「変わったわね、グラシャ=ラボラス…。
かつては誰彼構わず近寄る者全てを切り捨てる『流血の悪魔』も、良き教え、良き心に導く『文学の悪魔』カール・クリラノースの方が勝ってるわね…。
ウフフ、王明くんとの離婚後は、私に取って色々と楽しみが多そうですわ♪」
わざとらしくフリルのスカートを摘まみクルリと回り、年不相応な悪戯な瞳は、私に関係する三人の男性をじっくりと見つめていた。
「まずはグラシャ=ラボラス、私は狂犬の貴方よりも、野良犬の貴方よりも、誰かの番犬の貴方の方が好きよ。
でも、貴方には私を狩る猟犬で居てほしいわ。いつまでもね♪」
「だったら今ここでお前を流血の海に…。」
「キャンキャン吠えるだけの犬は嫌いって言ってるでしょう?
そして次に総統閣下様。
額に汗して薄給を稼ぐ事に日々勤しむ閣下…。」
「薄給と言うな!
余は日常に支障を来すような遣り繰りはしておらぬ!」
「あらあら、臣民の命を預かる時の権力者に聞かせてあげたい台詞ですこと…。
いえ、閣下は勿論、ヤハウェより遥かに揺るぎない絶対覇王の器でごさいますわ。
その人間のお姿も何と魅惑的ですこと…。
シトリーはいつでもお暇であります。
閨に空きがごさいましたらいつでもお呼びくださいまし。
誠心誠意の房術でおもてなしを…。」
「余はお主の才覚のみを評価しており、夜伽の相手に女判事を所望はせぬ!」
「…。」
「…。」
「ご無礼はこれくらいにしておきますわ、閣下。
過ぎた意地悪はパイモンをムキにさせますから。」
高笑いをするシトリーは大魔王サタンをも手玉に取っていた。
「最後に…。
可愛い犯人くん。
泥棒はいけないんだよぉ…。
私に離婚を決意して、家庭崩壊だもん…。」
シトリーの瞳は近藤優刑事にも向けられた。
人間故にシトリーが纏う魔力に無頓着な近藤であった。
「僕は犯人じゃないし、貴方のご主人がでっち上げで僕を…。」
「犯人に間違いなくてよ♪
私の心を盗んで離婚を決意させた恋泥棒さんですもの♪
近藤刑事、下のお名前は何と?」
「はい、優(ゆう)って言います。『優しい』の優です。」
「まぁ、イメージ通り!」
「ちょっと近藤くん!何普通に答えてんのよ!?」
と、駆けながら詰め寄る宇都宮に
「私からの宣戦布告ですわ。
『鉄砂スカート下ろし!』」
「キャー!」
纏わりつく砂鉄の重みでスカートが落ち、転倒する宇都宮真樹だった。
続