昔の、市川昆監督のほうじゃなく(→感想 )、数年前に山田洋次監督が脚本も書いた作品です。


初めにお断りしておきます。この作品を支持しておいでの方ごめんなさい、私これからいかに不満が残ったか述べたてそうです。ひどく悲しくなりました。こんな切り張りで現代にあてはめて再生を試みたりしなくてもよかったじゃないの……。


市川監督の『おとうと』へのオマージュ、と聞いていますが、あちらは原作である幸田文の小説『おとうと』の空気をなるべく現出しようと古めかしいモノクロを使ったり、エピソードもかなり忠実に、取捨選択の趣味が私と合わないところはあったけれども効果的に物語を愛でていらっしゃるなあと思わず尊敬語が出るくらい、魅力たっぷりでした。然るに山田監督、ううう、説得力を感じませんでした。


なんで兄も姉も弟が問題児だとわかっていながらお酒の残ってるテーブルにひとりで置いとくのか。彼が暴走しはじめたらすぐ止めに入ればまだましだったのではないか(はらはら手をこまねいてる場合じゃない)。


いいのよ、原作にある「がんばる模範的な姉と、レールから脱線してしまう弟の、それでも無視しきれない間柄」だけを取り上げて新しい映画をつくる姿勢でも。ただその場合、エンドロールに幸田文の名前を出さないでほしい。碧郎を鶴瓶師匠の演じる鉄郎と重ねないでほしい。ところどころに鍋焼きうどんとかリボンで手を結ぶとか、原作で最もせつない場面を利用しないでほしい(ついでに言ってよければ、あの鍋焼きうどんのシーンは原作や市川監督版において、碧郎が結核患者だから重大な意味をもつのであり、今回は特に必然性がない気がします)。


幸田文の小説を研究して愛してしまって、バリエーションが泥みたいに思えるのかもしれません。よごされる、みたいに忌々しく思っているのかも。少し申し訳ないのですが、いやしかし、姉が弟につめたくできない理由がこの映画では全くわからなかったからなあ。あわれみ? それで全ての迷惑を帳消しに? まさか!


吉永小百合さん・蒼井優さんという極めて美しい母娘は眼福でしたけれど、なんだかとっても残念な気持ちになる作品でした。