のの香と早乙女、それに中ノ瀬先輩達で立ち上げた応援団は予想外の大人数が集まった。
ダンスも音楽もまだまだチグハグだが、観衆全員が大記録の目撃者になろうとしていた。
『小宮くん頑張って~!』
『必殺シンカーは無敵よ~!』
山大付属に勝った後の三回戦。
先発した小宮泰造君のノーヒットノーラン記録だ
と、言っても我が貴川西の打線爆発で五回まで17対0。
コールド勝ちでのノーノーは「大」記録じゃないかもしれないけど…。
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「何よ!みんな小宮くんが活躍したからって急に応援しだして!試合前はウザいくらいに玉野君~玉野君!って言ってたクセに!みんなミーハーなんだから!」
「どの口がそんなセリフを?内心『しまった』って思ってるでしょう?」
「べ、別に私は玉野君が人気者だから好きなんじゃないんだからね!」
「じゃあ小宮くんは?」
「うん…顔は

…だけど、カッコイイんじゃ…ない?マウンドの上はね…。」
「もう!素直じゃないですね。」
「藤田さんこそ早目に勝負しないと、金城くんもそのうち大人気になるわよ!ライバルは玉野君と東瀬さんだけじゃないわよ。」
「うん…。」
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「観ててくれてるよね、早乙女さん?
君に捧げるウイニングショット!ファイナルシンカーだ!」
「カツン!」
当たり損ねの打球は、鈍い金属音を立てながら遊撃手・玉野秋成のグラブに吸い込まれた。
身体を入れ替えずにスナップスローで二塁に送球し、四球で歩いた走者を封殺する。
ボールを受けた二塁手・金城慎太郎は、ランナーのスライディングを華麗な跳躍でかわして一塁に送球する。ファーストミットに乾いた音が響いた瞬間に、審判からゲームセットがコールされた!
「キャー!やったー!
玉野君と金城君のコンビは完璧~!」
「小宮くんおめでとう!」
「ありがとう。俺だけの力じゃ無理だったよ。お前達が守ってくれて、先輩達が打ってくれた。
そして何より、早乙女さんの愛があればこそ…。」
「そ、そうだよね…。」
「お前達も、早く答え出せよ」
「わかってるよ、ねぇ、秋成…。」
「あぁ、約束だったな。『最期の』勝利の抱擁だ…。」
「…大好きだったよ秋成…。」
「俺もだ慎…。
運命が味方してくれるその時まで…。
違う誰かを選んでも、もう恨まないから」
(完)