ブリジットが人の心を持って死にたい、との想いを科学者の柿本直哉に告げた時、その人の心に寄り添うように彼は「俺のことは直哉と呼べ」と言った。
それは限りある時間という川の流れが、大きく湾曲するかのような出来事であった。
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「お帰りなさいませ、長秋様。」
医師であり、ブリジットの主である在原長秋は屋敷に戻っていた。
正門で出迎えたのは庭師型アンドロイドのグレース。
玄関で出迎えたのは調理型アンドロイドのキャサリンだった。
「マーガレットは?買い物か?」
ハウスメイドのマーガレットの姿が見えない。
キャサリンに聞いても回答しようとしなかった。
が、長秋は暫くぶりの生家に大きな変化がないことにまずは安堵した。
「さぁ、たんとお召し上がりくださいませ。」
主の帰還に豪勢な晩餐で喜びを表現するキャサリン。
「変わりなくて安心した。
僕の不在時にも、そのまま料理をオートメーションに作り続けてなくて良かったよ。」
並べられた自分の好物を前に、皮肉っぽく返しても、最新型アンドロイドのキャサリンは意に介さない。
「当然ですわ。不在時用のプログラムが作動するだけであります。
それに過去にも宿直や出張もあったではありませんか。
私達は充電出来る環境と使用契約が存在する限り、ご主人様に最善を尽くします。」
「そうか…、マーガレットの不在理由を答えないのも、僕の為の最善か…。」
「はい…。」
「それよりもこのご馳走はどういうことだ?
栄養学を無視し過ぎじゃないか?」
「いいえ、バランスの偏りなど、一週間、1ヶ月のメニュー変更でなんとでもなりますわ。
もうこれからはずっと私と…。」
「そうか最後の晩餐じゃあなかったんだな。」
自嘲気味に言ってみて、長秋が自分を廃棄申請するのを感付いての晩餐かと疑ってみた。
が、その時長秋は自身の異変に気付いた。
「キャサリン…お前、料理に何を…。」
「安心してくださいませ。
私は主との心中を願うようなポンコツではありません。
ただ…私の人工知能が、長秋の心と身体の健康を永遠にお守りするには、これしかないと判断したのです。」
椅子の後ろに立ち、首に手を回すキャサリン。高温調理用に重工な金属の彼女の肌がやけに柔らかい。
「さぁ、長秋様。私を…お召し上がりくださいませ…。」
「君は…自分を性接待のセクサロイドに改造したな!?マーガレットの不在とも関係あるのか?」
続