まだ地図も羅針盤も十分でなかった時代。
人々は空を見上げ、

風を読み、

大地の気配を感じ取って、
「どこへ進めばよいか」

を判断していました。



その中で遁甲盤は、

「気の流れから勝機を読む術」

として用いられました。
戦に勝つためだけではなく、
無益な争いを避けるために、

どの道を選ぶべきか。
大切な兵が疲れきらないよう、

どの方角へ退くべきか。


「動くべき時と、止まるべき時」
「進む方角と、避ける方角」
を伝える羅針盤のような

役割だったのです。



けれど、本当に深いところでは、
それは戦のための術ではなく、
「人が無理なく、自分らしく生きるための知恵」

でした。




時が流れ、

争いの時代が終わったあと、
遁甲は人々の暮らしや、

心の整え方へと静かに受け継がれていきます。


いま、

私たちが遁甲盤に触れる

ということは、
もはや 大きな戦いを

征するためではありません。
むしろ、

日々の中でおこる小さな揺らぎと向き合うため。


たとえば、
心が少し重たく感じる日。
未来がぼんやりと見えない日。
自分のペースがつかめない日。


そんなとき、遁甲盤はそっと囁きます。


「いまは、休むときだよ。」
「今日は、少しだけ前に進んでみよう。」


それは決して強制ではなく、
責めもしない、誰とも比べもしない。

ただ、「あなたがあなたに還る道」を指し示すだけ。



吉方位に向かって散歩をする。
お気に入りのカフェで一息つく。
新しい靴で、ゆっくり歩きだす。

たったそれだけのことでも、
心は静かに整っていきます。

遁甲盤は、

人生の「戦い」に勝つためではなく、
心が平和に帰る場所へ

導いてくれる地図なのです。


どうか、迷ったときは、

またそっと開いてみてくださいね。
あなたの歩幅で、あなたの道を。