長らくご無沙汰しております。

実は数年前から、原稿書き仕事をスタートさせてしまいまして(クローズドの案件なので、どっかの雑誌とかとかではないのですが)、そちらの仕事が忙しいのと、コンプラの関係で書けないネタが増えているのとで、なかなか書けずにおりました。今も、進めないといけない原稿が溜まりに溜まっているので、こんなの書いてる場合じゃないのですけど、これだけは書きたいと思ってペンを取るというか、キーボードに向かっております。

 

というのも、先日、新宿をぶらぶら歩いていたら、デジタルサイネージ広告がドカンと出ていまして、そこに表示された製品コピーに、久々に「その手があったかーー!!」と感動したからなのです。

 

とまあ、その前に、まず、化粧品広告の基礎知識を少しだけ共有させてください。

 

日本の化粧品の広告表現には、大きく2つの制限がかかっています。1つは薬機法によるもので、これは「医薬品的な効能表現を禁ずる」というもの。化粧品は薬ではないという大前提があり、では薬と化粧品は何が違うかというと、薬は「身体が悪い状態であったものを良い状態に改善させる」というものであり、「身体に生理的な変化をもたらすもの」という概念があります。逆に化粧品は薬ではないので、作用は限定的で、基本的に身体を生理的に変化させません。例えば「潤いを与える」は、水分を物理的に与えているだけで、これが「潤いを保つ肌になる」とやっちゃうと「肌が変質した」となり、薬機法的にNGになってしまうわけです。

 

一方、医薬部外品では、限定的に作用表現が許されていて、最近では「しわ改善」が盛んに言われていますが、これなどはシワ改善効果が認められたから言える、超限定的な話なわけですし、その表現方法にも厳しい規制がかかっています。シワに「超効く」みたいな表現はNGになる可能性が高い。あくまで既定の文言のみ使えます、みたいな規制があるわけです。この辺は、もう1つの規制である景表法の規制にも絡んできます。

 

というわけで、化粧品の効能効果とか、この化粧品ってすごくいいんだよ、みたいなことを消費者に伝えるのは至難の業で、コピーライティング担当は、薬事担当と喧々諤々、日々脳みそをふり絞るわけです。私の場合は、薬事担当とマーケティングを兼任していたので、コピーライトや広告表現の作成にも関わっていて、悶々としていたので、この分野には非常に思い入れがあります。

 

私が過去にすげ~~と思った名コピーの1つは、20年以上前にロート製薬が打ち出してきた

 

「プラチナは錆びません」

 

というコピー。

 

当時、活性酸素による肌の酸化が、皮膚老化の第一原因と考えられていて、抗酸化作用のあるプラチナで、肌が錆びる(酸化する)のを防ぐ、というアプローチが流行っていました。ところが、「肌の抗酸化」「肌の酸化を防ぐ/回復させる(これを「錆びさせない」と表現していた)」は、薬機法(当時は薬事法)的にNGとされ、「肌錆び」という表現が、一斉に止められる事態となりました。

 

その前までは、資生堂とかバシバシ言ってたんですが、まあ、肌の酸化防止はNGだよね、生理活性だもんね、ということで、「錆び」は使えねーかー、と、業界全体があきらめていたところへの、先のコピー。

 

「プラチナは錆びません」

いやああ、雑誌で見たときは、思わず、うおおおおと唸りましたね。

だって、まったくそのままですよ。プラチナは錆びないもん。肌になんかするとか一言もいってないし、事実だから景表法に言う優良誤認にも虚偽表示にもならない。どなたが考えたコピーか知らないけど、ほんとすごい。

 

まあ、話のついでにいうと、このコピーが出た3か月後に、某通販メインのDで始まる会社が

「錆びないプラチナ配合」

というコピーで大々的に広告打ってきて、別の意味ですげえな、と感心したり。

 

その後も、いろいろ名コピーはあって、薬事を知っている人間から見ると、いやはや皆さん苦労されてはる、俺も頑張らなきゃ、とか思っていたのですけれども。

 

久々に衝撃作が来ましたよ。ポーラ リンクルショット。

やたらと表示名称が長い「ニールワン」という成分を中心に添えた、日本で初めてシワ改善効果で承認を得た美容液の後継機種が出るという話は聞いていました。それが、メディカル セラム デュオ。割と扱いにくい成分という話のニールワンの効果を高めるために、2剤式にしたり、可溶化剤とか工夫したりと、かなり技術的な進化を遂げているようですが(ただ、2剤式って、意外に面倒くさがられて、嫌がられがち・・)

 

それよりコピーですよ奥さん

 

「シワよ、驚け!」

いやはや、シワより先に、俺が驚いたっちゅうの。

驚きのあまり、デジタルサイネージ広告を写メってしまいました。ちょっと不思議そうな目で見てる外人さんいたけど、まあ、仕方ない。

 

効けば効果も高くなっているらしいとのことですが、いやはや、中身はともかく、コピーに驚いた。

という、マニアックなお話でした。

 

 

楽天あたりで買うと、正規流通よりだいぶ安く買えるぽいですが、それよりなにより、使ってみて、ほんとにシワが驚くのかが興味津々。どなたが使って驚いた方いらっしゃったら、ぜひご一報下さい。

 

従来品も、ちゃんと売ってます

 

実は、薄毛に悩む友人に、今回ご紹介するケアのことを説明したら、なんでそんなんで効くんだ?と疑問を持たれたので、それを説明するには、毛周期の話から、男性ホルモンや酵素、受容体など、さまざまな薄毛にまつわる話を理解させる必要があり(その友人は、男性ホルモン補充療法の副作用で薄毛が生じたと言っていたので)、LINEで説明していたら腱鞘炎になりそうだったので、アメブロ書くから読んで、と言って切ったのがきっかけでした(そこから3か月以上経ってるけど・・・。友よすまぬ)、

 

薄毛のケアには、やはり育毛剤や発毛剤が有効ですが、それ以外では頭皮マッサージも日々の生活に取り入れて損はありません。ただ、もっと簡単にできるやり方があり、その話をさらっと書くつもりで、こんなに長くなってしまいました。いつもながら、お付き合いくださる皆様には、申し訳ないというか、よくお付き合いくださるなと感心するやら。

 

そんなこんなで、今回が本命の、裏技その2です。

「冷水・温水ケア」

なんのこっちゃとお思いでしょうね。私も、このタイトル2分くらい悩みました。コピー書き能力の無さを露呈してしまいます。


名前は私のオリジナル(今回の記事を書くにあたってひねり出した)ですが、実はこのケアは30年以上前に発表され、確か簡易的な臨床試験なども行われ効果を確認されていたはず。某大手頭髪関連サービス系の会社(すみません、微妙な言い回しで)が、効果ありとして発表していたものですが、拍子抜けするほどシンプルなわりに、現在の育毛知識をもとに考えると、なるほどという点が多いものです(そのために、ここまでの長い長い説明があります)。

前置き長いですね。すみません。実は、ものすごい簡単なケアなのです。

まず、温水と冷水を用意します。

一般家庭だと、冷水はシャワーで、温水はお風呂のお湯で十分。お湯といっても、リラックスして浸かれる程度のお湯の温度がベスト。熱すぎるのは、後述しますがかえって逆効果なので気を付けてください。洗髪後でも前でも大丈夫ですが、おすすめは洗髪後。できれば、コンディショナーなどは、後回しにしたほうがいいです。シャワーの温度の切り替えでも対応できます(私はこっち派)。

で、肝心のケアですが、まず冷水を頭にかけます。身体にかかると寒いのと効果が薄れるので、気を付けてください。頭皮を十分に冷やすことが肝心ですが、表面だけ冷えれば十分なので、修行僧みたいに頑張る必要はありません。

頭皮が冷えたら、次に温水をかけます。頭皮がホカホカするくらい。ほっと気持ちが緩む感じを実感してください。このリラックス感も重要です。

ケアの手順は以上で終わり。できれば上記を2~3回繰り返すのが良いのですが、一回でもまあまあ効果はあるようです。すすぎをしつこくする感じなので、髪が乾燥する場合がありますので、コンディショナーなど、アフターケアをお勧めします。もちろん、コンディショナーやヘアパックをきちんと洗い流すのもお忘れなく。

さて、ここからが解説です。

ここまで長い長い前振りにお付き合いいただいた方には、なんだこの気の抜けた「裏技」は!?と思っていらっしゃる方も多いかもしれません。実際、この話をいろんな人にすると、そんなんで何が起こるの?と呆れられます(そして、その説明は非常にめんどくさい)。ですが、この方法は非常に理にかなっています。

実際に行われているのは、血行促進ケアです。

 

頭皮を冷やすことで、血流が悪くなると、人間の身体は頭部に血流を送る必要にかられて血圧が部分的に上がります。身体は常に一定量以上の酸素を必要としていますので、血流が悪くなる(この場合は冷やされて血管が収縮し、細くなる)と酸素が足りなくなるため、少ない経路に多くの血を流すために血圧を上げるのです。そこに、適温のお湯で血管が緩むと、圧力の高まった血が一気に流れますので、頭皮に酸素をはじめとした血流を通じて届けられる栄養素が多く行きわたることになります。

非常にシンプルなメカニズムの、この冷水温水ケアですが、実は(たぶん偶然ですが)非常に良くできている点が多くあります。

まず、血行促進効果は言うまでもなく、髪を育てるには必須のケア。これをやや物理的にやってしまうという点が効果を期待させます。しかも、頭皮をもんだり叩いたりしない分、弱った毛母(ということは無いのですが、髪が薄くなってくると、必要以上に頭皮を触ることにデリケートになるのが人の心情ですよね)に触ることが無いので、安心して実行できます。半ば物理的に血行を促進させているので、おそらく育毛ローションなどより血行促進効果は高いです。

温水、冷水の刺激や、血流が急に良くなる(温水を当てることで)といった変化は、毛母細胞へは刺激になります。これは、休眠期に入ったまま起きてこなくなった毛を目覚めさせる効果があります。また、温水をかけて頭皮を温めるケアをすると、毛穴の中の汚れを落とす効果もあり、これも育毛を阻害する原因の一つである頭皮皮脂の除去に役立ちます。

注意点としては、冷水・温水の温度。あまり極端にしないことがポイントです。特にお湯の方は、温度が高すぎるとかえって皮膚が収縮してしまい、血行促進効果が十分に発揮できない可能性があります。また、高温すぎるお湯は頭皮を必要以上に乾燥させ、これが余分な皮脂の分泌を招く場合があります。冷水で緊張させた頭皮をリラックスさせるのが目的なので、緩む温度を心がけましょう。

この手法は、私の記憶では90年代の最初のころに紹介され、血行促進の部分だけ説明されて推奨されていたのですが、それ以降、あまり見たことがありません。まあ、あまりにもシンプルなケアなので、商売にならんと思われたのかなとも思うのですが、実際のところはどうなのでしょう。良いケアだと思うのですけれど。

ということで、長い長い薄毛ケアの話もこれで終了です。
最後の、このケアのことを書きたくて始めたのに、こんなに長く、ややこしくなってしまいました(←通常運転ともいう)。薄毛は男性にも問題ですが、女性にとっても非常に大きな悩みの1つ。気になっている方には、ケアを始める前に知っておいてほしいなと思うことをまとめています。

 

何かのお役に立てれば、うれしいです。

 

 

とはいえ、頭皮マッサージは髪の毛の質を高めるためにもやって損は無いですね。

 

 

 

 

 

 

男性の多数が、そして最近は女性の方にもお悩みの多い薄毛。一説には仕事や社会のストレスが薄毛に拍車をかけていると。実際、コロナのストレスで髪が薄くなったと回答した人は多くいるようですし、ストレスが女性ホルモンを減退させる(逆に男性ホルモンが増える)ため男性型の脱毛症が女性に発症するのだ、とい説明がされる場合も多く見かけます。

 

 

とかいう社会背景を元に、少し総論的に書いてみようかなと思ったのが運の尽きで、相変わらず終わりの見えない話をダラダラ書く羽目になっているのですが(たまに書くとこんなの)。

 

前回まで、薄毛のメカニズムや実態、毛周期を中心とした現象の説明(実際にはそれだけではないのですが、書ききれないので省略)、育毛剤の種類と効能と上記の薄毛メカニズムとのマッチング、と言った感じでつらつら書いてきているわけですが(気が向いたら1~4をお読みください)ようやく終わりが見えて来ました。

 

ここからが、なかなか書けない、育毛ケアの裏技についてです。

 

3)育毛剤以外の有効なケアについて

ちなみに「業界が出せないでいる情報も少し←というか、そっちがメインかも」なんていう前振りをしていますが、実際、ヘアケア業界は、こういう啓蒙活動をやってないな、というのが私の実感。有益な情報は共有すべきと、私は思うのですが、薬機法と景表法と商習慣等に阻まれているのか、実際にはあまり行われていないのが現状ですね。


業界が書かないならオレが書く

ということで、ここから、このブログならではの「裏技編」に入ります。

ここまでくどくど書いているので、繰り返しになってしまいますが、ざっくりまとめると、育毛・発毛のケアでは重要なポイントが2つあります。

 

 

 

 

 

それは「血行促進」「頭皮への刺激」です。


後者はともかく、現在の育毛剤はほぼすべての製品で血行促進作用のある成分を配合しています。血行が促進され、血流にのって栄養素が毛母にいきわたると、それも一つの刺激になるのだ、という説明を聞いたことがありますが、とにかく現在の育毛・発毛剤は、この部分を重視しています。

逆にいうと、育毛剤を使用しなくても、それができればいいんじゃないか?というのが、今回のテーマ。実は、有効とされるケアが2つあります。

1つは、ものすごくベタな話のように思えますが、頭皮マッサージ

美容師さんやエステティシャンの方と話すと、「頭皮が固くなっていると薄毛になりやすい」という話を良く聞きます。頭皮が固いと栄養がいきわたらないから、という説明をされるのですが、それの真偽はさておき、頭皮は柔らかに越したことは無いよう。実際、薄毛の人や、細い毛の人で頭皮が固い人は多い印象があります(統計データではないので、定かではありません)。

頭皮マッサージの利点は3つあります。

1つは、血行促進効果。

 

頭皮の固さはさておき、適切なマッサージは頭皮の血行を促進させる効果があります。血行促進の育毛に関する効果については、前述の通り。

2つ目は、適度な刺激。

 

これも前述の通りで、発毛には、適度な(一説によると、命の危険を感じるような)刺激が有効ですが、マッサージには、これに相当する効果があるとされています。要は、なんでもいいから刺激して、眠ったままの毛母細胞を目覚めさせるという話ですね。実際に手で触れる、あるいはマッサージブラシなどで触れるという物理的な接触は、細胞にとって大きな刺激になるよう(例えば、ニキビも触ると悪化すると言われますが、これに近い感じ)。どの程度の刺激が「適度」なのかはさておき、時々触れて、もんだりするのは良いようです。

3つ目は、使うマッサージ用の製品にもよるのですが、頭皮皮脂を洗い流す効果が期待できるという点。特に油系のマッサージクリームやオイルなどを使用すると、頭皮の毛穴の中に詰まった皮脂を洗い出す効果が期待できます。

 

万能バームで人気のプロダクト。頭皮用オイルも潔いシンプル設計。スポイトタイプは使いやすくて良いのですが、風呂場で使うときはちょっと気を使ってしまいます(割れたりとか←最近はプラスチック製のスポイトもありますが、オイルとの相性がイマイチだったはず)

 

このくらいの容量あると、気軽に使えてよいかもです。

 

 

バリなどアジアのリゾートに行くと、クリームスパといって、固めのコンディショナーみたいなクリームで髪と頭皮をマッサージしてくれるスパメニューがありますが、これなんかはまさにこのパターン。

頭皮マッサージにはリラックス効果もあるので、人にやってもらうのが一番というのが、私自身の正直な希望ですが、うんと上手な人ならともかく、下手な人にいじられるよりは、自分でやったほうがいいというのが正直なところ。

おすすめは、クリームスパで使うようなコンディショナーではなくて、普通のマッサージオイル。できれば不飽和脂肪酸の入っていない、スクワランやホホバ油ですが、まあ洗い流すので、そこまで気にしなくてもよいかもしれません。マッサージしている間に、オイルに頭皮皮脂が溶け込むので、毛穴の中の脂や、酸化して固くなった脂も無理なく取り去ることができます。毛穴の中の参加した脂は、特に過酸化脂質になってしまうと、毛穴の中に炎症を起こし抜け毛の原因となると知られています。

 

私の記憶では、ライオンさんがその昔、論文を発表されていて、毛穴の中の皮脂洗浄がいかに薄毛対策に有効か、ということを説明されていました(10年以上前のフレグランスジャーナル誌)。

 

頭皮が脂っぽくて薄毛の方は、ぜひ一度お試しいただきたいと思います。

 

ちなみに、オイルで頭皮マッサージしてからシャンプーすると、頭皮が乾燥しすぎず、また髪も過剰に洗われることが無いので、つやつやしっとり洗いあがるというメリットもあります。髪がパサつきがち、という人や、ダメージが気になる方は、薄毛対策としてではなく、お試しください。

まあ、気を付けるとしたら、オイルでお風呂で滑って転ばないように、という点と、マッサージが終わったらきちんと洗い流すこと(こことても重要!)。冗談みたいな話ですが、大昔にインバス(お風呂場の中)で使用するトリートメントオイルがあり、シリコンを多く含んだオイルだったため風呂場で滑り、大けがしたという事件が本当にあったとのこと。気を付けてくださいね(さすがに最近は、お風呂で使う製品に、高分子シリコンを大量配合するような処方は見られなくなりましたが、90年代には普通に販売されていたりしていたのです)

と、頭皮マッサージの話がやたら長くなってしまいましたが、裏技その2もあります。ということで、次回最終回(やっと終わる・・・)

 

 

 

 

 

 

今回は最初から長くなるだろうなと思って、なるべく端折りながら書いているはずだったのですが、いかんせん長くかかわっている分野でもあるので、どうしても長くなってしまい。実は予定では4回くらいかなと思っていたんですが、全然終わりません・・・

 

ということで、薄毛対策の話。

 

前回まで、毛周期の説明とか、薄毛とは何かとか、育毛剤のメカニズムとか、まあ、誰も書かんわなな、ややこしい情報をかいつまんで説明してきたわけですが(読んでて、かいつまんでるとは思われないかもしれませんが、かなり端折ってます。研究の人が読んだら怒られるレベル)、今回は前回に引き続き育毛剤の話を。

 

現在の育毛剤(発毛剤も含む)の主たるメカニズムと、だいたい以下の4つに分けられると思います。
1.血行促進
2.男性ホルモンの抑制
3.毛母へのエネルギーチャージ
4.毛母への刺激

 

 

 

 

 

まあ、それぞれに細かいメカニズムがあって、その辺を深掘りすると永遠に終わらなくなるわけですが、前回は1~3の説明をしました。今回は4から。

 

4.毛母への刺激
これについては、先の3でも書いた、アデノシンやペンタデカン、ミノキシジルなどが役割を果たしていますが、実はこれら以外にも存在します。


前述の薬剤は、比較的穏やかなのですが、実は血行促進のところで書いたカプサイシンとかメントール、あるいは育毛剤で結構多用されるエタノール(アルコール)などには、別の意味で刺激があり、これが発毛に効果を持っているという説が(アンダーで)存在しています。

ちょっと話はずれますが、私にはポールダンサーの知り合いが結構多くいます。ポールダンスは、ポールに身体を巻き付けて踊るもので、筋力はもちろんですが、摩擦力で身体をキープします。時にはポールを滑り降りるような技もあって、痛くないの?と聞いたら、最初はめちゃくちゃ痛いけど、慣れる、とのこと。見た目に反して、やたら体育会系なダンス(実際、めちゃくちゃきれいな女性が、バリバリ腹筋割れてたり、二の腕が盛り上がってたりするので、相当にハードなスポーツらしいのですけど)です。

 

で、ポールダンサーあるある、という話で聞いたのは、素足や腕を出すので、当然のように徹底して永久脱毛しているのだけど、ポールに擦れる部分に、ある日気が付いたら太い毛が数本生えていた、という経験談。どうやら、肌に刺激があって、それを守るために毛が生えてきたのだろうというのですが、実はこの話と発毛の話は非常に関係が深いのです。

髪の毛も体毛も、身体を守るためのメカニズムとして存在しています。したがって、身体が「守らなくては」となったときに、発毛のスイッチが入るというのです。で、思い出したのが、カネボウ紫電改と、90年代に一瞬流行ったトリカブト成分入りという噂の育毛剤の話。

紫電改(調べたら、大戦中の戦闘機の名前から取っているとか。知らなかった・・)は、確か80年台ごろに流行した漢方成分配合の育毛剤ですが、何より特長的だったのは、育毛剤と一緒に使う専用のブラシが併売されていたこと。育毛剤を頭に塗って、そのブラシで叩くというケアを推奨していたのです。当時研究所にいた人に聞いたのですが、一般にはブラシで刺激を与えましょう、くらいに言っていたのだけど、実際には軽く血がにじむくらいガンガン叩くというのを開発担当者は推奨していて、うっすらかさぶたができると、その下から毛が生えてくるのだ、と言われていました。それって、最後の毛母細胞を殺してるんじゃないの?と、当時は思ったものですが、数年前に某大手の専門の研究者の方と話した際、そのくらいの刺激だと、発毛スイッチが入るのではないか、というようなことをおっしゃっていました。細胞が命の危険を感じて目覚めるのだとか。いや、冗談みたいですが、その方は本気でした。とはいえ、こんなケアは、まったくもってお勧めはしませんけれども。

 

あの、攻めすぎな育毛剤は今は昔のこと。ほっとするような、ちょっと寂しいような・・・

トリカブトの成分が入っているという噂の育毛剤は、あえてここで名前は書きませんが、痩せる石鹸と同じころ(90年代半ば)に、どっと話題になり、すぐに消えた製品。これも、塗ると猛烈に頭皮に刺激があり、人によっては痛くて使えない、という話だったのですが、今にして思うと、そういう「生命の危機」的な刺激が、発毛スイッチをオンにしていたのかなと思います。実際、そんな仮説を、古参の研究者の方と喋ったことがあります。

という意味で、カプサイシンやメントール、エタノールは、そこまでではないにせよ、強めの刺激で「毛母細胞を目覚めさせる」作用があるのでは、と言われています。

 

カプサイシン入りの育毛剤とかあったっけ?と思ったら、ちゃんとありました。数はそんなにないけど、今でもあるんだなあと。ちなみに、メイン成分のキャピキシルは部外品主剤ではないけど、かなりしっかり育毛&脱毛予防(5αリダクターゼ抑制とか)効果がある成分です。

とはいえ、冷静にいうと、生命の危機というだけあって、細胞を殺してしまう危険もあるわけで、刺激によって毛が抜ける可能性も無視できず、こんな危険な賭けに出るのはどうかなというのが正直なところです。

最後に育毛剤の話をもう少しだけ

育毛剤とかスカルプローション類には、エタノールを多く含んでいる製品が意外に多くあります。スキンケアやその他の製品では、エタノールを配合しない処方が主流ですが、育毛剤だけは別で、20%以上入っているものも珍しくありません。これはなぜかというと、理由が二つあります。

1つは浸透性を上げるため。

頭皮は皮脂の量が多い部位として知られています。なので、ローションタイプの製品では、普通の水溶液では弾かれてしまい、浸透しにくいという事実があります。発毛も育毛の毛穴の中で行われるので、そこまで入っていかないと、まったく意味が無いのです。なので、エタノールを配合して、奥へ浸透するように作ります。

 

顔の場合は乳化して浸透性を上げるのですが、頭皮でこれをやると、髪の毛がぺったりしてしまって、そうでなくてもボリューム不足の髪が、、、ということで、この手法が使えないため、エタノールが活躍するわけです。

もう1つはさっぱりさせるため。

これも非常にデリケートな話なのですが、薄毛の人がローションタイプの育毛剤を使う場合、ローションの液が垂れるという問題があります。髪の量が少ないため、液が留まらないからです。したがって、エタノールなどの少ない、しっとりしたタイプの育毛剤を使うと、頭皮に残らず、顔や首に流れてしまうことがあり、クレームになることがあります。エタノール入りだと粘度が低いので、むしろ垂れると思うのですが、さっぱりしていると、あまり気にならないよう。製品テストで使用者の意見を聞いて、なるほどと思った記憶があります。

 

とはいえ、ノンアルコールの育毛剤ももちろん結構な数あります。どちらかというと女性用が多い印象ですね。


とまあ、なんだかんだと書いてきましたが、結局何が言いたいかというと、こういうことを知っておかないと、自分の「薄毛」の対処にあった育毛剤を選べないなということ。

例えば、髪の毛が薄くなったというときに、未成熟毛が多いせいなのか、髪が生えてこないせいなのか、というのは非常に重要なポイントです。また、男性ホルモンをDHTに変える酵素5αリダクターゼの活性や、DHTの需要感度は、残念ながら遺伝すると言われており、これに由来する薄毛なら、遺伝する可能性があります、ということは、このタイプの方は、早めに男性ホルモン関連の育毛対策をやっておいたほうがいいですし、プロペシアなどの飲み薬は効果的と思われます。逆に、皮脂が多く、それが取り切れずに未成熟毛が増えている場合、育毛剤でのケアよりも、シャンプーの習慣をどうにかしたほうが早いし、実際的と思います。

髪はあっても無くても、その人自身の人となりには全く関係ないですし、気にしない人も多いですが、割と多めの男性が非常に気にしています。最近は女性の薄毛も結構な問題になってきて(特に更年期以降の女性の薄毛)、育毛・発毛は見た目を気にする、というレベルを超えているようにも思います。残念ながら、現代の技術をもってしても、いかんともしがたい部分は多いのですが、こうした知識を持って、なるべく有効なケアをしていただきたいなと思うわけです。

ときれいに終わりそうですが、終わりません。ほんとに書きたかった、裏技の話を次回に書きます(つまり、ここまでが長い長い前置きという・・・)

 

 

 

 

 

 

毎度、話が長い(くどい)このブログ。久々に書いたと思ったら、長編かよ、と思っていらっしゃる方も多いかと思いますが、私も思ってます。全然終わりが見えん・・・

 

まあ、薄毛対策、というのは、一大ジャンルですし、悩みが深いですからねえ。日本人男性は特に薄毛を気にしているようで、海外のデータとかをみると、そこまで気にしていない様子。ダイバーシティが進んで、そういうのを気にしなくなったら良いのに、と思いますが、そうなると我々の商売がなあ・・・・

 

とまあ、脱線はほどほどに。

 

前回まで、「化粧品」「医薬品」「医薬部外品」の違いとか、毛周期とは何か、など基本的な話(?)を書いてきたわけですが、ここから育毛剤(めんどくさいので、まとめてこう呼びます)の主たる機能性、というかメカニズムは大きく4種類に分かれるよ、という話。

主たるメカニズムとは以下の4つです。
1.血行促進
2.男性ホルモンの抑制
3.毛母へのエネルギーチャージ
4.毛母への刺激


ちなみに、この辺の話を理解するには、その1で書いた毛周期の話を理解しておく必要がありますので、ご存じない方は是非ご一読ください。まあ、ちょっと検索するとゴロゴロ情報が出てくるので、そちらでご覧いただいてもよいですが(むしろそのほうが図解して合ってわかりやすいかも)

ということで、相変わらず長い前置きを経て、各メカニズムの説明です。

1.血行促進
血管拡張作用などで、血流を増やす成分を配合するタイプです。

 

血行が滞ると、髪が弱くなる(未成熟になりやすい)、抜けやすくなるなどの理屈で、シンプルなメカニズムですが、わかりやすくて良いですね。ほとんどすべての育毛剤にこの成分は入っていると思います。血行を促進させると何が良いかというと、血液は細胞へ栄養を運び、酸素を運んで、働きをサポートするためのもので、これを増やすことで毛根の働きを増強させ、毛が生えやすい状態にするというものです。

 

血行促進作用は、様々な植物エキスでも見られる作用で、最も一般的なのはビタミンE(酢酸トコフェロール)ですが、植物エキスでオタネニンジン、センブリ、トウキなどの漢方成分や、ゲンチアナ、松樹皮エキスなどが知られていて、それぞれ育毛効果もあるとされています。唐辛子の成分で有名なカプサイシンとか、冷感作用で知られるメントールなんかも、作用が知られていて、育毛剤に入っているケースがありますが、こちらは別の話もあります(4で説明します)。

 

こちらは、成分のみならず、ジェットの刺激で血行促進という話も。メントール多めのタイプですね。

 

おなじみミノキシジル配合の医薬品。前回ご紹介したアンファーもそうですが、化粧品メーカー(ロートさんは、厳密には薬会社ですが)が発売するケースがちょっとずつ増えてきています。もっとも、医薬品なので、購入は若干めんどくさいんですけどね。


一説によると、血行促進は発毛にも効果があるとのこと。血行を増やすことで、毛母に刺激を与え、休止期から発毛へと促すというのです。まあ、要は刺激なわけですが・・

2.男性ホルモンの抑制
血行促進と真逆に説明がややこしいのがこちら。


よく、薄毛の原因として男性ホルモン過多とかを指摘されますが、実は男性ホルモンは直接影響しているわけではありません。実際に抜け毛に関係するのはDHT(ジヒドロテストステロン)という物質で、これは男性ホルモン(テストステロン)から5αーリダクターゼという酵素によって生み出されます。なので、男性ホルモンが多くても、この酵素があまり動かなかったり、DHTを感知して毛母細胞を退行期へと導くTGF-βという物質を生産する受容体の感度が低かったりすると、男性ホルモンがいくら多くても薄毛にはなりにくいのです。ややこしいですよね。すでに、理解しにくい専門用語多くて、拒否反応も出ているかと思います。これでも、かなりざっくりなんですけどねえ・・


ということで、「男性ホルモンの抑制」と不正確な書き方をしていますが、ここに注目しているメカニズムには

・男性ホルモンの分泌抑制:
割と知られているのは植物系エストロゲン(女性ホルモン)の成分。ヤム芋の成分や大豆イソフラボン、ザクロなどが有名です。

・5αーリダクターゼの活性阻害:
これによって、男性ホルモンをDHTに変えさせない。DHTにならなければ薄毛の原因にならないという理屈ですね。医薬品のプロペシアはここに効くと言われています。植物エキス系ではレッドクローバーという成分があり、こちらはイソフラボンの一種なのですが、データではかなり効果が高そうでした。

・DHT受容体の阻害:
こちらはあまり知られていませんが、西洋で前立腺肥大の予防として有名なノコギリヤシは、5αリダクターゼ阻害にも有効ですが、こちらのレセプターを阻害する作用もあるのだとか。

・TGF-βの活性阻害;
抜け毛の原因になる、退行期への移行を指示する物質を阻害することで、健全な髪の育成を守るというメカニズム。ここまで来ると、水際作戦という感がありますが、花王のT-フラバノンという成分は、ここに効果を発揮するのだとか。他にも、このTGF-βが毛母細胞に作用するための受容体(毛母細胞側。もうほんとに水際)をガードするペプチドなんてものもあります。

 

余計なお世話ですが、バイタルなんて名前、良く通ったなと。最近の申請ではまず通過しない名前だなあと←ほんとに余計な情報


実際には、間接的に効果のあることとして、頭皮を清潔に保ち、頭皮皮脂を酸化させないというのも非常に重要なポイント。頭皮皮脂が酸化されると、上記の薄毛(脱毛)のメカニズムに作用してしまうという研究結果があります。薄毛の人は、髪が抜けるのを怖がるあまり、頭皮をしっかり洗わないという人が、まあまあいらっしゃいます。頭皮が透けている男性で、見るからに脂でテカっている人を見かけることがありますが(最近はずいぶん少なくなりましたけれど)、話を聞くと、洗って流すときに毛が流れていくのがイヤだから、と聞いたことがあり、いやいや豪速で逆効果だから!と思った記憶があります。

 

という部分に着目して、一時はものすごい売り上げだったというスカルプD


ああ、予想通り、個々のパートがエライことに・・・

3.毛母へのエネルギーチャージ
ここは、2つのポイントがあって、「休止期の毛母細胞を目覚めさせる」というコンセプト(これは、実際には次の4になります)と「発毛から成長期のサポート」ですが、主力は後者です。


ここにターゲットを絞った成分となると、最も有名なのは資生堂のアデノシン。毛母細胞の活性化により成長期毛をサポートするのが主たるメカニズムで、要するに髪が太く、しっかり成長するのを助けるというもの。発毛した後、成長しきれずに未成熟毛のまま抜け落ちてしまうのを防ぐ、というと、若干インパクト薄い感じですが(と思うのは私だけ?)、先の毛周期のことを考えると、これは非常に重要なポイント。アデノシンの場合は、こうした機能を細胞レベルで研究し、サイトカインとかいろいろ見ているので、信頼できるという点も評価高いです(上から目線ですみません)。実際には、毛母細胞を刺激するという点で、発毛にも寄与していると言われています。

 


実は、このコンセプトの成分は比較的昔からあって、最初に出したのはライオンのペンタデカンという製品と記憶しています(確か、80年台)。

 

ペンタデカン酸グリセリドという成分が、毛母細胞にエネルギーを与え、発毛・育毛を強力にサポートするというものでした。この製品、実際に本当に良く効いて、裏情報では当時の育毛剤の中では抜群だったらしいのですが、その後、申請ミスやら実験の不手際とかが見つかって、発売中止になったという歴史があります(L社の黒歴史)。現在は、これまた発毛系の成分である、サイトプリン(植物を生やすということで有名な成分)を追加して、イノベートという製品で販売されていますが、知名度はイマイチな感じ。惜しいことです。

 

 

実は、薬用成分であるミノキシジルも、ほぼ同様の作用。こちらは、強力な血管拡張作用もあり、毛母細胞に血液に乗せて栄養を届けるというのが主たるメカニズムとされていますが、毛包を育てることで成長期毛をサポートし、成熟させる役割もあります。

一般には、こうした「成長期毛のサポート/髪の毛の成熟化をサポート」が「育毛」なのですが、実際には、次の「発毛」との関連性が強く、このあたりが混ざってしまっていますね。

 

ミノキシジルは「発毛剤」ですが、どうもメカニズムを見ると育毛の機能も強そうだし、アデノシンやペンタデカンは「育毛剤」なのですが、発毛にも関与していたりと、なかなかに混乱しています。

 

ということで、長くなったので、実は本命でネタ豊富な「毛母への刺激」は次回で。