〜始まりは終わりへの一歩編〜


彼とはもう関わらない人生を送ってゆくものだと思っていた。


私も大学卒業と同時に新卒採用として、なんとか就職することができた。

夢を見るのはもう終わり。

厳しい現実と向き合う時だ。

頼りないけれど遠距離恋愛中の彼氏もいる。

毎晩の長電話も月一のデートも楽しみで仕方がない。

お給料が出たら、新しい靴やバッグ、お洋服何か好きなものを一つくらい買える程の余裕もある。

充実しているよね。

不自由も感じていないよね。

だけれども、何か、なにか満たされていない物足りなさを感じてしまう。

それはほんの小さな綻びの様なものかもしれないし、或いは視界の外にある大きな欠落の様なものかもしれない。

あまりにも順風満帆すぎて不安になっているだけかもしれないしね。

それに関して追求する事は迷宮の扉を開けてしまう気もしたし、そもそも答え合わせをする気が、私にはなかった。


ある晩テレビで、とある病院の24時間を追うドキュメンタリーをやっていた。

あ、彼(ユダ)の地元だ。

彼もここで働いている可能性もあるんだね。

懐かしさで胸がきゅっと苦しくなった。

今は誰といるのかな。

どんな生活を送っているのかな。

気付けば、彼の電話番号を携帯電話の中から探していた。


「…はい。久しぶりだね。元気?」

「うん。」

「どうした?」

「今日〇〇病院を取材した番組見て、もしかしたらと思ってね。」

「あ〜、そこで働いていたよ。今は別な所だけど。…彼氏できた?」

「うん。奇しくもあなたと同郷の彼氏。そちらは?」

「…そうなん?学生時代の彼女がたまにこっちに遊びに来たり、日替わりで彼女たちと逢っているよ。みんな納得した上でこの関係性を続けているし、俺はみんなのものだからね(笑)たまに二人きりの時間を存分に楽しむ特別な日を設けているよ。」

基本、彼は彼に向けられた愛を拒むことはしない。

広い心で大勢の愛を受け止めている人。

都合がいいって言えばそうだけど。

確かに一人のものになったら、今以上の不都合が出る事くらい彼女らもわかっている。

それならば現状維持が一番よいと感じるはず

その後、彼女たちの情報を私に事細かに話す彼の心情なんて私には到底理解できるはずなどない。嫉妬が渦巻く中にも、彼女たちの心の傷を見せられた気がして、それを彼なら癒やしてくれるという絶対的な安心感を持って週に一度彼の元を訪れるのかと想像すると、変な具合に仲間意識のようなものが芽生えたりもした。


「逢いたいね…」

ぽつりと彼が呟いた。

二人の想いが重なった。

重なってしまった。


私には彼氏がいて誰かと逢瀬なんて考えられない。

ましてや彼にも沢山の彼女がいる。

だけど、今、彼は私に逢いたいという感情を向けている。いつもは受動的な彼が能動的に自らの想いを吐露するなんて。

素直に嬉しかった。

それだけで良かったのかもしれない。

だけど、私は私の気持ちに嘘はつけなかった。

一度きりでいい。

彼に逢いたい。


つづく 

ここまで読んでいただいた貴重な方、ありがとうございます。

更新は不定期です。もしかすると、途中放棄するかもしれません。万が一の際は、どうぞご容赦願います。気長にお待ちいただけると幸いです。マイペースで綴ります。

このような物語としてなら不完全で不格好な文章と、とてつもなく長いひとり言に最後までお付き合いいただきまして、心より感謝申し上げます。見つけてもらえて嬉しいです。


⚠奇跡的に本人の目に止まり、意に沿わない場合、即削除する可能性がございます。

その時は自分のみ見られる媒体に綴っていきたいと思います。紙しかないか。手書きだとここまで冷静になれないと思いますが。








〜とある恋愛のはじまり編〜

彼との出会いは、確か、大学1年か2年生の頃だったと思う。
2次元の男子に熱をあげ、現実世界の男性には興味がなかった私。
情報処理の講義が終わったタイミングで友人レイカが話しかけてきた。
「ねぇねぇ、面白いのがあるんだけど、一緒にやってみない?」
「ん?何のこと?」
「ネットでチャットというのがあってね。チャットルームという画面上の部屋の中で文字で、しかも、リアルタイムでみんなとおしゃべりするの。色んな人がいるから、暇つぶしにもなるし、面白いよ。」
レイカは私よりも好奇心旺盛な子だ。ミーハー気質もあって、流行の、ど真ん中にいるのが好きな子。そんな子が面白いと言うんだから、まあ、とりあえず誘いにのってみよう。
「うん。やってみようかな。」
私は軽く返事をした。
「ここではHN(ハンドルネーム)という愛称を使ってお話しするんだよ。名前決めてね。」
タイピングしやすいのがいいよね…あ、るるにしよう。ここから私のHNは『るる』となった。
「こんな感じ〜」レイカから見せられたパソコン画面には、目まぐるしく文字が動いている。文字列が次から次へと表示される。なんという速さ。これじゃあお返事するにも時間がかかる私は置いてけぼりをくらうよね。はぁ〜。人が入れ代わり立ち代わり来ては出ていく。話もころころと変わる。画面の中のパーティールームに訪問客が出たり入ったりする感覚だ。何から何までスピードが速すぎてついていけない。疲れた。
「私にはついていけないから、無理かも。」
「ほら、時間帯によって、人が集まらない時もあると思うから、家で夜中とかに覗いてみたら?」レイカはあまり深刻にとらえていないようだ。
「そうだね。」
会話にすらならない私を横目にレイカは器用に文字を打ち、この人はこうで、あの人はこうなんだよと、私と画面を交互に見ながらおしゃべりを続けている。
傍から見るとやっぱり楽しそうだ。いいな。羨ましい。顔も素性も知らない相手とその場に合わせて文字で会話をする。普通に生活していたら出会わないであろう人とも会える機会がそこにはあるのだ。興味は湧くばかり。仕方がないので日中は諦めて、レイカの言う通り夜中にこそっと、つないでみた。
あれ、誰もいない。静かな画面。真っ白い画面も清々しいなと眺めていたら、突然ピロンと、誰かが入室する音がした。
えーっと、HNは?ん??ユダ?ユダってあのイエス·キリストを裏切った弟子だよね…いや、そのユダじゃないかもしれないし。湯田さんかもしれないし。初対面同士の話題なんて特に思い浮かばないから、思いきってこの線で切り込んでみようと私は腹をくくった。
「こんばんは初めましてユダさん」
「こんばんは初めましてるる」

「あの…ユダさんってあの裏切りの?」
「(笑)よくわかったね」
「カトリック系の学校に通っているので」
「そうなんだ。実は今しんどくて」
やっぱりそうだったんだ。予想が的中して小さくガッツポーズの私。勿論、画面越しに見えるはずはない。だけど何故そんなハンドルネームなんだろう…気になる。けれど、『しんどい』はもっと気になる。
「どうかされたのですか?」
「同棲している彼女、精神的に脆くて。落ち込むと大量の薬飲んでフラフラしながら外を彷徨うんよね。それで、いつも慌てて探しに行くんだけど、さっきまでその状況で。酷いときは救急車を呼ぶこともあるんだ。」
えっ…想像の上をいく、なかなかの修羅場を聞かされ、返す言葉がしばらく見つからない。
「あの…それで今、彼女さんは?」
「薬それ程飲んでいなくて大丈夫だったから、今は寝ている。」
「傍にいるなら安心ですね。」
「俺が他の女の子と仲良くしてたとヤキモチ妬いて、私の存在なんて!だからね。でも、無意識に致死量まで飲まないんだよ、こいつは。憎めない奴で心配なんだ。」
この期に及んで、のろけですか…もう私、混乱中。だって、恋愛経験ほぼないですから。
理解不能のハードなのろけ話にしか聞こえません。そして、もう1つ疑問が
「薬お詳しいんですか?致死量とか言ってますけど、素人目じゃ判断できなくないですか?」
「あ、俺、今、地方の大学の医学部に通っているんだ。だから判別はつくんよ。」
そういうこと。ある意味、相性のいいカップルだ。不謹慎なことはわかっていますよ。
「最近、しんどくて誰かに聞いてもらいたかった。」
「私で良ければ。でも、この状況知ったら彼女さん逆上しません?」
「大丈夫。寝てるから。まずい状況になりそうな時は背中で察するから大丈夫。」
「はぁ〜、そうですか。」
夜中はちょっと面倒くさい人がいるようです。恐いです、私。
「ところで、どんな映画や本観るん?」
こんな状況でも、普通に話しを進めるあたりが、只者じゃない…。しかも、軽い自己紹介もせずにいきなり趣味の話ですか。
「えっと…本は、灰谷健次郎や山田詠美、有島武郎なら一房の葡萄が好きです。映画は…特にありませんが、映画館で観るの好きです。」
「なら、銀色夏生の詩集とか、るるちゃんには似合いそうやね。」
本を似合うって表現するの嫌いじゃない。理系の人がそんな文学的な言い回しをするものなのかと、彼に少し興味が湧いた。
他愛のない会話を続けた。続ければ続ける程に、彼に惹き込まれていく。言葉の選び方運び方がとても滑らかで美しいからだ。それは、やろうと思ってすぐ出来る類のものじゃない。実際に会ったら、もっともっと魅力的な人なんだろうな。想像が駆り立てられる。
「ごめん!彼女起きた。また会えるといいね。」
突然やってきた別れの時。その瞬間、また会えるといいな、という気持ちが私にも芽生えた。あまりにも突然すぎて名残惜しかったのかもしれない。
彼の物腰の柔らかさがその文章からは滲み出ていた。
楽しみが一つ増えた真夜中の出来事。
にしても、銀色夏生ですか…素敵。

つづく

ここまで読んでいただいた貴重な方、ありがとうございます。

更新は不定期です。もしかすると、途中放棄するかもしれません。万が一の際は、どうぞご容赦願います。気長にお待ちいただけると幸いです。マイペースで綴ります。

このような物語としてなら不完全で不格好な文章と、とてつもなく長いひとり言に最後までお付き合いいただきまして、心より感謝申し上げます。見つけてもらえて嬉しいです。


⚠奇跡的に本人の目に止まり、意に沿わない場合、即削除する可能性がございます。

その時は自分のみ見られる媒体に綴っていきたいと思います。紙しかないか。手書きだと、気持ち的にちょっと重くなりそうで恐い。恨み節炸裂するわ、きっと。



〜とある恋愛の彼についてと自己考察及び総評編〜


マメな男はモテる。

彼も例外じゃない。


「一人の所有物になったら誰かが悲しむでしょ?自分に向けられた愛は全て受け止めたいんだ。誰からの愛も拒む理由って見つからないよ。」

そんなの虫が良すぎる。あなたがカトリック信徒であることは知っている。けどね、恋愛においてその思想を持ち出すならば、ずるい。決して、教えを批判しているわけじゃない。あなたのみに向けた感情。そんなの納得するわけないじゃない、と若き日の私は思っていた。


この人の周りでは恋愛のいざこざは彼を愛する女の数ほど多くはない。(メンヘラ除く)

天性の人たらしは、その柔らかな笑顔と声で安心感を与え、一人一人に合わせたケアを施す。手料理を振る舞う、髪を撫でる、一緒にお風呂に入り髪も身体も丁寧に洗ってあげる、或いはホテルのスイートルームに泊まって贅沢な時間を提供する、仕事で疲れた身体を優しく労う、ストレートにmake love等、内容は多種多様、女の数ほどある。抜かりなく、細やかに、丁寧な作業で不安要素を掬い取っていく。そんなオーダーメイドの、かゆいところに手が届くおもてなしをさらりと差し出されたりしたら、そりゃあ、どんな女でも骨抜きにされるでしょうよ。

心身共に2人きりの時間を持つことの意味。その『特別な時間』が彼女の中に生じた一方通行の嫌な物事を優しく包み隠してくれる。そこにあるはずの見たくない考えたくないものを。彼はそれらを素早く回収し、彼女を安らぎへと誘うのだ。

危機管理が成されている彼はいち早く察し、ナチュラルに事を進める。付け焼き刃的な行動ならば勘の良い女は気付いて、やりやがったなと逆上するに違いない。

事実、彼からは、わざとらしさが一切感じられない。彼にとって、彼女たちの心と身体のケアは意図的なものではなく、呼吸するほどに当たり前のことだからかもしれない。

ありふれた言葉だけど、まるで息をするように。慈しむ。純真無垢な眼差しを添えて。

それが彼の『人たらし』たる所以だ。

自覚があるんだかないんだかは、わかりかねるけれど。それ故、彼の周りにはその魅力に引き寄せられた人が絶えず集う。そこに男女の壁なんてない。


なるほど。あなたの、自分を愛してくれる人全てに、平等に、無償の愛を持って接することは理にかなっていると気づく。

あなたの愛し方。あなたの誠意。

自分にも他人にも素直で正直な人。

自ら発する言葉と行動に、何の躊躇いも持たず、後悔も持たない人。

まったく、とことんまっすぐな人だ。

悔しいかな、人生経験の少ないあの頃の私が理解出来るはずなどない。

恋愛は2人だけでつくる甘いものだと思っていたくらいだから。

もとから、あなたの『愛』に恋は付いていなかったんだ。


『彼』を語るなら、話さなければならないことが、もう一つある。

『体を重ねること』の認識の違いだ。

人の間柄において、『身体の関係の有無』は、その関係性を示す上で、重要な意味を持つことは恋愛経験者ならわかると思う。彼に至っては、彼女にとって必要な行為だからします、というスタンスなので、性行為の位置づけとしては、奉仕活動となんら変わりはない。これが混乱の原因となる事とも知らずに。

彼がひたすらまっすぐに相手を想い、行動しているんだと理解し、その先もついていけるかが、分かれ道。

人付き合いは実にシンプル。受けとる側の問題だから。とはいえ、難儀する相手だわ。


出会いを後悔していないと言えば嘘になる。

会うべくして会ったという自負もある。

これを運命という言葉に当てはめた時、他人の目からは安っぽく映るかもしれない。

そんなこと気にする必要があるもんか。

私が『運命』と感じたのだから。

私の恋愛経験の中で最も激しく愛した人。


あれから20年以上の月日が過ぎた。

もう美化してもいい頃合いになったってわけか。

今となっては、あなたと私は同類だったのかなと、ふと思う。あなたの考えが、つかえなく腑に落ちる。カテゴライズするつもりはないけれど、磁石の同じ極同様、似すぎているから反発が生まれ、近づけないのかもしれない。近すぎて遠すぎる存在。それとも、単純に私の思考が大人になっただけかもしれない。


冷たいようにも思えた最後。今ならわかる。私の『女』としての幸せを願ったあなたからの精一杯の誠意と優しさだったってことを。

と、都合良く思っていた方がこちらとしても気持ちがいい。


終わった恋なんて、人目に触れず大事に自分の中にだけ留めておけばよいもので、それを何故、あえて人前に晒すのか。他人の恋愛の思い出話なんて最も辟易する類いのものだろうし。

ただ、漠然と文字として残しておきたい願望が私の中でずっとくすぶっていた。

それが承認欲求からくるものなのか、書いて結末までもってゆき、自己完結させたいからなのか、はたまた両方か、今のところは、よくわからない。そもそもブログとして書く理由を問われる事もないだろうから、まあ、いいか。興味のない人ならば、ここまで目を通すこともないし。


誰かにあなたのことを教えたい思いがあるのは確か。勿体ないでしょ、こんないい男紹介しないなんて。

とどのつまり、これが前述の1番の理由になるのか。と、のんきに気づいた。


つづく


ここまで読んでいただいた物好きな方、もとい、貴重な方、ありがとうございます。

更新は不定期です。もしかすると、途中放棄するかもしれません。万が一の際は、どうぞご容赦願います。気長にお待ちいただけると幸いです。マイペースで綴ります爆笑

このような物語としてなら不完全で不格好な文章と、とてつもなく長いひとり言に最後までお付き合いいただきまして、心より感謝申し上げます。誰かに見せたい宝物のようなものですので、見つけてもらえて嬉しいです。


⚠奇跡的に本人の目に止まり、意に沿わない場合、即削除する可能性がございます。

その時は自分のみ見られる媒体に綴っていきたいと思います。紙しかないか。手書きだと、気持ち的にちょっと重くなりそうで恐い。恨み節炸裂するわ、きっと汗