い、いくら幻とはいえ、女子トイレに入ってきて驚かし、出てきた所を狙って明日香さんを壁に押し付けるなどと、何たる暴挙!
許せないです!
(ラファエル姉さん、駄目よ、天使の力を解放しちゃ!)
「…こういう時は…。
ちょっと、誰かー!!」
そ、そうです。
この井成さんも人間に化けた妖怪ならば、テーブルで私達を待ってる他の男子三人も妖怪ですし、ウェイターのグラシャ=ラボラスさんは腕利きの悪魔です。
ここは助けを待つのが得策です。
「…叫んでも誰も来やしねぇよ…。
あいつらは俺の狐火に夢中さ…。」
「な、何が目的ですか?
明日香さんを放すです!」
「目的?少なくとも俺だけはあんた等やあいつ等の様な低俗な趣味じゃねえさ。
何なら、お嬢さん方も俺の狐火が願いを叶えてやるさ…。」
人間の姿をした井成さんから9つ尻尾が出現し、その先端が薄緑色の妖しい火が立ち上る。
揺らめく火は人間の姿となり…。
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「沙代理さん、大きな騒ぎは止めましょう。
何も心配は要りませんよ。」
河野さん!いえ、これは狐火が作り出した河野さんの幻だわ!
わ、私の心が今一番揺さぶられる男性の幻を見せるなどと何て卑怯な男!
明日香姐さんを助けなきゃ駄目なのに…。
「貴女の人間界での苦労はわかってるつもりです。
寂しさは私にぶつけてください。」
ヤダ、幻がなんでそんなに優しく抱きしめるのよ酷い!
抵抗出来ないじゃない…。
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「宇都宮先輩!
いつまでこんな所に居るんですか?
早く僕と帰りましょうよ!」
こ、近藤くん?
な、わけないわ!これは幻よ!しっかりしろウリエル!
「宇都宮先輩、もしかして僕が偽物とか疑ってませんか?」
なんで?なんで近藤くんは私の心がわかるの?
「僕が偽物ならば、どうして宇都宮先輩の前に現れたんですか?
宇都宮先輩が僕を求めたから、今ここに居るんじゃないですか?
どうでもいい男なら心の中に居ないでしょう?」
どうして?どうして今日の近藤くんはそんなに男らしいの?こんなの酷いよ…。
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「ラファエル様、心苦しいお気遣いは勿体無いほどであります。」
バティンさん…。
自慢の瞬速で私を迎えに来てくれたですか?
いえ、そんなわけはないです。
これは狐火の幻。
しかし、何という都合の良い夢ですか?
バティンさんには奥様が…絶対に駄目です!
「私が幻のバティンなら何も躊躇する必要はありませんよ」続