私の敬愛する小説家、三浦しをんさんのデビュー作『格闘する者に○』でちらっとふれられていた漫画です。しをんさんのフィクション摂取量は並外れている気がしますので、あえてこの作品を引いてくるからには凄いに違いない……とは、思っていました、が。ここまでとは。


赤石路代『アルペンローゼ』全4巻(小学館文庫)


舞台は第2次大戦ごろのスイス周辺。両親を亡くした少年ランディは伯父夫婦にひきとられたものの、使用人のように扱われている。彼が7歳のころ、山で倒れていた6歳のジュディは記憶をなくしており、伯父夫婦から虐げられる。それでもお互いを励ましあって高潔な少年少女へと育ち、いまや15歳と14歳、相思相愛。


けれどもナチスの台頭による暗い影が彼らにもしのびよるわけです。ジュディの失われた記憶、本当の家族を探す旅、その過程で反ナチの歌「アルペンローゼ」が重要なカギであることがわかり……


ジュディを守るためなら何だってしかねないランディ、ランディのためなら何だってしかねないジュディ。あまりに無垢で熱烈で、その激しい光のような彼らの姿に周囲が心を動かされる構図はおそらく「お約束」というか、人によっては予定調和と冷笑するかもしれないけれど、あの何だっけ小公子だっけ、明治あたりの翻訳文学で「家庭の天使」としてのコドモという概念が入ってきたでしょう(セディの純真さふれてに偏屈な老人が変わっていく等)。それに通じる、正統派の感動路線、直球の良心主義という気がしました。


私は条例がどうなろうと子供にはきちんと漫画の読みかたを学ばせてフィクションの世界を愛せるようになってもらいたいと思っているのですが、もし、私が親になれるとしたらアルペンローゼは必ず贈ります。もしその子が女の子だったら「ママはランディと結婚したかったわー」とか「レオンハルトの顔は奇蹟のように美しいわよねっ」とか、パパにないしょよというお喋りをたくさんしたいです(そこかよ)。


 

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