あー、この作品を読めてよかった!


くらもちふさこ『いつもポケットにショパン』全4巻(集英社)


タイトルから推測できるように、ピアノを弾く話です。主人公の麻子は幼なじみの男の子「きしんちゃん」といつもいっしょ。ピアノのレッスンも、遊ぶのも。乱暴な男子にいじめられてるきしんちゃんを守るのが麻子の役目で、きしんちゃんのお母さんは麻子にとても優しくて、それは著名なピアニストである麻子の母からは与えられないぬくもりだったから、麻子にとってきしんちゃん親子はたぶんサンクチュアリだった。


きしんちゃんは日本の中学に進まず、ドイツに留学。そして……


途中でそっと挿入される「雪の女王」のモチーフ。変わってしまったきしんちゃんをなんとかもとの、あのおだやかで美しい演奏をする男の子に戻したくて泣き、怒り、ピアノに打ちこむ麻子は本当にピュアで、彼女はきしんちゃんの演奏でしか涙を流したことがないけれども私は麻子のピアノを聴きたいなと思わされました。


しかし4巻すてきだったなあ。ずっとどこか冷淡な印象だった麻子のお母さんの意図。どんなに、愛していたか。たぶん、漫画だからオチをつけるためにもこういう形で明かされたんだろうけれど、現実には「誰にも気づかれないけど確かに愛情を注いだ」というケース、あるでしょうね。友愛にせよ家族愛にせよ。気づかずに浴びられることがそもそも幸福だけど、欲をいえばそういうことに自覚的でありたいな。


のだめもドタバタと楽しくて好きだけど、こちらの丹念な心理描写、私好みです。もう1度いいますがこの作品を読めて本当によかったです。