極子「ここが外相官邸?って、ふつーに井上家じゃん」
武子「お前は……なんか用事か!」
極子「作者がオチが思いつくまで引っ張ることになって。だったら、あたしの出番がいるかなーって」
武子「生憎と不倫担当相を置く予定はないぞ。音楽も繁子ちゃんがいるので間に合っている」
極子「ほら、今はロシアとかイギリスとか国際状況が不安定だし。ウメちゃんみたいなエリート留学生に打開できる局面じゃないかなって。打たれ弱いみたいだし」
綾子「一理はあるけれど?」
極子「こういう場合、首班は家柄のよいあたしが適任じゃない?なので、総理をやってあげてもいいけど」
武子「お断りだ!鹿鳴館の次は日本を潰す気か!」
戸田極子 43歳
出身地:京都
岩倉具視息女、外交官夫人、音楽家
武子「やりたくないけどここまでの流れなので仕方ない。岩倉具視殿の娘で、『猫絵の姫君』登場の具定殿の妹「鹿鳴館の芥子の花」こと戸田極子」
極子「えーもっとかわいいお花がいいのにぃ」
武子「黙って聞いていろ。母の牧子殿は膳所藩士の娘で、元は妾だったが正室が亡くなったので格上げになった。私も出会っている東征府軍の岩倉具定様は同母兄になる」
極子「どーも!お兄様がお世話になりました」
綾子「極子ちゃん、お話が進まないから」
武子「岩倉具視殿は子女の中で彼女を一番かわいがったらしい。明治3年に美濃大垣藩主だった戸田氏共殿と婚約して当時は14歳。ほどなく氏共殿は洋学を志してアメリカに留学した。同じ時期に具定殿もアメリカのラトーガス大学に行っている」
綾子「積極的に行動するご華族ね。流石は岩倉様のご一族なんだろうけれど」
武子「で、極子は岩倉邸に戻っていたが、夫や父、兄の留守の間に琴、華道、茶道など諸芸と、英語やダンスを学んでいた」
極子「芸事は公家の女の嗜みでございますよ、ほほほ」
武子「腹立つことに才能は抜群でこれが全部達人レベルとなる。時が流れて鹿鳴館開館の時。私としても声をかけたくなかったのだが、英語とダンスはこの時点でもかなりのキャリアがあった。仕方ないので鹿鳴館にキャスティングした……のだが、ここからが大問題だ!」
綾子「ああ、仮装舞踏会事件ね……」
武子「明治20年4月20日に仮装舞踏会「ファンシー・ボール」が開かれた。ぶっちゃけただの淫らな無礼講だ。本当はイギリス公使が開いたものだったのだが。まあ、のこのこ行った連中も連中だ」
綾子「聞きたくないけど、どんな仮装?」
武子「伊藤博文夫妻はヴェネチア貴族夫妻、岩倉具定殿が唐子、鍋島直大殿はフランス貴族、大山巌くんが浅野内匠頭、渋沢栄一は山伏とかで参加している。山縣有朋くんは奇兵隊士だった。それは古着で仮装でもなんでもないだろう」
極子「えー楽しかったのにぃ。馨ちゃんと武子っちもくればよかったのに。新田義貞と勾当内侍とかで」
武子「誰がいくか!私はやっていたことすら知らないかったぞ!」
鹿鳴館最大の汚点?とも言われる「仮装舞踏会事件」です。
実際にはイギリス大使が主催したのですが、よりにもよって伊藤梅子総理大臣夫人の名前で招待状が送られたので、華族政府高官連中が仮装して参加しました。照れ?が入ったのか、大半が歌舞伎とか日本神話の仮装でしたが。
他は榎本武揚が徳川家家臣とか、そのまんまのパターン。
ここで一躍、主役と化したのが極子と伊藤博文総理でした。この仮面舞踏会にて「不義密通」があったとして批判の的となりました。
なお、武子、綾子、鍋島榮子、陸奥亮子は不参加でした。
戸田極子
武子「問題は伊藤君と極子の情事だ」
綾子「情事ね……。聞きたくないけれど」
武子「当日、戸田氏共殿は太田道灌で、極子は道灌に山吹を捧げる貧しい少女に扮して参加している。おい、これってどんな意味なんだ?」
極子「おやおや、武家は古歌ひとつ知らぬのかえ」
武子「さっさと説明しろ」
極子「江戸城をつくった太田道灌が鷹狩りの最中に雨に降られて。立ち寄った農家で蓑を借りようとしたところ、少女に山吹の一枝を差し出されて。「七重八重、花は咲けども山吹の、実の一つだになきぞ悲しき」という古歌がありまーす。「我が家は蓑ひとつないほど貧しく、お貸し出来ません」という故事にちなんだもの」
綾子「伊藤さんがご存知とも思えないけれど……」
武子「伊藤君がどんな意味で取ったか知らないが、庭の繁みにふたりで消えたそうな。そしたら数日後、新聞に見事に抜かれた。そしたら、次々と続報が出て」
極子「伊藤総理は嫌がる私を無理やりに繁みに連れ込んだんです。拒めば、夫の立場が悪くなると無理やりにぃ」
武子「伊藤君に岩倉一族の立場がどうにか出来るわけないだろ」
極子「裸足で逃げ出した私は鹿鳴館の前の馬車に「乗せて頂戴!」と駆け込みました。私は岩倉家の名に泥を塗ってしまいました。夫の氏共殿にも合わせる顔とてありません。しくしくしくしく」
武子「別の記事では2階で事があって、窓から飛び降りて逃げたとか答えてなかったか?」
極子「やだー。下から見てたの?パンツ見えちゃうじゃん」
武子「穿いてたかどうかも怪しい状況だ。私としてはお前が騒いで、下半身晒した伊藤君が置き去りにされていた絵が思い浮かぶがな」
極子「でもさ、これも公家の女の嗜みじゃん。否定したら『源氏物語』とか全否定になるし。武子っちは日本文学の名作をご否定されますか?いと悲し」
武子「否定されたのはこっちだ!これで馨さんは責任者としてぶっ叩かれ、私は伊藤梅子さんから「うちの馬鹿主人が……」と土下座され、うっかり大原女で参加した捨松ちゃんからは「断れねがったんです。許してくなんしょぉ」と泣きながら謝罪されたんだぞ」
極子「会津者っていっつも逃げ遅れてるよねぇ」
武子「ところが、私たちが伊藤君を締めあげている最中だ。事件から2週間後に戸田氏共殿はオーストリア・ハンガリー全権公使に任命されて、1か月後には高飛びして逃亡した」
極子「当時は船でいったから高飛びとは言わないって」
武子「そういう問題じゃない!」
この仮想舞踏会事件は、鹿鳴館反対派のでっち上げた事件という説もあります。伊藤博文が戸田極子を一方的に乱暴した、という説もあります。
確かなことはこれで元々評判の悪かった鹿鳴館が潰れ、伊藤内閣が潰れ、面子の潰れた井上馨がしばらくうつ状態になったということで。
女好きの最後と茶化される伊藤博文
武子「伊藤君を尋問したのだが、「出来心だったんす。お相手しないと失礼と思ったんす」と土下座していた」
極子「いやーね。思ったより普通の男性すぎて逆にびっくりで」
武子「私はその股間の粗末なモノを切り落としてやろうと思ったが、梅子さんが「面倒みるほうが大変」というので有耶無耶になった」
綾子「そういえば極子ちゃん、オーストリアはどうだったの?」
極子「それがね、綾っち。ヨハネス・ブラームスっておもしろいおじ様がいて、あたしのお箏で六段の調を披露してあげました」
武子「世界的な作曲家じゃないか」
極子「あと暇だったのでフランス語とドイツ語を覚えてみた」
武子「無駄にクォリティは高いな」
極子「そんなわけで、日露戦争になりそうらしいので。あたしがロシアにいってあげようかなと」
武子「逆に戦争になりそうだ。また内閣潰す気か」
極子「わらわは公家であるぞ。内閣など何個潰してもなんとも思っておらぬ。公家と左様な者ぞ。猫絵のおひいさまぁ、ほほほ」
武子「いちいち腹立つな。何しに来たんだ、お前は」
極子「ウィーンも飽きたしぃ。ボリショイ劇場でお箏を演奏してもいいなーって。今度は「今様」を爪弾いてあげましょう」
綾子「なんで「今様」を?」
極子「遊びをせんとや生まれけむ、戯れせんとや生まれけん」
どっちかというと鹿鳴館シリーズの続きな気がしますが。
なお、戸田極子さんの子孫はウィーン国立歌劇場管弦楽団に所属しているそうです。
このキャラで正しいのかは知りません。
続きます。

