パーソナルモビリティー(Personal Mobility、以下PM)とは、1人乗りの移動機器を意味する。歩行と既存移動体との間を補完するツールであり、人が移動する際の1人当たりのエネルギー消費を抑制するという意図のもとに、従来の自動車と一線を画した移動体として提案されている。
セグウェイに代表される、先進技術を用いた電動車両を指す名称として定着しつつあるが、セグウェイの製品名にも使用されるパーソナルトランスポーター(Personal Transporter)や、搭乗型移動ロボット、マイクロEVなどの呼称も使用される。
ヤマハ発動機のPASで有名な「電動ハイブリッド自転車」は、電動アシスト自転車という範疇に入り、電動機(モーター)により人力を補助する自転車である。電動アシスト自転車は、原動機付自転車(原付)とはちがい、運転免許、ヘルメット着用、自賠責保険への加入といったものはまったく不要で、普通の自転車とおなじ扱いの乗り物としてだれでも乗る事が出来る。これに対して、最近注目を集めるようになった電気スクーターは、電気自転車とも呼ばれる事があるが、足で漕がなくても自走可能な電気自転車は原動機付自転車(モペッド)として区別される。自走可能、一人乗り、小型EV、低エネルギー消費という特徴を考慮すると、電気スクーターは、PM
のカテゴリーに近いのではないかと思われる。
現在国内で市販されている電気スクーターの各機種については、国産では、ホンダ、スズキはもちろん、イタリア製、アメリカ製、価格競争力のある中国製など、すでに熾烈な競争がくり広げられており、一部は電器量販店などでも販売されるようになった。一方、PM
という大きなカテゴリーでみるとどのような製品があるのだろうか?海外にも目を向けてみると、一般的なスクーター型のデザインだけではなく、コンセプトの優れたものや楽しくかつ面白いデザインのものがあり非常に興味深い。本誌面ではこのなかからいくつかのモデルをピックアップしてみた。
セグウェイ(Segway)http://www.segway-japan.net/index.html
アメリカの発明家ディーン・ケーメンを中心に開発され、Segway Inc. から発売されている電動立ち乗り二輪車。初めて実物を見たビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾスといったIT界の著名人達が「人間の移動形態を変える革命的な製品」と絶賛したといわれている。
現在日本の公道では一切の利用が認められていないので、利用は私有地内に限られているが、次第に一般化されるようになり、埼玉県越谷市のショッピングセンター・イオンレイクタウンではガイドやセキュリティーの移動ツールとしても使用されるなど、大型施設での導入が進んでいる。
また、パリでは市内観光ツアーにも使用されているようだ。
このツアーに参加した方の感想では、「セグウェイに乗っての市内観光は、パリの主要観光ポイントを押さえているので初心者にもおすすめ。パリ観光といえばバスや地下鉄で回るのが主流ですが、セグウェイならば移動中も町並みが見れるので観光地ではないパリの素顔が覗けたりするのがとても楽しいんです! 」とのこと。
ユースリーエックス(U3-X)
http://www.honda.co.jp/ASIMO/new-tech/u3x/index.html
本田技研工業が開発した、ひょうたんの様なユニークな外見を持つ電動乗用一輪車。コンセプトモデルであり市販の予定はない。操縦は体重移動で行うが、自動的にバランスを取るので静止したままでも倒れない。車輪のタイヤ部分は横向きに並べた複数の小径車輪で構成されており、小径車輪の回転で真横へも移動する。バランス制御には二足歩行ロボットASIMO(アシモ)の技術を応用しているという。初披露をした東京モーターショーでは、同社のコンセプトカーであるEV-Nのドア部やSKYDECKの荷室へと収納し、かつての小型車ホンダ・シティと、シティに搭載可能な小型オートバイホンダ・モトコンポとの組み合わせを思わせる展示を行った。
YikeBike http://www.yikebike.com/
開発者のグラント・ライアン氏曰く、「YikeBikeは、世界で最もコンパクトな電動自転車だ。」ただし、自転車とは書いているが、ペダルを漕ぐ機能はない。どちらかというとセグウェイなどに近い、マイクロEVと言った方が正しいだろう。19世紀に流行したペニーファージングのような前輪大径、後輪小径という形をしているて、前輪の上にすわり、座面の下からのびたハンドルを握って操作する。この配置による操舵感はリカンベントバイクに近そうだ。公道での運転にはある程度の度胸と技術が必要ではないかと思われる。
1000
ワットのハイパワー小型モーターを前のメインホイール内に搭載しているおかげで、坂道も楽々登ることができるという。最高時速はセグウェイより少しだけ早い23km/h。40分でフル充電、航続距離は9.7km。車体がカーボンファイバー製なので、総重量は10kg。PASなどが20kgを超えていることを考えると超軽量だ。そのため、3600ドルと高価だが、将来的には廉価版の展開も考えられているとのこと。
Gocycle http://store.gocycle.com/default.asp
F1レーシングカーのエンジニアであったリチャード・ソープ氏は、マクラーレン社で時速200
マイル(321km)のマシンを設計していたが、心の中では常にもうひとつの技術的チャレンジがあった。それは、手ごろな値段の時速16マイル(25km)の折りたたみ電気自転車をつくることだった。2002年、ソープ氏はマクラーレンF1のデザイン・エンジニアとしての仕事を辞め、ロンドン南部のウォータールーに、通勤用自転車を設計する目的でカーボン・カイネティクス社を設立した。
ソープ氏は副業として10年間自転車を設計していた。そして、軽量構造物に関する経験を利用して、ケースに入れて持ち運べる電気自転車を設計することに決めたのだそうだ。この自転車は乗り手がペダルをこぐことなく、約20マイル(32km)走行することが可能である。充電時間は3
時間。
Voltitude http://www.voltitude.com/
スイスアーミーナイフのようなオシャレなデザインのメカマニアックな電動自転車。簡単、手軽に折りたたみが可能。EU諸国やメーカー所在地のスイスでは自転車と同類に扱われ、運転免許は不要。
以上5つのモデルをみてきたが、5-10年後に街中をこれらのPMが軽快に走っているのかどうかは人々の意識変化や交通規制に左右されることになりそうだ。今後の展開を考える上で、電気自転車、マイクロEVを含めて、ヒトの移動手段として見た場合にメリット・デメリットはどのようなものがあるだろうか?
メリット
従来のガソリンエンジン式と違い、電気を使って走行するために、排出ガスを全く出さない。
走行中の振動、騒音が少なく静か。
減速時に充電をすることができるなど、エネルギーの消費効率が良い。
デメリット
航続距離が短く、積載量が少ないことなどにより用途が限定される。
現時点では少量生産で、電池価格が高いなどにより車両価格が高くなる。
充電に時間がかかる。
例えばEV(電気自動車)は、環境にやさしく燃費も良いが、実際の普及には時間がかかりそうだ。最近は1人乗りの電気自動車や電気スクーターが各種販売されてはいるものの、これらがなかなか普及しない理由は車両価格やランニングコストが高い、走行距離が短い、充電施設が一般化していないことなどがあげられるだろう。PMが普及するには、やはり今後、一層の蓄電・充電技術の向上、コスト低下が求められることになりそうだ。
一方、PMが一般公道で使えるかどうかを、道交法という規制から見てみるとどうであろうか。現状では、(電動アシスト自転車ではないものについて)日本の基準に適合しない輸入車や、足で漕がなくても自走可能な電動モペッド(いわゆるフル電動自転車)は、法規上自転車の扱いとなる電動アシスト自転車ではないので、日本の公道で走らせる場合、保安部品を装備した上で原動機付自転車又は自動二輪車としての登録等が必要となる。つまり、運転免許が必要、ヘルメット着用、保険加入の義務が生じることになる。安全・安心を担保するには必要なことではあると思われるが、電動アシスト自転車と同様の気軽さ、手軽さが実現されるまでにはまだまだ長い道のりとなりそうだ。