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創作と日常の色彩模様。
今日も今日とて、暇しません……

Amebaでブログを始めよう!

 私は日差しが嫌いだ。

 あれはさんさんと大地に等しく降りそそいでは、辛辣にこの身にまとう肌を焼く。はるか遠くにある太陽という巨大な天体から与えられる当然の賛美は、まるで貶しめるように私の身体を苛むのだ。白い皮膚を焦がし、内の肉にわずらわしい熱をもたらし、はびこる血に憎たらしいほどの不快感を抱かせ、芯にある骨を燃やそうとひたすら照らしてくる。のみならず直視すれば眼すら焼かれかねない横暴な灼熱。ああ、散々だ。あんなものがこの世界にあるだなんて、今の私にはおぞましすぎる。あれが平然と頭上に浮かんでいるのを、至極当然であるとして活動する生命のすべてが、あるいはかつての私がただ恐ろしく理解しがたい。ぽっかりと開いた穴のようなあれは、今にも吊り下げられた照明のように落ちてくるような有様であるのに。辺り一体を心なく焼きつくし、生命の残らぬよう虐殺しようとする兵器のようでも、こちらのなすすべなく蹂躙し、この圧縮され凝固された熱の地獄を支配せんとする神かなにかのようですらあるのに。ああ、命あるものとは恐ろしい。無謀な命、きっとなにも知らず、なにもなさず死んでしまうのだろうに。哀れなことだ。

 私は命あるもののように、あの大地を平常として歩くことは敵わなくなった。生きとし生きるものらを殺そうと目論む、あるいは盲目的に守護せんとする忌々しい日の光が、あろうことか私の存在を妨げるのだ。否定するのだ。生きていてはならぬと! おかげでなにからも追放されたような有様で、真っ暗な夜をさまようことの、測ることも厭うこの屈辱を浴び飲みこむことのままならなさよ!

 指先すら霞む暗闇を、手探りに盲目に進み、なにに会うでもなにをするでもなく終わる、私の短く不毛な生の連続の惨めさ! 日の光に拒絶されることの、この残酷と無情に血すら滲む。惨め、ああ、惨めだ。そう己を慰め、卑屈に大地に泣いてみせる姿を、忌まわしい太陽は目もくれぬ。私の憎悪は身を焦がさんほど膨れ上がるばかりだ。

 果たして私という生命の、一体なにが気に喰わなかったのか。何万何億と存在する似たもののうちの私だけ、どうしてこのように弾きだされ、苦しまなければならないのか。日差しは素知らぬ顔で照らすばかりで、この問いには答えてはくれない。元より言葉などというものを持たないものだが、腹立たしい。

 巨鳥のように降臨する太陽よ。私は貴様が恨めしい。憎たらしい、腹立たしい、嫌いだ、引き裂いて粉々に砕いて、もうそんな輝きを持てぬようにしてやりたいほど、嫌いだ。あんな灼熱の支配は拷問だ。わずらわしく照らすばかりの行いも拷問だ。首を絞められるような苦しさの、眩いだけの光も拷問だ。まるで加護だというような、偽善にもならない守護の虐殺も拷問だ。すべてが拷問だ。なにもかもが拷問だ。生命を貶しめ、蔑ろにし、嘲る。地獄とはお前の総べるこの世そのものだ! あげくその場から飛びでた私には一瞥もない。惜しみなく逃れられぬ熱視線を数多にくれてやるくせをして、そこからいなくなったものを探すことはない。なんて傲慢な残酷さだ! こんな理不尽のまかり通る世界を、正しいという奴は気が狂っている!

 憎らしい。憎らしい。ただひたすらに憎い!

 あの太陽がもたらし与えるそのすべてが。あの殺戮の光に守られて存在する生命のすべてが。私をつまはじき、のうのうとあり続ける世界とかいうものが。私には、もうなにも残してもくれないそれらすべてが。

 いっそ焼けぬ体であれば、と願う。焦げることのない皮膚があれば。燃えることのない肉を持っていれば。苦しみのない血を滾らせていたならば。熱されぬ骨であったならば。あんな、陰惨な夜に泣くこともなくなろうに。憎たらしい。憎たらしい。

 私は、あの光が恋しい。

 

◇少し不思議だなあと、思うだけのこと。

 

 大晦日の寒空は、いつのときだって変わらない。

 冬は寒いままだし、年末の大掃除だとか、明日となった正月のための露店の準備だとかで、どこの家も神社も忙しそうだ。

 親に連れられてきた神社もまた、年始に向けて忙しそうにはしていた、と思う。そこは元々人気のない山の向こうにあったから、来るには車が必要だ。だからか、ここに来ると大体駐車場はそれなりに混んでいる。寒い中境内を走りまわる神主さんたちは少し寒そうな格好だが、目の前を通り抜ける子どもも、あったかそうにはしているが寒そうだ。やはり寒さは格好を選ばない。

 この神社の近くに、龍神を祀った小さな祠があるんだと父が言った。この神社の神主はこれからそこの祠で大晦日の祝詞を唱えるらしい。父はそれに着いていくと言った。母も恐らく着いていくだろう。予測している傍らで、早速母が私に尋ねる。「どうする? 貴方は行く?」

 私は父を見上げて眉を寄せた。

「それって、途中で出てこれる?」

「出てこれるよ」

「じゃあ行く」

 正直、あまり気乗りはしなかった。祝詞が嫌いなわけではないが、どうも聞いていると退屈してくる。あれを聞くのか、と思うと、必要なものであっても少しだけ嫌気が差した。

 その祠は、神社からいくらか離れた山の中に近いところにあった。蛇のようにうねる小道の階段を下り、より自然の中に進んでいくと、川の音がした。

 滝のような音だった。けれど辺りに滝はないし、ありそうな気配もない。実は近くにあるのだろうか、と見回そうとしたが、早速やってきた神主が祝詞をあげ始めたので、これ以上見回すのは失礼だと察して頭を垂れた。一見するとなにを言っているかも解らない祝詞だが、しかし、だからといって理解しようとしなくて良いのだろう。これは祠の向こうの、恐らく神様に向けた言葉なのだから、居合わせただけの人間が理解しようとする必要はないのだと。

 頭を垂れた先、必然的に下を向けた目線が、足の先にある石に目を止めた。やや黄色い石だった。灰色ばかりがごろごろと転がる小石の海原の中に、それが一つだけ顔を出しているのが見えた。

(金の眼だ)

 どうしてかそう感じた。一瞬蛇の目を連想したが、はて。これはどうしても蛇の目には結びつかない。それらしい模様があるでもない。けれど、確かに私は考えるより早くそう感じた。気のせいだ、と言われれば、きっとそうだと理解するであろうというほど、漠然としたもので。

 じっと金の眼と見間違った石を眺めていた。はたまた見つめていた。それしか見るものはなかった。

 ふと私の頭に木の実が落ちたような、ささやかで軽い衝撃が二度あった。ちょっと強めに降った雨かもしれなかったが、まったく雨の感覚ではなかった。それに、確かに森の中ではあるが、私たちの後ろにある木はおよそ丸裸で、木の葉一枚なかったはず。なのに木の実があるだろうか。落ちそうな木の実なんて。

 疑問に思っていると、ついに祝詞が止んで神主が私たちに会釈した。なにを言っているかは良く解らなかったが、受け答えをしているのは父だったので、私は関係ないだろうと早々に意識から外した。

 神社へと戻る道。雨が降りだした。背後から聞こえるごうごうという少し荒々しいような気のするせせらぎの音を、私はどうしてか龍の鳴き声だと一瞬思ったのだ。

 神社へと戻ると、父が改めてお参りしようと言って、並んで柏手を打った。階段の上にある社から離れようと、階段を下りたとき、眼下の階段でふさふさの栗毛の尻尾と後ろ足が見えた。

(リスだ。初めて見たなあ)

 すぐに物陰に隠れて見えなくなってしまったが、はて、と階段を下り終えて首を傾げる。

 この神社に、果たしてリスはいただろうか?

 

 

 

 

 

 

──と、なんてことのない話ではありますが

─────

時々、ささやかなロマンをおいかけたくなりますよね。

大晦日。皆さんこれからもよろしくお願いします。

そしてまた更新に幅が出来すぎるという…

お待たせしました、小説に更新がないのは短編で済むものが思いつかないからです。いっそ連作のようにしてしまおうかな…

 

タイトルの通り、映画を見に行きました!

コードギアス反逆のルルーシュ興道と、fate-Heven`s Feel-を見ましたよ!

 

コードギアスは続編が作られているというので、これまでの話のおさらいのようでしたね。長編アニメだったときの作画と見比べたわけではありませんが、やはり綺麗になったような印象が…

 

fateもとても素敵な内容でした!

HFはあまり知らなかったのですが、思っていたより展開が素晴らしく、そして凄まじくて… 「世界終わるのか…?(゜д゜)」、と息を飲んでしまうほどの流れとそれを表す映像美に圧倒されました。

 

どちらも続きが楽しみですね!

 

またも更新がまばらになってしまうと思いますが、あくまで個人のブログですから、あまり気にする人はいないでしょうし、思うままにやりたいですね。

 

それでは、またの機会に ノシ

実に春ぶりですね、私は変わらず元気です。

 

短編小説の更新がないのは、思いつく内容が尽く長編になってしまうほどのボリュームで、短編ではうまくまとめられないからですね。

 

夏になって暑くなってきましたね!

 

私は最近神社巡りにはまっているのですが、こうも暑いと地元の神社を回るのも大変です。有名なところは広いことが多いですからね。

 

それとゲームにもはまっています。fateやポケモン、色々やり始めましたが、いかんせんやりたいゲームを思うと多くて、見境なく手を出していると持て余してしまいそうですね。

ゲームも計画的に、でしょうか。

 

テイフェスにも行きたいと思っていたのですが、気が付かない間に始まって終わっていました……

ちょっとショックでした…やはり先にHPを確認しなかったのが原因… そりゃ逃すか…

 

それでは、近況はここまで。またお会いしましょう。そのうちまた短編小説を投稿したいですね。

では ノシ

 「好きに生きれば良いよ」

 名も知らないだれかが言っていた。

 顔もろくに憶えていない。そもそもそんなことを言った人物すらいなかったかもしれない。それとも、僕が胸中で自問した答えが、〝だれかが言っていた〟という形で勘違いのように残された言葉だったか。

 しかし、いくらか漠然としたその言葉は、確かに僕の中に静かにこだましていた。水面の向こうに泳ぐ魚を見つけたような。それくらい些細な、けれどとても当たり前であること。

 思わず無意識のうちに顔を上げた。青く澄みきった、綺麗な空。どこまでも続いている、大空。到底届きやしない青。雲。太陽。

 ああ。なんてばからしいだろう。不意にそう思った。そしてつい笑みをこぼす。

「好きに生きれば良いよ」

 どこで聞いたかも憶えていない言葉だ。どんな声が言っていたかも忘れてしまった。解らなくなってしまった。いや、初めから言った人物などいなかったのかもしれない。

「好きに生きれば良いよ」

 ああ、でも、その言葉に続くのは、「貴方に興味のある人なんていないから」、だろうか。やはり、とてもばからしい。僕はなんてばからしかったろう。

 フェンスを乗り越えて靴を履き直す。まだ温かい。僕の体温で。

 階段を下りていく。丁度、授業開始のチャイムが鳴ってしまった。けれど僕はなにも気に留めなかった。この時だけは。

 僕は初めて、授業をさぼった。

 

 

 

 

 

 

 

こんにちは、僕

──────

お久しぶりです。11月ぶりですね。

大変なことがあった訳ではありませんが、なんだかんだありながら無事に社会人になりました。人生って不思議なものですね。

 ふしぎな出来事を経験したことがある。それはいわゆるオカルト的な、本来ならあり得ないし、だれかに話せば大抵「そんなまさか」、と一蹴されてしまうような話だ。けれど、僕はたしかに体験した。
オカルトな、けれどまったく怖くない、思い返せばちょっぴり心温まる、現実にあったファンタジーの話。
始まりは、ついていない日だった。ちょっとだけ調子が乗らなくて、凡ミスが立て続いていた時のこと。もちろんミスが続けば、上司としては見逃せるものではない。僕は少し厳しい口調で注意をされ、叱られてしまったことに内心落ちこんでいた。その時はまるで、不幸の波が来たように色んな「ついていない」ことが起こった。電車の定期を忘れてしまったり、スマートフォンのバッテリーが切れてしまっていたり、社内にある神棚にお供えする菓子を買い損なってしまったり。神棚については、昼休憩に入る際に同僚から訊かれてやっと思い出した。僕ははっとして、慌てて神棚にお供えする菓子が入っている棚を探す。けれど、いつも菓子が入っている小箱はすっからかんで、つい同僚と顔を見合わせて呆然としてしまった。そしてその日に限って、いつも菓子を買っている店は臨時休業の貼り紙があって。その日だけは近場のコンビニで買った典型的なクッキーをお供えした。特に神様などの存在を信じている訳でもなく、信仰心があった訳でもないが、それでもやっぱり大事にされている神棚を見て申し訳なくなった。神様がいるかもしれないその場所に、コンビニにあるようなやすいクッキーをお供えして良かったのだろうか。けれど、ないよりはましなはず、と精いっぱいの謝意をこめて手を合わせた。
その次の日。まだ調子が乗らなくて、僕は悄然としたまま、ぽつんと一人で昼食をとった。
俯くように昼食を見下ろしていた僕の視界に影が差す。
「どうかしたの? 私に話してごらんよ」
ふしぎな人だった。きらきらと輝くような笑顔をした、解りやすく言うと「人生を楽しんでいそうな人」だった。まったく知らない人だったけれど、この時僕はその人の笑顔に絆されて、溜めこんでいた不安と悄然をぽつぽつと吐露していた。彼は笑顔に真摯なものを滲ませて、時折頷いて相槌を打ちながら親身に聞いてくれた。
話しているうちに、僕はなんだかすっきりした心地になっていくのを感じた。今まで吐き出せなかったものをここで放出したからか、体が軽いような気さえする。
「愚痴を言っちゃってごめんね」
と言うと、彼は一瞬目を丸くさせた後おかしそうに吹きだした。
「いやあ、最近しょげた顔してたから、ちょっと気になっただけだよ」
気にしないで、と彼は言う。会って数十分程度だが、これだけの時間でも彼が人の良い性格なのだと解る。しかし、こんな人物は見たことがない。別の課の人間だろうか。ここは食堂だから、色んな課の人がいてもふしぎではない。僕も良くここで食事をする。
人当たりの良い彼とは、気がついたら打ち解けていた。いつもにここにことしていて楽しげだから、近くにいるだけでも僕もなんだか楽しい気分になってくるのだ。不安などが綺麗に払拭された僕は、その日は上機嫌に神棚に菓子を添えた。少しだけ掃除もした。満ち足りた心地だった。
そうして彼と出会って、あの食堂で一緒に食事をしながら雑談をするようになって、ふと彼がどこの課の人かが気になって、社の知り合いに彼を知る人はいないかと尋ねて回った時があった。けれどどの課の知り合いも、彼のことは知っているのにどこの所属なのかは知らないという。最近は良く見かけるが、前はそんなに見なかったような、という声も聞こえて、もしかしたら大きな怪我をしていて、最近社に復帰した人なのかもしれない、という話に落ち着き、だれもそれ以上追求しようとしなかった。ふしぎなことに。それは僕も例外ではなかった。彼はとてもふしぎな人で、食堂に来てもなにも食べないことを怪訝に思った僕が、日頃の感謝の証として食堂の料理をご馳走した時、彼は心底喜んで感謝し、「初めて見る料理だ」と言って頬張った。
彼との雑談を楽しみにし始めた頃、僕は不調の波から脱していた。それどころか、好調の波に乗ろうとしていた。仕上げた書類や企画が上司に認められ、「やるじゃないか」、と嬉しそうに、安心したように言う上司に胸がくすぐったくなるのを感じた。
「もう大丈夫そうだね」
ある時、彼は不意に呟いた。子を見守る親のような眼差しで、その時ばかりは彼が父親のように見えた。色々と謎の多い彼が、唐突に身近なものに感じた。しかし、この上ない親しみが沸いた頃、ぱったり彼は来なくなった。最初は仕事が忙しいのかもしれない、と思っていた。丁度僕の課も仕事がたくさん舞いこんできて、上司や同僚と一緒に仕事で駆けまわってデスクにかじりついた。あまりにも忙しくて、昼食をデスクの上で片づけてしまったことだってある。もし彼が知らずに食堂に来ていて、落ちこませてはいないだろうか。連絡を、とも思ったが、生憎僕は彼の連絡先を知らなかったのだ。
結局、仕事は同僚たちと一緒に残業してやっとの思いで終わらせた。忙殺にあった僕は、寝不足と空腹でくたびれた体を叱咤させ、自分のデスクに戻る。と、その上に小さなメモ用紙と菓子が一つ。見覚えのある菓子だった。デスクの上のメモには、『お仕事お疲れ様。そんな時には甘いものが良いんだよ、一つあげるね。私も良く食べる菓子なんだ。あの時は珍しい菓子をありがとう』、と書かれていた。知らない文字だったが、それが彼の残したものだとすぐに気がついて、多忙で会えないことを申し訳なく思いながら、ありがたく菓子を頬張った。もちもちした大福だ。餡の甘味が程好くて、疲れきった体に染みる。
はた、と僕は思い出す。そうだ。この大福、僕が神棚にお供えしているものと同じだ。あの時、珍しい菓子、食堂での喜びよう。 ──そうか、そうか。そういうことだったんだ。
僕は大福を食べ終えると、少しだけ体力が戻った体を突き動かしてコンビニへと走った。買ったのは小さなバウムクーヘンだ。それをレジ袋から取りだすと、神棚に供えて手を合わせる。
「どうもありがとうございます。僕はもう元気です。どうかお礼としてお納めください」
呟けば、どこかで嬉しそうな彼の声が聞こえた気がした。
それ以来彼が現れることはなかったが、正体を知った僕は今までよりも神棚へと思い入れを強く抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣の神様

(案外、神様はいるものなんだなと僕は思った)










 某ホテル。夜に差しかかるこの時間帯は、人気が少なくなっていく。そんな中を、一人の男が通り過ぎては、暗くなりつつある空を煌々と照らすそのホテルの中へと入っていく。

 ニキビ面に、ずる賢そうないで立ちの小柄な男。夜の暗さに馴染みつつあった瞳を細めていると、長身の美女が現れて影を作る。

 美女は微笑むと、恭しく会釈した。

「待っていたわ。さあ、部屋に行きましょう」

 丈の短い黒のワンピース。露出した眩しい白い肌と、艶めかしい足を隠すような網目のタイツ。皮独特の光沢を帯びたブーツが、コツリ、とホテルのロビーの床を鳴らす。美しいキャメロンに、男はわずかに表情をとろけさせた。

 部屋に着けば、控えていたロビンが一礼する。男とキャメロンを招き入れて、ふかふかの上質そうなソファを勧めて座ったところを見届ければ、徐に新聞を取りだし、テーブルに広げ、蛍光ペンで印をされた記事を指差した。一人の男性が、高層ビルから飛び降り自殺したという内容のものだ。次に、ケビンは用意されていたプロジェクターから、ある動画を再生した。いつか見たような光景が映し出される。レオパードビキニを着たキャメロンと、その下で情けないほど恍惚と喘いでいる男の姿。出っ歯の、小柄な中年の男。

 その人物は、いつだったかキャメロンたちがターゲットとして近づいた男だった。ペーパーカンパニーに転職させるために仕組み、この映像は、その転職祝いとしてのやり取りを撮ったものだった。

 映像の後、ロビンは退職届を映し出す。キャメロンたちは、そこに書かれている名前と、新聞記事に記述された氏名が一致していることを認める。

 男はしばらく映像から目を離さず、映し出された退職届と映像を見つめ、視線をわずかにさえ向けることなく、こう尋ねた。

「君たちは、優秀な人材を選出したり、または潰すように仕向けることもあるのか?」

 リストラに見せかけて、と続ける男に、ケビンとキャメロンは静かに目を瞬かせると、一瞬互いの視線を交差させ、ケビンは口を開いた。

「いえ」

「そうか」

 短い言葉に一つ頷くと、男はそれ以上なにも言わなかった。

 帰り際、男はキャメロンのファンであると告げ、それを聞いたキャメロンは今回の礼と今後の付き合いの歓迎の証に、と男を易々と抱き上げる。キャメロンの美しいかんばせが男に向かって微笑むと、彼はそっけなく感謝を口にしたが、その表情はいささか熱を帯びていた。

 男が立ち去った後、キャメロンたちは遠くなっていく彼の背を見つめながら言った。

「良いお得意さんになりそうね」

「あの人がいつかのターゲットになる可能性もあるでしょうけどね」

 わずかでもキャメロンに酔いしれていた男の表情を思い出して、ケビンが優男らしく口許に手を添え、冷ややかな色を帯びて笑む。つられるように同じく笑みを浮かべたキャメロンも、違いないと言って踵を返した。





 某ホテル。夜に差しかかるこの時間帯は、人気が少なくなっていく。そんな中を、一人の男が通り過ぎては、暗くなりつつある空を煌々と照らすそのホテルの中へと入っていく。

 ニキビ面に、ずる賢そうないで立ちの小柄な男。夜の暗さに馴染みつつあった瞳を細めていると、長身の美女が現れて影を作る。

 美女は微笑むと、恭しく会釈した。

「待っていたわ。さあ、部屋に行きましょう」

 丈の短い黒のワンピース。露出した眩しい白い肌と、艶めかしい足を隠すような網目のタイツ。皮独特の光沢を帯びたブーツが、コツリ、とホテルのロビーの床を鳴らす。美しいキャメロンに、男はわずかに表情をとろけさせた。

 部屋に着けば、控えていたロビンが一礼する。男とキャメロンを招き入れて、ふかふかの上質そうなソファを勧めて座ったところを見届ければ、徐に新聞を取りだし、テーブルに広げ、蛍光ペンで印をされた記事を指差した。一人の男性が、高層ビルから飛び降り自殺したという内容のものだ。次に、ケビンは用意されていたプロジェクターから、ある動画を再生した。いつか見たような光景が映し出される。レオパードビキニを着たキャメロンと、その下で情けないほど恍惚と喘いでいる男の姿。出っ歯の、小柄な中年の男。

 その人物は、いつだったかキャメロンたちがターゲットとして近づいた男だった。ペーパーカンパニーに転職させるために仕組み、この映像は、その転職祝いとしてのやり取りを撮ったものだった。

 映像の後、ロビンは退職届を映し出す。キャメロンたちは、そこに書かれている名前と、新聞記事に記述された氏名が一致していることを認める。




─────

手が遅れまして申し訳ありません。途中での投稿となってしまいましたが、どうぞお納めください。悪い子さん、リクエストありがとうございました。

 いつまで、こんなことが続くんだろう。いや、打開する方法はある。考えなくても、解る。解っているんだ。それを、実行出来ていないだけで。
 私が、前と同じ調子で学校に行けば良いだけの話なのだ。ただ私が、そうしないだけだ。それだけだ。
 父と母の連絡で、今日は帰りが遅くなるらしい。というか、帰ってこれないらしい。元々今日は遠出する予定だったようだけれど、仕事が予想以上に長引いて終電を逃してしまったらしい。今夜はホテルに一泊していくとのことだった。だから今、家にいるのは私と兄だけだった。
 学校に行かなくなってしまった私は、生活リズムが乱れに乱れていた。昼間に寝すぎて夜眠れなくて、夕飯や昼食を抜いて夜食に菓子をつまむなんて、自分でもどうかと思う。だが、気がつけばこうなっていた。改めようと思えば改められるだろう。けれどそうしないのは、しきりに私を心配する母や父が、煩わしくて堪らなくて、ひたすらに会いたくなかっただけだ。
 今日も今日とて、夕食を抜いて夜食を食べにリビングへと踏み入れる。
 静かだ。いつも誰かがいる場所だから、こうも無音というのは新鮮だ。
 人気がないことに安心したのも束の間、冷蔵庫の扉を開けて中身を漁る人影を認め、私は思わず硬直する。
「…兄ちゃん…」
「……なんだ、起きてたのか」
 抑揚の目立たない声で言われる。それが威圧的に感じて、呆れられているように感じて──うんざり、しているようで。
 居心地が悪くて、つい肩を竦める。このまま立ち去ってしまおうか、とも考えて、不意に鳴った腹の虫にいっそう恥ずかしくなる。兄は無愛想な目と表情で私を見つめていると、緩やかに瞬いた後にこう言った。
「座ってろ」
 ただそれだけ。
「え?」
「だから、座ってろ」

「いや、だから……座ってろ、って、椅子に?」
 テーブルに仕舞われた家族分の椅子を指差す。大体食事をする時はこのテーブルだ。けれど、リビングにはソファもある。そもそも「座ってろ」が、なにを示すのかも解らなかった。

 兄はわずかに顔を怪訝に歪めて、「それ以外になにがある」、と言った。抑揚がない、疑問符が語尾につくかも解らない声色。
「なんで?」
「うるさいな。座ってろって言っただろ」
 怒気が滲む声に、つい怯んでしまう。兄は鬱陶しそうに目を眇めて、苛立たしげに私を睥睨する。その目と雰囲気と声が恐ろしくて、ただでさえ母と父に対する罪悪感や申し訳なさも拭えていないのに、どうしたら良いか解らないのに、兄の敵意に似たその感情を処理出来るほどの余裕はない。
 大人しく椅子に腰かける。兄が台所の棚を漁ってフライパンと鍋を用意して、冷蔵庫からケチャップとピーマンを取りだすのが見える。どうやら、兄も夜食を食べようとしてリビングにいたらしい。
 しばらく言われた通りに静寂を保っていれば、じりじりと鍋かフライパンを熱する音と、沸騰する音とともに湯気が見えた。すると今度は、なにかを切る音が聞こえた。響きからして、野菜。さっきピーマンを取り出していたから、きっとそれを切っているのだろう。
 沈黙が耐えられなくて、恐る恐る兄に話しかけた。
「……ねえ、なにを作ってるの?」

 兄は答えなかった。欠片も返事らしい声も言葉も聞こえなくて、挫けるように再び黙りこんだ。もしかしたら、料理に集中しているのかもしれない。それとも「うるさい」、と言っていたから、私の呼びかけには沈黙で殺すつもりなのかもしれない。
 居心地が悪くて、縮こまるようにして肩を竦め、椅子に座ったまま小さくなる。
 そうしていたら、兄が私の前になにかを置いた。とても美味しそうな匂いがして、顔を上げる。
 ほかほかと熱を放つ、出来立てのナポリタン。それを見て、ぐう、とお腹が鳴った。恥ずかしくて、ついお腹を押さえる。ちらりと兄を盗み見れば、兄は私をじっと見下ろしていた。
「食え」
 またも一言。それだけ言うと、兄は台所から自分の分らしいナポリタンを持って戻ってくる。と、私の正面に座った。
「食べないなら寄こせ」
 私を一瞥して言うと、兄は「いただきます」、と言ってフォークを取り、ナポリタンを突き始める。私は兄をしばらく眺めて、思い出したようにフォークを手に取った。
「い、いただきます」
 目の前の料理は、まるで母の作った料理のような、食欲をそそる温かさを持っていた。
 パスタを絡めて、具のウインナーやピーマン、玉ねぎと一緒に頬張る。出来立ての熱が口の中で放たれて、それを噛み締める。数度咀嚼して、私はつい目を見張った。
 美味しい。パスタを染めたケチャップも、胡椒の加減も、ピーマンの苦味も、なにもかも。
 炒められた玉ねぎとパスタのほのかな甘味が、ピーマンの苦味を程好く和らげている。ケチャップの味もくどくなくて、酸味もきつくない。ウインナーの柔らかさがそれらと絡まって、良い歯応えを作っている。胡椒のちょっとした辛味は、その美味さを引き立てていた。
 美味しい。とても美味しい。驚いた。兄は料理上手だったのか。
 その上、このナポリタンはマイルドな塩梅だ。母のナポリタンとは違う味付けがされている。一体なにを加えたのだろう。気がつくともうほとんど残っていない料理を飲みこんで、黙々と食べる兄に尋ねた。
「お母さんのと味が違うけど、なにをいれたの?」
 兄は緩やかに私に視線をくれると、咀嚼していたものを嚥下して答える。やはり一言。淡々と。
「卵の黄身。溶いただけのやつ」
 ナポリタンを見下ろす。見た目はスタンダードなナポリタンだ。けれどまさか、卵黄を加えただけでこれだけマイルドになるのか。
 じっと食事を見つめる私に、兄が不意に「ねえ」、と呼びかけた。予想していなかった声に、思わずびくつきながら「な、なに?」、と訊く。兄は首を傾げて言った。
「美味い?」
 凪いだ眼差しに竦みそうになりながら、私は小さく頷いた。
「……うん」
 あまり兄と話したことがないから、どう答えれば良いのか、どう接すれば良いのかまったく解らなかった。けれど、美味しかったのは事実だった。だから頷いた。
 なにか変なことを言ってしまっただろうか。俯きそうになりながら、様子を伺う。兄は何度か瞬きをすると、目を伏せる。

「そう」
 やはり短い返事だ。けれど、安堵したような色が垣間見えて、強張っていた肩がふとほぐれたのを感じた。
 気がつけば、私は兄が作ってくれたナポリタンをぺろりと完食し、皿やフライパンを片づけようとする兄に渡す。流し台に置かれる皿を見送りながら、小さく伝える。
「……ありがとう」
 少し、声が震えてしまった。でも、心は満たされていた。満腹になったと同時に、ちょっとだけ余裕が出来たみたいだった。
 兄は私を尻目に、スポンジに洗剤を垂らしながら「ん」、と声をこぼした。きっと、それは返事。
 それ以上なにも言わなかった。元から無口な性格だからか、それとも私にあまり感心がないのか、関わりたくないのかは解らない。けれど、兄は私になにも言わなかった。母や父のような、伸しかかるような心配も、心臓を刺すような小言も、なにも。それがとても、気が楽だった。
 私は歯磨きをして部屋に戻る。お腹いっぱいになったら、眠くなってきた。
 今日はこのまま寝よう。きっといつも以上に心地良く眠れる。なんだか、幸せな夢が見れそうだ。











美味しい

(無愛想な兄だったけど、作ってくれたナポリタンはとても優しい味がした。)

 学校への通り道に、桃が実っている木がある。

 農家という訳ではない。ただ玄関近くにある少しの空間にぽつんと植えられた桃の木だ。しっかりと手入れが行き届いているようで、実る果実はどれも甘やかで立派な桃色だった。

 もちろん、その桃はその家の人のものだから、果実を勝手に持っていくのはご法度だ。許されるものではないし、褒められたものでもない。

 だがその時の俺は、思春期ゆえの抑圧されたプレッシャーと感情と不快感の吐き出す矛先が欲しくて、少し「悪いこと」をしたくなって、帰り道、友達とグルになってその熟れた桃を二つくすねた。

 親に「買った」、と嘘を吐いて剥いてもらった桃は、やはり甘くてとても美味しかった。

 そんな「悪いこと」が癖になって、日を開けて何度か繰り返していた頃。桃の木の家から少女が出てくるのを見た。

 その少女はクラスメイトで、先生から一目置かれる優等生だった。それを自覚すると、ふと胸中の奥底で熱くて堪らない不快感と嫌悪感が沸くのを感じた。それはきっと、親に向ける反発心と反抗心に似ていたと思う。

 何故だか、俺は誰かに絶えず褒められ続ける少女が気にくわなかった。慕われる少女が、ただ恨めしかった。俺自身、品行方正とはとても言えないようなやつだったから、その事実もあいまったのかもしれない。

 俺はいっそう、桃をくすね取ることが多くなった。友達も以前よりも多く桃を取る俺を見て、少し心配そうに顔を曇らせていたが、なにか言いたそうな顔を睨みつける俺を前にすると押し黙ってしまった。

 俺にだって、これは「悪いこと」なんだという自覚はある。この行動は、八つ当たり染みていた。あまりにも幼稚な動機だ。気に入らない、ただそれだけの。

 そうして桃を盗む日々が続いた時だ。ついに、実っていた桃がなくなってしまったのだ。元より度々収穫されていたのか、時折あった桃が少なくなっていることが間々あった。けれど、ついに青い桃を残して熟れたものがなくなったのだ。登校する道で、少女が悲しそうに桃の木を見上げているのを見た。すぐに、視線を外してしまったけれど。

 少女が突然、血相を変えた先生に呼び出されて、らしくなく廊下を走り去っていったのはそんな時だった。今まで見たことがなかった少女の慌ただしい様子に目を丸くさせていると、彼女は先生の車によってどこかに向かった。立ち去り際の彼女の顔色は、とても悪かった。


 少女の母が死んだらしい。

 今朝、先生のお知らせで重々しく、痛々しくそう告げられた。少女はいなかった。ぽっかりとした空席が、どこか寂しかった。

 結局、少女がいないまま学校が終わり、俺は日課になってしまった桃盗みのせいで、もうないことは解っているのにあの桃の木のところへと向かっていた。

 桃の木は、もうなかった。

 少しだけ唖然として近寄れば、足元にまだ瑞々しい切株が残っているのを見つける。ついさっき切り倒されたようだった。

 一体どうして、と思ってその場に佇んでいれば、家の扉から少女がやってくる。葬式に出ていたのか、来ている制服からはほのかに線香の匂いがした。

「どうかしたの?」

 そこで初めて、俺は彼女と会話した。今思えば、良くばれずに盗めたなと思う。自分でも呆れてしまうけれど。

「……ここにあった桃の木、どうしたんだ?」

 素直に尋ねた。なにもしていなくても、ここは登下校に使う道だ。目につく桃の木がなくなっているだから、少なからず気にはなるのだと、誰に言うでもなく、尋ねられた訳でもなく言い訳をする。心の中で。

 少女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにそのあどけない顔に憂いを帯びさせて俯く。なにか不穏なものを感じた。

「……切り倒したの。お母さん、死んじゃったから」

 言葉の意味が良く解らなくて、首を傾げる。

「お母さん、ずっと入院してたの。身体悪くて。 …桃が好きだったから、前から植えられてたんだよ。お見舞いに送ってたんだけど、死んじゃったし……最近は、盗む人がいるみたいだったし」

 どきりとした。ばれてはいないみたいだったが、やはり認識されてはいたらしい。途端に自分がやっていた「悪いこと」を暴かれるような悪寒がして無意識に身構えるが、彼女に気がついた様子はない。

「……お母さん、桃好きだったから」

 悲しそうに、寂しそうにそう言った少女に、胸が痛んだ。異様に喉が渇いて、体が凍えるような感覚に陥る。

「いつ、亡くなったの?」

 尋ねると、少女は少しだけ逡巡して、俯いたまま答えた。

「一週間くらい前だよ」

 それは、桃の実がなくなった日だった。











の木

俺は咄嗟に謝ることも出来ずに、ただ自己嫌悪に苛まれた。


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お久しぶりです。元気ですよ。

また度々顔を出そうかと思っています。