⑱より続き…
2部 お芝居 通し狂言 三浦屋孫次郎
*配役*
笹川一家
親分 繁蔵*豊島屋虎太朗さん
茂蔵の女房 おしげ*矢島京子さん
代貸 勢力富五郎*劇団大川 椿裕二座長
子分*豊島屋虎太朗さん
子分*片岡桔梗さん
子分*片岡扇竜さん
飯岡一家
親分 助五郎*真城匠さん
三浦屋孫次郎*片岡梅之助総座長
成田*片岡大五郎二代目座長
子分*片岡桔梗さん
子分*片岡扇竜さん
料理屋 女中*片岡小梅さん
*あらすじ*
1幕*飯岡一家
笹川繁蔵に縄張りの事で意見された飯岡助五郎は、面白くない。
「繁蔵に恥をかかされた。喧嘩仕度をしろ!」と子分達に言う助五郎に、成田が、「十一屋の会合がある。待ち伏せし、闇討ちを掛けよう。」と持ちかける。
その刺客にと、白羽の矢が当たった三浦屋孫次郎。
孫次郎は、「七年前、繁蔵親分に、母と妹を助けて貰った義理がある。」と言い断る。
しかし、「一度の義理と七年の義理。おめえとおめえの目の見えないお袋、頭の悪い妹の面倒を誰が見てきたと思うんだ。」と言われ、引き受けざるを得なかった。
見届人に指名されて成田に、「手出しだけはしないように。」と釘を刺し、喧嘩仕度に、孫次郎は、一旦家に帰る。
2幕:街道
待ち伏せし、繁蔵親分に斬りかかる孫次郎だが、繁蔵親分に、自分が、わざと斬られるようにする。
しかし、成田が、隙を見て、繁蔵親分を後から刺してしまう。
虫の息の中、「おめえは一体誰なんだ?」と問う繁蔵親分。
「大利根川の川渕で、目の見えないおっかさんと、頭の弱い妹を助けてもらった三浦屋孫次郎でございます。繁蔵親分に斬られて、死ぬ覚悟で来たんだが、あの成田が…」と、打ち明ける孫次郎。
「俺の首を、お前さんにやろう。義理を返したあかつきには、この首を、笹川一家に届けてくれないか。首がなければ、女房や若い者が不憫でならない。成田の野郎の後からの騙し討ちで死んだとあっては、死に切れない。首を刎ねてほしい。」と言い、自らの腹を刺す繁蔵親分。
「勘弁しておくんなさいよ。」と、首を斬る孫次郎。
3幕:飯岡一家
繁蔵親分の首を持ち、戻って来た孫次郎。
助五郎親分は、繁蔵親分首に、「末期の水だ」と、タン唾を吐く。
孫次郎が咎めると、「前々から気に入らなかった。今日こう限り、盃は水だ。出て行け。」と、怒る助五郎親分。
孫次郎は、繁蔵親分の首を、下げ渡してほしいと頼み、大事に抱え、飯岡一家を後にする。
4幕:笹川一家
繁蔵親分の首捜しに躍起になっている子分達。
代貸の勢力富五郎が、旅から戻って来る。
そこへ、繁蔵の首を携え、やって来た孫次郎。
紋付袴姿で、筋を通してやって来た孫次郎を、部屋に通す代貸の勢力富五郎。
「お供物を持参して参りました。」と、繁蔵親分の首を差し出す孫次郎。
その白布の中を確認した富五郎は、「親分のお帰りだ。」と言うと、殺気立つ子分達。
それを静め、孫次郎を、焼香場に案内させる。
「繁蔵親分の前で、泣いている」と、富五郎に孫次郎の様子を伝える子分。
焼香を済ませた孫次郎を、子分にに取り押さえさせると、孫次郎は、陰腹を突いていた。
「訳を言ってみろ!」と言う富五郎。
「代貸さん、姐さん、三浦屋孫次郎の話、聞いておくんなさい。」と、訳を話す孫次郎。
7年前、銚子の五郎蔵親分に、「見込みがある。飯岡助五郎の許で、男を磨いて来い。」と言われ、目の不自由なお袋と、生まれながらに頭の弱い妹を連れて、飯岡宿へ向かっておりました。
大利根川の川渕で、お袋が癪を起こし、持ち合わせの薬がなかったもので、お袋と妹をその場に残し、町に薬を買いに走りました。
戻って来ると、二人の姿がなく、附近の人達に聞いたなら、助けてくれたお方がいると。その助けてくれたお方が繁蔵親分でございました。繁蔵親分は、お袋には、医者や薬やと介抱してくれ、妹には、小遣い銭まで与えてくれました。
その繁蔵親分に、「おめえさん、これから、どこに行きなさるんだね?」と尋ねられ、「助五郎親分の許で、世話になる。」と答えたなら、「それは、悪い所へ行きなさるな。」と。
近頃になって、親分の言った意味がわかりました。
そして、繁蔵親分の首を持参したまでの経緯を話し、「陰腹でも突かなければ、ここに来れなかった三浦屋孫次郎の辛い思いを、どうか分かっておくんなさいましな。」と言う孫次郎。
それから、「こんなこと、頼めた筋合ではないと百も承知ではございますが、どうしても、聞いて欲しい事があります。助五郎の一家を出て、ここに来る前に、家へ帰りました。
事情を知った母は、起き上がる事も出来ない筈が、勝手場に行き、持った出刃で、てめえの腹を突きました。妹のお花の事を頼むと言い、お袋は死にました。妹に、「おっかちゃんはいなくなった。あんちゃんも、直にいなくなる。一人で生きて行くか?おっかっちゃんの所へ行くか?」と聞くと、「おっかちゃんの所へ行きたい。」と。
西も東も分からない18の妹の首を絞め、殺しました。
助五郎親分には、盃を水にされ、二人の供養をしてくれる人がおりません。姐さん、お願えします。代貸さん、この通りでござんす。お身内衆、お願えします。二人には、何の罪もございません。罪無き二人の供養をしては頂けませんか。」と、両の手ついて頭を下げる孫次郎。
「姐さん、親分は、弱い堅気衆には、手を差し伸べてやれと…弔いあげてやってもらえませんでしょうか。」と口添えする富五郎。
「安心おし。お前さんの妹さん、お袋さん、お前さんの弔いは、この笹川一家総出をあげて、させてもらいますよ。」と答える姐さん。
「孫次郎~。」「兄ちゃ~ん。兄ちゃん、こっちだよ。」の声に、手を伸ばす孫次郎だったが、息を引き取る。
「三浦屋孫次郎、安心しろ。弔いだけは、きっちり出してやる。
三浦屋、成仏しろよ。」と言う富五郎。
手を合せる姐さんと子分達。
妹の首を絞める条からは、涙なしには見られません
口上
三浦屋孫次郎*片岡梅之助総座長
⑳へ続く…