「思い込み」こそが気弱な僕にとって最大の敵だったのかもしれない。
北校舎裏で行われるいつもの光景。
男子のクラスメートから散々に殴られ、サッカーボールの様に蹴られ、なけなしの小遣いを提供するいつもの光景。
違うのは僕が全く持ち合わせがない事だ。
なければ近くのコンビニまでダッシュさせられてたが、あいにく前日にクラスメートの女子からカラオケ店で「ハニートラップ」にかかり、僕は全財産を無くした…。まぁ散々いい思いをさせてくれたから最早腹も立たないけど…。
昨日の時点でこれ以上の不幸はないと思った。
だから後は上昇するだけだと思ってた。
だが不幸には際限がない。
いくらお金がない事を説明しても納得しないクラスのボス。
うずくまった僕は冷たいモノを握っていた。
北校舎裏には小さな花壇がある。
丁寧に植えられた花とは別に、自生したタンポポも咲いていた。
僕は気付かなかった。
花壇の区切りを付ける赤レンガが簡単に抜けるなんて。
僕には醜い「エクスカリバー」だ。
僕を蹴り続けるボスの右足にカウンターでお見舞いする。
「クシャッ」
と鈍い音が、彼の脛の骨を砕いたことを知らせた。
痛みに絶叫し、地面に転げるボス。
今度は僕が立ち上がる番だ。
あんなに大きく見えたボスの、何て小さな事!
…それからはあまり記憶にないけれど、僕はただ、規則正しく振り下ろした。何度も何度も…。
北校舎の裏の花壇には…赤いタンポポがたくさん咲いていた。
これが「窮鼠猫を噛む」だって?馬鹿を言っちゃいけないよ。
鼠は猫を噛まないよ。
だって噛むのは常に猫なんだ。
噛まれるやつは…いつまでも鼠…さ…。
これは事件にならなかった。
取り巻き連中が口を揃えて「貧血を起こして、花壇のレンガに頭をぶつけた。」と言い切った。
探られれば、痛い所があるからだろう。
女子は仕返しを恐れ、僕に媚びてくる。
男子は仕返しを恐れ、へつらってくる。
気分の良さを味わう時間はなかったようだ。
僕はボスの「身代わり」なんだから。
来週には街の裏手で他校のボスと決着をつけなきゃならない。
僕は勝ち続けなきゃならない。
…もう戻れない、もう止まれない。
止まったら死ぬ僕は回遊魚。
そういえばお刺身に付いてる菊はプラスチックの偽物さ。
あれってタンポポにも似てるけど、赤いタンポポは存在しない。
タンポポの花言葉は「神のお告げ」「別離」英名ダンデライオン=獅子の牙