大衆演劇の芝居と言うには、かなり重厚な雰囲気から

始まった、この【上州三盗伝】と言う芝居

 

幕開き寸前から、荒々しい雷の音が轟く。

何事?と思わず実際の外の天候を疑うような、怖い音だった。

 

それに混じって、

「牢破りだ!!」 と言う声が響く。

続いて・・・・

「おい!女! おとなしく金を出せ!」と、すごむ声。

そして・・・

女の悲鳴が続く・・・・・・

 

 

幕が開くと、三人の囚人が下を向いて、座っていた。

 

ここに座る三人が、当事者たちである事を示す演出。

そして、先ほどの効果音に

不気味な雰囲気が更に加わった。


三人共、ボロボロの囚人衣を着て居る。

向かって右が妙義の白蔵(しろぞう)と言う冷血な男。

左端が、安中の草三(そうざ)

そして中央が、彼らの兄貴分である、徳三

こいつは、もと御家人だったそうで、

通称、御家徳

 

いずれも、凄腕の盗人達で、まんまと脱獄したわけだ。

 

 

最初に口を開いたのは、白蔵

顔をあげた傷だらけの凄みある冷たい目をした白蔵

これ、たつみ座長なのだが、

本当?

と、一瞬とまどった。

信じがたい程、冷ややかで、まるで

蛇の様な冷たい目をした男にしか見えなかったからだ。

 

隣席の母が

「あれ・・・たつみ?」と、怪訝そうに訊いた位。

 

先ほど殺した女から奪った財布には期せずして3両もの金が

入っていた。白蔵は、それを一枚ずつ分けようと提案したが、

草三は、受け取らない。

金を出せと言って、おとなしく出した女を殺す必要があったのか?と

白蔵を責める。

 

あの女は俺たちの顔を見た。だから殺したまでだと平然とした白蔵。

 

草三は、これをキリに気質になりたい。ここで

別れる事を申し出て、徳三は承諾した。俺もこの稼業から足を洗うつもりだと。

 

無表情で立ったままの白蔵には、戸惑いながらも「シカ」とした

挨拶は告げず・・・(告げにくい雰囲気が一杯の白蔵だし・・・)

草三は、そこを後にする。

 

スタスタと、その後を行く白蔵を徳三が呼び止めた。

「おめぇ、どこへ行くんだ?」

「見送るんですよ」  

 

そして・・・・

 

ウワァーーーーーー!!と言う叫び声・・・・・・

 

何事もなかったように、平然と現れた白蔵は

 

「足場の悪い所だ。草三に、『気を付けろよ』と、ポンと肩を叩いたら・・・・あいつ

 落ちちまったぜ」

 

冷酷無比な、そして感情のない白蔵をどこかでゾッとしながら

徳三もそこを後にする。

 

 

 

月日は流れて、あれから三年

 

 

山の茶店で働くお道(小龍)は、働き者の亭主の梅吉と

平和に暮らしていた。

この梅吉こそ、白蔵に崖から落とされて、お道の父親に助けられ

一命をとりとめた草三だった。

 

その舅が亡くなり、永代供養のためと必死に働いて

5両の金を貯めて居た。

 

そこへやって来たのが、坊主姿の徳三と、現在の子分達。

5両をせしめようと、草三を、強請る。

夕暮れに、どこそこへ5両を持って来い。と言い残して行く

 

 

 

さて、ここで

 

別の旅人の登場。

音松 (瞳太郎) と言う子分を従えた

今はヤクザの白蔵。

 

※ 音松は三度笠に縞合羽姿で、顔は最後まで見せないが、

   白蔵の信頼厚く、腕っ節が強い子分の雰囲気が伝わる。

 

 

何と、白蔵はお道の兄だった!

長い事、悪事を重ねては居たものの、

親の事を思いだし、長年の親不孝を詫びたくなった。と

十両持参で、故郷へ帰って来たのだ。

 

しかし、妹のお道は、そんな兄貴を許す筈もない

 

さんざん、親不孝を重ねて遂には親が人別帳(現在の戸籍)から

抜いてしまったと言うどうしようもない奴だ。

誰が、お前なんかの金を受け取るものか。

とっとと消えやがれ!と、ののしった。

 

  

ここで、5両と、ゴザに包んだ長ドスをもった草三と白蔵が

顔を合わせる。

ゴザから落ちる長ドス。

何があったと問い詰めるお道に、草三は今までの事を

打ち明ける。

 

白蔵は草三の長ドスを抜き、すでに刃こぼれしている状態を鼻で嗤う。

「こんなドスじゃ、何も切れめぇ」

 

 

白蔵は、草三に代わって、徳三の所へ・・・・

 

 

元は御家人の徳三だ。

真っ向から挑んだのでは不利だ。白蔵は酒を仕込むことにした。

子分たちの始末は、音松に頼んで

徳三と懐かしそうに語らいながら酒を飲ませる。そして・・・

 

切り合いの場に・・・

 

鬼気迫り、半端ない迫力のシーンとなった。

 

酒に酔わせたとは言え、相当の腕を持つ徳三に、

白蔵も、わずかの気さえ抜けない。

 

たつみ座長と徳三を演じる宝さんの目から

本当に火花が散っているような舞台だった。

 

大丈夫なの?どっちが勝つの?

と、手に汗握るとは正に、この事だ!

見て居て、怖くなった。

 

二人が重なりあった時・・・・

白蔵は懐に収めて居た小刀を抜き、

背中に居る徳三に突き立てた!!

 

そして・・・

グイ・・・グイッ・・・

ググーーッっと刺す。

 

ウワーーーッっと叫んで徳三は後ろの大きな木に!

その木に寄りかかったまま、自分の最期が目前なのを

信じられない・・・かつ、そんな中でも、金への執着は止まない。

 

その醜悪さ、執着心の醜さが舞台一杯にあふれる。

 

※ この徳三のシーンが長い。

  徳三を切って身を沈めた白蔵は左端に、ずっと

  照明なしの暗い所で動作を止めているのだが、

  何度見ても、タツミ座長は、その暗い中での演技を

  持続している。

  眼光も、徳三の呻く、動く・・その動作を

  追う光に変化する。

  彼の眼光での演技は続く。 (ここがプロ中のプロですね!)

 

 

そして、ドーンと木に再び背中からぶつかった徳三に

ザーーっと木の葉が落ちてくる。

 

その葉が小判に見えるのか・・・

金・・・金・・・と、落ち葉をつかむ・・・

 

そして・・ようやく事切れる徳三

 

 

 

 

※ 口上での解説ですが、落ち葉は今は100均で、いつでも手に入るが

  昔は、公園などで拾い集め、洗って茎などを抜きとって使ったそうです。

  茎や筋を抜き取ったのは、それがあると重さがあるので、

  ヒラヒラと落ちずに、バサバサと落ちてしまうからだとか。

 

  先人の知恵はすごい。と言う物。

 

 

  尚、よくこの芝居を見た客が、「なぜ、白蔵が急に善人になるのか?」と

  訊くそうな。彼は善人には、なって居ませんよ。悪党でも身内は大事に

  するものですから。と、タツミ座長。

 

 

 

ウ~ン、同感ですな~。

若い人たちかな?(笑)

文章には、それぞれ行間と言うものが存在し、

物語の中にも、それぞれ、目に見えない物が存在するのですから。

 

まぁ、簡単に言えば、新聞紙上を賑わす

シリアルキラーや、殺人鬼でも家族には良い

夫であり、父であり・・・と

言う事が当然のようにある。と言う事ですね。

 

 

重いと言うより、重厚で素晴らしい芝居でした。

演技力がなければ、手を出せないジャンルですね。