あの子と遊んじゃいけません 5 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

それはそれは貧弱な大将様の誕生だった。
元々華奢な体格であり、走ること以外、運動は苦手な拓哉だった。
ドッジボールでは避けることに終始し、野球はライトしか守ったことのない「のび太」だった。
悪気ない女子から、拓哉に向かって、「ねぇ、騎馬戦の大将って誰?」と聞かれ、申し訳なさそうに
「…僕だよ…。」

と言ったこともあった。

練習では簡単に馬が崩れ、散々笑い者にされた。
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「お前、大丈夫か?」

「大丈夫って何が?」

全てから解放されるのは日曜日だけだった。
拓哉は4組の佐野にだけは全てを話せていた。

「犬井先生がお前だけにキツく言い過ぎだろう?」

「あぁ、全体の規律守らせたいって感じが見え見えなんだよな!だから倍ムカつくけど、林くんなんか全然問題なくやってんのに…。」

「俺なんか上は望んでも絶対無理なんだぜ?」

徒歩で図書館に向かい、青空の下で「人生」を語るのが拓哉と佐野の休日の過ごし方だった。
拓哉の唯一無二の親友佐野は体重80キロの小学生だった。
自分が絶対にリレー代表になれない事、自分を上に乗せる騎馬なんて、大人三人でも難しいことを語ってくれた。
4年生の時に今の小学校に転校して来た拓哉に取って、佐野は親友というより恩人であった。
女性的過ぎる容姿をからかわれたり、博識過ぎる事で妬みを買う拓哉をいつも守ってくれたからだ。
拓哉は大柄な佐野は最初から強くて、スポーツ万能の林は最初から何でも出来ると思っていた。
しかし、佐野には柔道教室が、林にはリトルリーグという人知れず汗と涙を流す場所があってこそ、というのを拓哉が学ぶのはもう少し先だった。

「騎馬上で立ってられへんかったら、動かん方がええやん。」

それは肥満児の佐野のものぐさな言動に捉える者がほとんどだろう。
しかし、それを聞いた拓哉は…。

「そうか!動かなきゃいいんだ!」

彼の中で何かが変わった瞬間だった。
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「ヘルチ、社長、五右衛門、俺はもう絶対落馬しない!だからみんなも全力で俺を支えてくれ!
それには逆に大将の方がええんや!」

拓哉少年が誰かに何かをお願いするのも、自分の想いを熱く伝えるのも初めてだったかもしれない。
「そっかぁ、逃げたり、相手の帽子を取ろうとするから崩れるんだ…。」

「うん、動かずに来た相手をやっつける方がいいよ。」

社長こと永田、ヘルチこと児山のインテリ二人は作戦を直ぐに理解してくれた。