キキは最近よく考えるようになった。

父の話の中によくダーウィンが出てくる。なぜダーウィンなのかについてはキキもあまり理解していない。また時々話題に出てくる脳の話についても面白いとは思うものの、まだ全部は理解できていない。脳と目は外界の急激な変化を捉えることが出来ても、ゆっくりとした緩慢な変化は認識できないという。ダーウィンは動物の進化の永い歴史の中での変化を捉えようとしただけでもすごいと父は言う。当時は進化という考え方は無く漠然としたものであったに違いない。

また人は自分の決断の300ms前には脳が決断しているという。つまりじゃんけんぽんでも、グーか、チョキか、パーかも、すでに決定されているという。300msとは1秒の3分の1位である。チョット短い時間であるが、認識出来ない訳ではない。父の話の中に、時計の秒針と目についての話があった。普通人が秒針を見ている時は、連続的に認識され、1秒が長くなったり、短くなったりはしない。しかしある条件では1秒が長く感じることがあるという。

何気なく時計の秒針を見た時、1秒が長く感じることがある。まず絶妙なタイミングが必要がある。つまり秒針を見た時、秒針が動いた直後でなければならない。見て秒針が直ぐに動いてしまうタイミングでは1秒間が長く感じられるようなことはない。つまりタイミングが合うと、人は1秒の時間の長さを誤解してしまうと言うのである。

それはリラックスしている時に何気なく時計を見た時、秒針が動いていないかのような感覚に陥ってしまう。説明よりかは自分で確かめた方がよい。キキも実はそのような経験をしている。キキの時計は女物にしては大きく秒針も付いている。会社に行く時、時計を取り上げはめようとした時、秒針が動いていないかのような感覚に陥り時計を振って動かそうとしたことがあった。よく見ると動いている。しかし動き出す前は明らかに止まってしまっていると思ったのである。

キキは直ぐにテレビ番組を思い出した。一枚の絵が出演者に見せられ、何か変化してものは無いかと司会者に質問される。ほとんどの人が答えられない。もう一度同じように見せられる。2,3回見ていると、「あっ分かった」といそいそと司会者にかけより答えを言う。司会者は正解と大声を上げる。それでもまだ気が付かない人の方が多い。父の言う緩慢な変化を捉えられないと言う実験でもあるとキキは考えた。こんな簡単なことで脳の仕組みや機能が分かってしまうなんて面白いとも思った。

そこでキキは考えた。大昔の人は外界の緩慢な変化に注目する必要はあまり無かった。しかし野生動物に襲われそうな時、その変化を直ぐに認識し攻撃に備える体勢を整える必要があった。脳はいろいろあり進化しているものの、あまり進化していない機能もあるのだなと考えた。

キキは少し偉くなったような感覚に陥った。(まだまた・・・とウサギの声が聞こえたように感じた)

(つづく)