「私、本当のお母さんを取り戻したいんです!」
喫茶ロビンフッドには、「どんな願いも叶う場所」として訪れる者も少なくない。
ただ、今回の少女は幾つかの複雑な事情も抱えているようだった。
「園子、まぁ、何ですか?
私を思う気持ちは嬉しいですけど、誰かにご迷惑をかけるんじゃありません。」
園子という娘に遅れて店に入ったのは、落ち着いた佇まいの女性だった。
この娘の母親にどんな災難が…?
男絡みか?金銭か?はたまた娘自身の進学か?と思いを巡らせていれば、娘の口からは予想を覆す言葉が出た。
「信じて貰えないかもしれませんが、お母さんは取り憑かれているんです!」
憑き物か…。確かに珍しい類いの相談だが…。
「いい加減になさい園子。
仮にこのお店の方達が、どんなに有能な霊媒師さんを紹介してくださったとしても、私は何も変わりありません。」
「でも、もしも、本当に『あいつ』の言う通り消えちゃったら…。
私、もう嫌!堪えれない!
暴力は振るうし、私からお金取るし、あんなの本当のお母さんじゃないよ!」
「大丈夫よ。私が園子を絶対に守るわ。私は絶対に何処にもいかないから。」
…なるほど…そういうことか。
そこまで追い詰めた母親に原因があり、お嬢ちゃんにしたら千載一遇の救いだったわけか…。
「憑依の話については解りました。
しかし、『本人』と、話合わない限り、本当の解決にはなりませんよ。」
「イヤよ!話すことなんて何もない!あんなのお母さんじゃない!」
と、このお嬢ちゃんが叫んだ時、女性の様子が変わった。
前のめりにテーブルに倒れたかと思えば、肩を震わせながらゆっくりと頭を上げた。
「イヤ!消えないで!あんたなんかお母さんじゃない!出てこないで」
「けっ!腹を痛めて産んだ恩を忘れて、母親を悪霊扱いとは、腹黒い所だけは死んだお前の父親にそっくりだね!」
「いやぁ、消えないで!消えないで!私とずっと一緒に居て!」
「…大丈夫よ、園子!私は消えない。もう少しで完全に園子のお母さんの身体を乗っ取れるから!」
そう…娘を虐待する最低な母親に憑依したのは、不慮の事故で亡くなった心清らかな尼僧の霊だった。
そして園子という娘は、実の母親の人格が完全に消える方法を求めてこの店に訪れたのだった。
私はたった一言だけ助言した。
「心の底から『お母さん』と呼んであげなさい」と。
さて、少女の選択は如何に…?
了