私の最も愛読する書籍の一冊がデュ・モーリアの「レベッカ」です。
書棚の一番取りやすいところに置いて、長い間に渡って何度となく読み返している飴色の文庫です。

「レベッカ」の主人公、「私」。
「私」は、ただ「私」とあるだけで、その名前も年齢も出ては来ません。
誰も「私」の名前を呼ばず、最後まで「私」は「私」でしかないのです。

去年の秋、パリから足を伸ばして、ロワール地方で週末を過ごした際にも持参しました。

その晩、宿泊先として予約していたシャトーホテルが見つからず、焦る内にやがて夜の帳が下り辺りは藍色から漆黒に変わっていました。次第に込み上げる不安とその先にある恐怖から必死に目を逸らし、ただひたすら真っ暗な闇だけが続く中、車を走らせたのでした。いくつかの田舎町を抜け、途中何度か同じロンポワンに戻ってはくるくる回って表示を確かめたりしながら何時間も車を飛ばし続けた頃、とうとう目の前に白く浮かび上がる小さな看板が。確かに予約を入れたシャトーホテルの看板に間違いありませんでした。

さらに近寄って見れば、そこには大きな門扉があり、その奥は・・・またしても真っ暗闇で何も見えず・・・。
これこそが今夜宿泊するシャトーの入り口のはずと信じ、車を中へ進めました。

砂利の道に車体を揺らされながら先を急ぐものの、行けども行けどもライトに照らされた周囲は鬱蒼と木々の生い茂る森。入り口はここじゃなかったのか・・・どこかでわき道に逸れたのか・・・と目まぐるしく考えを巡らせていたその時、前方の木々の間から静かに現れたものこそ、世にも美しいシャトーでした。月光に照らされたシャトーが見えるや、私は思わずと声を上げました。
それはまさに私が思い描いていたレベッカの舞台「マンダレー」でした。

私は「私」になったような気分で、夢中で先へと車を走らせました。



そのレベッカのDVD、今さらですがやっと買いました。
ずーーーと欲しかったけどそのままになっていたもの。そういうことってありますよね。

ワイン片手にじっくり見ました。良かったーー。



ビクターエンタテインメント
レベッカ