パチンコ店は営利企業なので、基本的には遊技料という形で客から金を奪うのが仕事である。
だが、負けるのが分かり切っているギャンブルにわざわざ金を落としに来る客などいるわけはない。
店にとっては、いかに「うまくやれば勝てる」という幻想を客に持ってもらうかが最重要であり、そのために見せ台を作る。
その見せ台をピンポイントで打つのが俗に言われるプロである。
と言うと、能動的にプロが出る台を打っていると思いがちだが、実際は店に打たされているのと同じであり、プロを生かすも殺すも店次第なのである。
社会の歯車になりたくなくてアウトローになったところで、所詮は何かの歯車の一部にしかならない。
これは人間が社会でしか生きられない限り、変わることはない真理である。
当然、店が用意する見せ台以上にプロが存在してしまっては余る歯車が出てしまうので、同業者などいない方が良いのは自明である。
そう言った意味で第三はいわゆる「プロ」の存在は皆無で、店が出したい台に座るのは容易だった。
そもそも自分の他に明らかにパチンコだけで喰っているなんてバカは見当たらず、社会的にもその絶対数は少なく思えた。
時は1995年、パチンコバブル一歩手前である。
ある日、いつものように朝一から打っているとシマの釘を一台一台丁寧に見ているヤツがいる。
大抵は釘を見ていてもフリだけで、何でその台に座った?としか思わない人ばかりなので、どうせ釘なんか見られちゃいないんだろと心の中でバカにしていたが、ちゃんと釘の開いてる台に座った。
たまたまかなと思って所作を横目で見ていると、手慣れた手つきで手元に重ねられた500円玉のタワーから一番上のコインを取りサンドへ投入し、ストロークを調整後にハンドルを固定して打ち出し始めるとまるで空気のように存在感が消えた。
いや消えたはちょっと大げさだが、とにかく店に溶け込むのが自然だったのだ。
中背でひょろっとした体躯に黒縁メガネをかけセンター分け、デニムベースの目立たない服。
全く当たらなくても動じる様子もなく、黙々と玉を弾く姿を一日観察して、やはり同業だろうと確信した。
思い返してみれば、朝日でも見かけた事がある気がする。
その後も、見る度に良い台に座っているにも関わらず、出している姿はとんと見た事がないので、俺は彼を「ハマり男くん」と命名することにした。
ハマり男くんとは後に朝の並びで一緒になり、連絡を取り合う仲になるが、ホールの状況は生ものであり、固定電話だけの連絡手段では仕事的なメリットはあまり無かった。
それでもお互い暇な時や上がりが一緒になった時はよく飯を食べに行った。
店や釘、その日の展開についてあーだこーだ話せる価値観の近い知り合いがいるのは悪くはなかったし、お互いのテリトリーは暗黙の了解で守っていた。
言わば初めての戦友である。
ハマり男くんと知り合った頃、バスケットボールをモチーフとした「CRスーパーダンク」と、兄弟機として現金バージョンの「ダンクショット」があった。
CRスーパーダンクの方は1/395.6で1/3確変16R、2回ループ型のいわゆるフルスペック。
現金機の方は1/241で確変12R、通常16Rの変則機で1/3で次回までの確変(時短)である。
(ミドルスペックで設定付きCRのCRダンクがあるが、かなりのマイナー機なので割愛する)
ダンクシリーズはリーチアクションが秀逸で、絵柄が主役だったデジパチのリーチアクションの概念を根本的に変えた機種でもある。
大きい液晶で展開されるアクションはリーチが掛かると、まず液晶内の選手がボールを持って敵陣を突破しようとする。
敵陣は2画面あり、大抵は守備を突破できずにハズレとなるが、うまく2回守備をかわしてシュートまで行くと画面がバスケットゴールのアップになる。
ゴールの枠をボールが3周ほどぐるぐると回ったところで内側のゴール側に流れれば大当たり、外側に流れるとハズレとなる。
2画面目のキャラがそのままシュートをするパターンと、パスを出してから別のキャラが近距離からシュートするパターンがあり、当然後者の方が信頼度が高い。
パスを出した先で敵守備がいないパターンはダンクシュートとなり超高信頼度となる。
1画面目のキャラが守備をかわす時に相手がファールをするとフリースローとなり、前述のゴールアップと同様の画面となるが、信頼度は段違いで2/3がゴールに吸い込まれる激熱リーチとなる。
CR版のみリーチの形態をとらず、全ての絵柄が回転しながらダンクシュートまで必ず進む全回転リーチが存在し、75%程度の信頼度となる。
ゲージも変わっていて、スタートチャッカーが真ん中ではなく、左右に分かれて二つ配置されていた。
二つあるからと言って別段甘いゲージというわけではなかったが、ステージ端からチャッカーへ流れる斬新な作りで玉の動きも楽しめた。
ハマり男くんは荒い台も回れば率先して打っていたため、CRスーパーダンクを打つ姿を良く見かけた。
俺は気が触れるほど回るのでなければフルスペックは敬遠していたため、安定しやすいダンクショットの方を好んでかなり打ち込んだ。
俺が初めてCRスーパーダンクを打った時、現金機と違って外れると噂だった全回転ダンクが初見であっさりハズれ、隣のハマり男くんと無言で顔を見合わせたのはいい思い出である。