恋愛が始まる前の、雰囲気がすきだ。




初めて会った日、彼女はとても無口だった

わたしはその雰囲気が好きだった。







3年前のことなのに、今でも元カノの部屋に初めて行ったときのことを思い出す。





白くて物が少なく、決して広くない部屋には
大きな机があった。


そこには参考書がずらっと並んでいて
その参考書は英語だったり中国語だったり、韓国語だったり日本語だったりした。

よく分からない計算式と、論文
フランス語の参考書

本当にこの人は頭のいいひとなんだなぁ
壁に貼ってある、to DOリストは達筆な中国語で

わたしにはそれが何のことなのか、さっぱり分からなかった。


彼女の全てを知らない

これが、案外心地よかった。




(勉強しか、得意なものないから

彼女はそう言っていたけど、

ある日さらっと私の横顔を描いたスケッチが
上手でびっくりしたんだ。)












初めて部屋へ行ったとき、

わたしがシャワーを浴びた後、彼女は何も話さなかった。


何も言わず、ただ「貸して」とドライヤーを取って私の髪を乾かして

わたしはそのとき初めて、女性と付き合うことの心地よさを感じた。









朝、起きると、朝ごはんを用意してくれていた。


スクランブルエッグの乗ったトーストと、アメリカンコーヒー。
普段は料理をしない狭いキッチンで、簡単だからと作ってくれた。


感動していると、「初めて泊まった日だから特別だ」と言っていたけど
彼女はその後も、変わらずいつも優しかった。










寝る前にはいつも、ガラスのティーカップに
ピンクの花が浮かぶ、中国茶を淹れてくれた。

常にわたしの体調を気遣って、
薄着でくしゃみをしようものなら、怒られた。


その温かいピンクの中国茶は、2年間わたしの身体をあたためた。
















彼女は、本当に私を大切にしてくれた人だった。

彼女は、初めて、愛する愛される、を私に教えてくれたひとでした。


















そろそろ彼女と別れて一年になる。


こうやって思い出を文字にすると、まだ好きみたいだけれど

好きなのは思い出で、彼女ではない









どうしてもあの日に戻ることはできないし、

もう一度同じことなんて、できやしないのに


もう一度、また同じような幸せを感じることができるんじゃないかと期待して

彼女のことが好きだと錯覚する

















そんなのは、やめだ。

この回の恋愛は終わった。










新しい恋愛を始めよう。






彼女があの頃わたしに教えてくれたものを、

大切なだれかに。





種類の違う、幸せをわたしに。