19 -ナインティーン-

綾崎 隼 紅玉 いづき 柴村 仁 橋本 紡 入間 人間










『19歳をテーマに、5人の人気作家が描く、彼女彼らの物語。』




感想



5人の作家による短編集。

中でも好きだった「19歳だった」と「×××さんの場合」の2編ついて。




「19歳だった」入間人間


主人公がある「抜け出せない世界」に迷い込む。


そしてその「時」を何度も繰り返す。




何が原因なのかも、抜け出す方法もわからない。


ただ、確実に自分の体は成長している。




選択分岐型のゲームのようなイメージで、

すらすら読めて面白かった。



途中で、一面を埋め尽くすびっくりするようなページや、


急に文章が二段組みになったりするところも斬新で、わくわくした。








「×××さんの場合」柴村仁



ある出来事に対して、いろんな人の視点で語られた物語で構成されている。



改めて人によって物事の捉え方は違うのだなって思ったし、

1方向からの意見ほど危険なものは無いと思った。



でも、なによりも内容が面白い。



19歳の男女がxxxさんの場合という形で語っている間に、


19歳のような語り口調で

「パンドラさんの場合」



「イザナミさんの場合」


なんてものが挟まれている。


今まで柴村仁に泣かされてばかりだったので、

こういう面白い、にやっとしてしまう小説も読むことが出来て嬉しい。




楽園まで  張間ミカ









説明文



『静かに、深く雪が降り続ける世界―。双子の姉弟・ハルカとユキジは「悪魔」と呼ばれ、「狩人」に追われていた。あることがきっかけで、言葉と感情を失ったユキジの手を引きながら旅するハルカは、偶然出会った青年のウォーテンに、旅の理由を聞かれた…。ハルカはそっと答える。「私たちは“楽園”を探しているんだ」第5回トクマ・ノベルズEdge新人賞受賞作。』





感想



文章がとても美しくて、世界観と合っていたと思う。

どこまで行っても、真っ白の世界。

白しかない、寒くて悲しい世界。




双子が逃げなければならない理由の切なさ、


2人で怯えずにに暮らしていけるだけで充分なのにそれすら叶わない悲しさ、


それを追う狩人に浮かぶ「疑問」や「葛藤」





「私たちが生きていくためには、どこかに敵をつくらないといけないのよ。」


果たして、本当にそうなのか。



読んでいて思わず喉が熱くなる、こみあげてくるものがある小説だった。















ダイイング・アイ 東野圭吾









説明文

『誰もが少しずつ嘘をつき、
誰かを陥れようとしている。

記憶を一部喪失した雨村慎介は、自分が交通事故を起こした過去を知らされる。
なぜ、そんな重要なことを忘れてしまったのだろう。
事故の状況を調べる慎介だが、以前の自分が何を考えて行動していたのか、思い出せない。
しかも、関係者が徐々に怪しい動きを見せ始める……。

俺をみつめるマネキンの眼。
そいつは、確かに生きていた。』



感想



読了後、「怖い」と思った。

まさに ダイイング・アイ




400ページある小説だが、ページをめくる手が止まらなかった。

次々に現れていく「違和感」


誰が、何を、知っているのか

何を隠しているのか

見えてきそうで余計に謎が増えていく感じが面白かった。



人間の欲望や身勝手さ、愛を突き詰めていくと・・・?

そんな歪んだ部分が詰まっている小説。


しかし、気になったのは文庫本の裏表紙に書いてある作品紹介文。

この最後の一文は読了前に読んでしまうと先入観が入ってしまい勿体無い気がした。

 




セカンド・ラブ  乾くるみ













帯に


「イニシエーション・ラブ」の衝撃、ふたたび


これにやられてしまった。






イニシエ読者で、あのぞくっと感がたまらなかった人なら、
思わず手が伸びてしまうコピー。





乾くるみの本には大体「イニシエの作者」や「イニシエとはまた違った一面が」

なんてコピーがついてるものが多いけど、

”イニシエの衝撃、ふたたび”なんてコピーを使ってくるとは思わなかった。






だってイニシエを越えられる、そんな確信がない限りはこんなコピーは使えない。





なかにはイニシエを凌ぐなんてコピーもみかけたけれど、




正直、

イニシエは凌げてない、と感じた。




イニシエは確か最後の1行(1文)で世界が崩壊するのに対し、

セカンドは最後の4行で世界が崩壊する。





イニシエは1度読み終わってもまた冒頭から全部読みたくなるのに対し、

セカンドは冒頭のプロローグさえ読めば充分。



この点からしても、イニシエの方がはるかにトリッキーで力があった。





正直、セカンドのトリックも私には最後まで読むまでわからなかったし、

読んだ後すぐには理解できなくで、最後の4行を何回か読み直した。




理解したあと、しばらく衝撃で動けなかった。





そして、冒頭のプロローグを読み直した。

作者の思惑通りだと思う。





しかし、イニシエの方が好きだという理由がたくさんある。




まず、イニシエは世界が崩壊したあと、二巡目を読めば

「あぁ、こういうことだったのか」と解決できることが多いが、

セカンドは謎のまま残ってしまう箇所がいくつもある。





乾くるみがこんなにも多くの謎を放置しているとは考えにくいので、

単に私の読解力が足りないからかもしれないけれど。







すべての謎を解決できる読者がいたら是非聞かせてもらいたい。






しかし、イニシエ読者なら、読んでも損はない一冊。



気をつけるべきポイントは、イニシエよりも嫌な気分になってしまう(笑)ので、


読む日、時間は気にした方がいいかもしれない。



これを邪道だという読者も出てくるのだろうな。










勝手にふるえてろ  綿矢りさ














冒頭から、文章の流れがキレイ。



『とどきますか。とどきません』




本の中へ引き込む力が強い。





貸してくれた友達が


「綿矢りさの3年ぶりの新作なの!!
何度も何度も文章とか練って練って書いたんだろうなってわかるくらいいいの!」


と熱く語っていたのがよくわかる。






登場人物を表す


「星のかけらを食べてきたような人」という表現がまた秀逸。


他には無い表現なのにも関わらず、
容易に想像できてしまうことがすごい。





さらに、冒頭の「私には恋人が二人いる」という衝撃。


一気に引き込んだまま最後まで突っ走らせる。


分量が少なかったので、読了後も物足りなくて、もっと読んでいたかったと思うほど。





読んでいて、彼女の視点で相当美化されているのかもしれないけれど、

かなり、イチが好きになった。

周りとはどこか違う。



彼女が特別視しているからだけかもしれないけれど、
読み手にとってもイチが独特の存在であることが刷り込まれていく。



イチが、彼女に声をかける場面があるのだが
そこでは彼女と同じように心拍数があがるくらい
彼女に感情移入できていた。





読みながら、どこか少女漫画に近いものも感じて
じれったいと思うところも出てきたけれど、
少女漫画を殆ど読まない私が、
そこを含めてもまた読みたいと思う作品だった。





終わり方も気に食わななくはない、と言ったら嘘になるけど。






とにかく、文章が美しい。
表現が鋭いくせに刺さらずなめらかに入ってくる。





ただの甘ったるい恋愛小説に飽きたなら読んでみる価値は多いにある一冊だと思う。