対戦校の選手も到着し、いよいよ試合が開始された。絢生も水分補給用のドリンクなどを用意し終え、冴が主審をしてくれているので、見学していいことになった。女子はアユしかまともにわからないため、ヒロトと凌がいる男子の試合を見学することにした。



「お、絢生ちゃん。仕事、ありがとね」


「いえ。あの…」


「今のところ、俺がシングルスで一勝。今やってるシングルは少し厳しいかな」



 万が一負けていたらと、絢生が聞けなかった戦況をヒロトは教えてくれた。今回の男子の対戦相手は互角らしい。素人の絢生から見ても、かなり白熱した試合が展開されていた。




***




 試合間に選手の水分補給をサポートする以外はほとんど絢生の仕事は無く、先程女子の試合が終わったため、男子の試合の観戦に回っていた。



「どう、バドミントンの試合は?」


「アユさん…面白いです」


「そう、よかった!ほら、次、凌のシングルスよ。これで勝敗が決まるわ」



 アユの言葉通り、ここまで男子は2勝2敗。凌の第三シングルスで勝敗が決定する。アユに言われるまでも無く、絢生の目はすでにコートに向けられていた。




***




「すごい・・・」



 凌が繰り広げる試合は、本当に面白いものだった。ラリーの応酬、駆け引きのタイミング。どれをとっても素晴らしく、絢生は目が離せなかった。そんな絢生を、仕事を終わらせた冴がアユとともに面白そうに見ていた。



「…頑張って!」



 絢生は無意識のうちに、凌に声援を送っていた。競り合いが続く中、その瞬間、凌がスマッシュを決め、勝利をつかんだ。




***




 試合も終わり、皆がそれぞれ一息つく中、凌は後片付けをする絢生の元に近づいた。



「井上…ありがとな」


「?何が…?別にお礼を言われるようなこと、してないわよ?」


「いや、ちゃんと届いてたから。井上が応援してくれてる声」



 絢生自身、無意識だったため、あまり覚えていなかったのだが、心から応援していたことは本当だったので、どことなく恥ずかしかった。



「別に、たいしたことじゃないわ。でも…お疲れ様。おめでとう」


「おぅ、ありがとな」



 ふわりと笑みを浮かべた絢生に、柄にもなく照れてしまったため、凌はそれだけしか返せなかった。



「ほーんと、君たち仲良いよね~」



 絢生の隣で、今まで存在を忘れられていた冴が、羨ましいと声を漏らした。冴からすれば、自分が数ヶ月もかかってようやく今のように話せるようになったのに、凌は簡単に絢生と話せることが面白くないのだ。



「ヤキモチかよ、冴」


「べっつにー?凌に絢生をとられたなんて思ってないもん」


「あ…そっちになるわけね、お前は…」



 凌の呟きに冴が首をかしげると、絢生がフォローを入れる。



「普通は逆でしょ?何で私が神山君にとられたなんて思うのよ…」


「あ~、そっか!でもさ、凌なんかより、絢生のほうが大事だもんね」



 冴の絢生溺愛宣言に、周りがずっこけたのは言うまでも無い。凌に至っては何気にショックを受けている。



「神山君は十分素敵よ?」


「あー…ありがとな、井上」


「私なんかをちゃんと相手してくれるんだもの」


「お前、そういう言い方やめろよ」



 絢生が苦笑を浮かべながら言うと、凌は少し怒気を帯びた声で絢生を見据えた。



「さっきも言ったけど、俺にはお前の声、届いてた。お前さえよければ、また見に来れば良い」


「・・・・・・考えておくわ」



 絢生から出た答えは、絢生自身も驚くものだった。確かに、凌との時間は心地よかったとはいえ、基本的に人付き合いは嫌いなのだ。だが、返事をすることに対して躊躇はあったものの、肯定の返事そのものには少しも迷いは無かった。自分でも驚くほどに、凌という人物に惹かれつつあることに、絢生は気づいてしまったのだった。