ふたつあります。甲乙つけがたいのが。


まず映画『もののけ姫』のエボシ御前がアシタカに向けて放つ言葉。

「さかしらに傷を見せびらかすんじゃないよ」

ちなみにアシタカは「みな見よ! これが我が身のうちに巣食う憎しみと恨みの姿だ、これ以上の憎しみに身をゆだねるな!」と腕を高く上げてタタラ場の人々をすくませていたところ。

このひと言でエボシ様がそれまでにどんな苦しみをくぐりぬけてきたのか、具体的ではないにしろぶわぁっと想像が広がって、いつも「すごいせりふだ……」と感じ入ってしまいます。


もうひとつは米澤穂信さんの小説『さよなら妖精』(創元推理文庫)終盤での太刀洗のせりふ。

「私を冷たく見積もりすぎじゃないの」

この場面より前にもじゃれあいみたいな感じでこの言葉は出てくるのですが、終盤で改めて聞くと悲痛な、いかにこれまで太刀洗が苦しんでいたかまざまざと見せつけられるようで。


痛い痛いと泣くんじゃなく、それをねじ伏せて強く生きられたら。