「リンゴを握り潰すたぁ、サタン様にしちゃあ地味なパフォーマンスだが、『禁断の果実』を握り潰すと解釈したら、天界へのいい宣戦布告じゃあないですか?まっ、いつ黙示録戦争が起きても俺は手伝いませんけどね」
「但し、『正式契約した場合はその限りではない』だろう?グラシャ=ラボラス。
余からも頼む。かつては余の部下であったアンドロマリウスをお前が守ってくれ…。」
「悪魔は契約分の仕事をします。
だが、ことアンドロマリウスと俺はそんなのを超越した因縁があるってのは、サタン様が一番ご存知で…。」
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「さぁ、次の彼氏さんどうぞ!」
司会の女性に促され、遂にグラシャ=ラボラスがステージに上がる。
観衆は彼のその容姿に圧倒され、ただステージ上のアラフォー男性に釘付けになっていた。
司会の女性も一時仕事を忘れて頬を紅く染めながら…。
「ええと、先ほど宝探しの特技を披露した安藤真利子さんの彼氏さんですよね。
お名前は?」
「名乗るほどの者じゃねえが、『ジャック』にしといてくれよ。」
「なるほど~ジャック・スパロウこと、ジョニー・デップそっくりな彼氏さんですね。ではパフォーマンスタイムどうぞ~」
その目を見続けてはいけないと思ったのか、司会の女性は早々とステージを降りた。
そして…。
「今、ここに居るみんなは歴史の目撃者だ。
我が名は『ジャック』そう、本物の『ジャック・ザ・リッパー』さ。
俺もそこのリンゴを使わせて貰うぜ…。」
番組スタッフの女性からリンゴを受け取り、そのリンゴを高く放り投げたグラシャ=ラボラス。
観衆の一人が
「ねえ、ジャック・ザ・リッパーって確か日本語で…。」
グラシャ=ラボラスは右手の人差し指だけを立てた。
そして落ちてくるリンゴが彼の人差し指と重なったと思った瞬間…。
「切り裂きジャックだわ!!」
同時に違う方向から何人かが叫んだ時、
リンゴは一瞬で皮を剥かれ丸裸になり、一本の赤い皮が彼の足下に円を作っていた。
暫しの沈黙の後、写メのシャッター音が響く。
そして二回目の大絶叫まで時間がかからなかった。
「キャー!!何で写真に写らないの?」
「リンゴだけが浮いてる!」
「切り裂きジャックのお化けよ!」
会場が混乱し、逃げ出す者や、泣き出す者。
だがそれをうやむやにする者達が現れた
「警察だ!撮影は中止だ!番組関係者意外は解散だ」
十人近い私服警察官が観衆を追っ払った