控えの僕らは、レギュラーの先輩達の活躍を応援するのに必死だった。
でも…。
「代打・玉野!」
九回二死満塁。監督がラストチャンスに告げた名前は、一年生で一番の成長株の玉野君だった。
いや、成長株って言葉は正しくないかもしれない。
玉野君は既に完成品だった。
恵まれた体格に非凡なセンス。長打力だけならチームで一番だと思う。
でも、練習嫌いと先輩への不敬が反感を買い、今日のこの試合まで代打の出場だけだった。
点差は二点。満塁本塁打が出れば勿論、逆転サヨナラ。走者一掃でもサヨナラ。
二人還るだけでも同点。
でも、凡退なら即ゲームセット。
文字通り祈る気持ちで精一杯、玉野君が打つことを願った。
「カキーン!」
甘いカーブを見逃すことなくバットを振り抜き、打球は右中間を破った。
二人還り同点。
一塁ランナーの須永先輩もホームに突っ込み、逆転サヨナラかと思ったが…。
「アウトー!!」
主審の無慈悲なコール。
逆転はならずホームで憤死。
スリーアウトチェンジで試合は延長となった。
正直、延長を戦える力は残ってないと思った。
でも、不運はそれだけでなかった。
「須永!大丈夫かー?」
ホーム突入の際に先輩の負傷。
そして…。
「金城、セカンドだ。いけるな?」
「はっ、はい。」
「玉野はそのままショートに入れ。
延長ならお前のバッティングがまだ必要だ!
ショートいけるな?」
「…はい。」
玉野君に緊張って言葉はないのだろうか?
玉野君が遊撃手としてノックを受けた所なんて見たことない。
僕なんか最近はサードばかりで、セカンドを守るのなんかリトル以来だし…。
いや、そもそも玉野君が何で野球部入ったのかも知らないし、過去にどんな経歴があるか知らない。
ただ、同じクラスでマネージャーの東瀬が勧誘してきただけで…。
「慎太郎、こんな形で試合出るなんて思ってなかったでしょうけど、準備はしてきたんでしょう?
打撃は期待してないけど、守備は安心して見てるからね!」
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玉野君は守備も華麗だった。
僕も必死に泥臭く球を追った。
延長12回まで玉野君と二つの併殺に成功した。
そしてその裏、死球で出塁した僕は玉野君のバットでサヨナラのホームを踏んだ。
普段は感情を表に出さない玉野君が痛いくらい僕を抱き締め、
「何度でもお前とこうしたい。」
と言った。
その時、僕は「勝ち進みたい」って意味と思い込んでいた。続