泣かずにはいられなかった。
泣いても何も変わらないことはわかっていたが、姉の優しさと強さに触れ、自分の弱さと心の狭さを思い知れば、涙が止まらなかった。
「…私だって、父さんと母さんを恨んで、麗香を妬ましいと思ってたある。」
凛子お姉ちゃんはいつも家に居なくて、海外修行を繰り返していた。
珍しいお土産と大会の武勇伝を聞くのが好きだったが、「お姉ちゃんも大変だなぁ」くらいしか考えてなかった。
「言葉もわからない国で、いつも一人で泣いてたある。
自分だけ過酷なトレーニングさせられて、麗香だけ温かいご馳走食べてるのに!って恨んだこともあるね♪
でも、相野家の次女として、長女の盾となり、身代わりになる為に育てられた私の心と身体は、自分だけの為だけに存在すると違うある。
麗香だって、会社経営を小さい頃から叩き込まれたある。
修行の辛さや強敵の怖さよりも、逃げ出したことによって、大切な人に顔向け出来ないことの方が遥かに辛くて怖いね♪」
聞かなくてもわかった。
「大切な人」は凛子お姉ちゃんの使用人の霧雨月之介だということが。
凛子お姉ちゃんが繰り返す
「強い男は私の婿にしてやるね」
の台詞は、月之介への揺るぎない信頼と愛情だとわかった。
守役として海外でも一緒だった二人は、出会いが幼さ過ぎて恋愛感情が自覚出来ないだけなんだろうな…。
「そうだ、じゃあ、さっきの質問。
お姉ちゃんは月之介より強い男が現れても月之介を選ぶの?」
「う~ん、その時は私がその男を倒すある♪」
「そうじゃなくて!
じゃあ、お姉ちゃんが負けたらその男のお嫁さんになっちゃうの?」
「その時は月之介にリベンジさせるある♪」
「何よそれー!?
殆ど婚約宣言にしか聞こえないんですけどー??」
「るんが変なこと言わすから悪いある!」
「はいはい、ご馳走様でした!
あ~あ、私も修行の旅に出た方がいいのかな~?
ギター一本で、行く先々の町並みを曲にしての放浪記…なんて…憧れかなぁ。」
知らない町、知らない人。
嵐と舞花を忘れるには最適と思い、焦燥に駆られる気持ちだった。
「世界の広さを知ることには賛成ね。
でも…一人で旅行もしたことないクセに~。
それはまだるんにはハードル高いから、姉として反対ね。
まずは一人で電車の切符を買ってみるある(笑)。」
「それを言わないで!
そうだわ!おばあちゃん家!
私、一人でパパの実家の流山に行けるかな?」続