目的地は和歌山の山林の奥地にある小さな村だそうだ。
私は母の運転する車でいつの間にか眠っていた。
****
「帰ってください!
ここは父と母の大切な場所なんです!」
ネクタイをした小学校低学年くらいの子供が大人を相手に抗議している。
決して泣いたり怒ったりじゃなく、その誠実な態度に大人達も帰っていった。
そしてそれを遠くから見てる私はどうしてお布団から…??
****
「アホかー!
川の流れはプールや海と違うんやで!
都会モンは知らんやろうけど…。」
…またこの子だ…。
私はなんで怒られてんの…?
****
「ガタン!」
「キャア~!」
「暫く揺れるけどごめんね~、るん。
これじゃ寝れないよねぇ?
あ~四駆で来たらよかった~。
って、8年前も言ったかな~?
全然あれから舗装されてないじゃん!」
私が見ていた夢は、山林道の悪路によって断たれた。
気になって仕方ない私は、おぼろ気な夢の記憶を頼りに母に聞き出すことにした。
「ねぇ、お母さん。
嵐(らん)くんって子、私の従兄弟だよね?
今何年生?」
夢から覚めた私の突拍子もない質問に驚くでもなく、母はにこやかに応えてくれた。
「あんたホントに何も憶えてないのねえ~?
嵐くんは、るんと同じ16歳よ!」
「お、同い年ー!?
ちょ、そんな同級生を家に連れて帰ってこれから一緒に暮らすなんて私は嫌よ!
お姉さんやお姉ちゃんはこの事知ってるの?」
天涯孤独な男の子って、てっきりまだ幼稚園か小学生かと勝手に思ってたけど、そっか、お母さんのお兄さんの子供なら、私より年上が普通よね…。
それに憶えてないって何?
「麗香も凛子も承諾済みよ♪
麗香ったら、『うん、従兄弟の男の子?あ~、可愛い女の子と同棲なんて現実は甘くないか…残念。私は興味ないから好きにして』だってさ♪」
「で、凛子お姉ちゃんはまさか…。」
「ええ、凛子は相変わらず『そいつ強いか?強い男は大歓迎ね』だってさ~♪」
や、やっぱり麗香お姉さんは百合脳で、凛子お姉ちゃんはバトル脳…。
お葬式に私だけを連れて来たのも納得だわ…。
****
「るん、着いたわ。
あの集会所よ。」
中に入ろうとした時、スーツ姿の男性を追い返す男の子が居た。
背は低くとも、眉は太く、肩幅の広い学生服が似合う男の子だった。
「帰ってください!
ここは父と母の大切な場所なんです!」
「嵐くんだわ…。お兄様に生き写し…。」