「ほう、けっこうイケるやんか」
「あ、あんたが素直に褒めてくれるなんて珍しいわね。
ありがとう…。」
離れに設置された嵐の研究室。
片付けがまだ終わってなかった為、私がドアを開けた瞬間に積み上げてた本が崩れ、嵐を生き埋めにしてしまった。
助けようとしたらまた崩れて、今度は私が嵐を押し倒した形になって…。
月之介に助けてもらったから良かったけど、思いっきり誤解されたし!
自分から訪ねたのに、気まずい雰囲気に堪えられず、私はすぐさま持参したコーヒーとクッキーを取り出した。
「俺はいつも正直やで?
手作りでこんだけ作れたら上等やわ。」
確かにこいつはいつも正直かも。
「…うん…。今までね、お菓子作りもお料理も雪之介からいっぱい習ったんだけど、上手く出来たのはこのクッキーだけなんだ…。
嵐に美味しいって言って貰えて良かった…。
今日、作りおきがあったのって『運命』なのかな…?」
バカァ~、あたし何言っちゃってんの?
このクッキーって、以前にパパも月之介も美味しいって言ってんだから、嵐のそんな言葉に舞い上がってんじゃないわよ!
しっかりしろ、私!
そ、そうだクッキー繋がりで…。
「ね、ねぇ。このクッキーも、鶏子ちゃんの卵を使ったら、もっと美味しくなるかなぁ?」
「せやな、鶏子が産む卵は世界一や!
このクッキーはもっと美味しなるやろな。」
胡座をかいて豪快にバリボリと食べる様は、まるでお煎餅をかじってるみたいだ。
パパよりも男らしく見えるその姿に私はドキドキして…。
「今日はありがとうね…。」
「何がや?」
「麗香お姉さんと舞花の事よ!」
「あぁ、どうってことないわ。」
「嵐は研究の事しか頭にないの?まさか本気で鶏子ちゃんに『金の卵』を生ませる気?
それって伯父様と伯母様が嵐の『将来に期待して』って意味じゃないの?
農学部や獣医学部の受験勉強してたたんじゃないの?
ま、舞花はそんな嵐をどう思って…。
ううん、嵐こそ舞のこは…。」
私のバカァ!取り敢えず落ち着いて…。
「何の話や?
質問は一個ずつやで。
とにかく俺は本気や!
でも厳密に言うたら生ませたいのは『金の卵』やない。
金よりも、もっと強く、猛々しい卵や!」
「金より強い?意味わかんないよ!」
「るん、『金剛石』って何のことか知ってるか?」
「こんごうせき?う~ん、何か聞いたような…確か宝石の…?」
「あぁ、ダイヤモンドの事や」