12月29日昼
「可愛いね。」
「綺麗だよ。」
ネットで自分の画像をアップされる度に、賞賛のコメントをシャワーの様に浴びていた。
地味な学生時代を過ごしてきた私が、ネットの中ではアイドルになれた…。
でも、どんなに誉め言葉を並べられても、好きな人に言われないと言葉に響かない。
赤羽根さんの「こんにちは!」って優しい笑顔の挨拶や、佐田くんが真剣な眼差しで「落合さん…。」って見つめる瞳にはかなわない。
「いい気になってたのかなぁ…。」
佐田くんが店長のお願いを了承して、イケメンアルバイト店員として、ホームページにアップされたら、絶対に私なんかより人気になるわ!それだけは嫌!
ううん、違う、この嫌は佐田くんがモテることじゃなくて、私の人気が霞むこと…なんて誤魔化し切れないかな…。
私って嫌な女…。愛されるとモテるは違うって知ってるはずなのに…。
「落合さん!お願いがあります!」
「ど、どしたの佐田くん?まだ休憩時間30分しか経過してないよ?ゆっくりしなよ?」
お客さんが来なくてレジでボッーと考えてたら、急に佐田くんが!何で彼はいつでも突然なの?
「ゆっくりしている暇はありません。
直ぐに私と一緒に来てください。」
「何?今日の佐田くん、特に変よ?」
「行き先は確かに病院ですが、私が正常か否かを診てもらう為ではありません。
どうせ人間にはわかりませんから。」
「な、なんのこと?何で仕事中の私を連れてくの?」
「理由は移動しながら話しましょう。
店長、私と落合さんの代わりは、鶴野さんか北御門さんに連絡を…。」
「いいわよそれくらい。
ちょっと早い仕事納めにしちゃうから行ってきなさい。」
「店長まで何言ってるんですか~!?」
カバンもお財布も持たずに、バイト先のエプロンに名札を付けたまま、強引に佐田くんに手を引っ張られて…。
「急ぎますよ!しっかり掴まっててください。」
軽々お姫様抱っこされた!
年末の人通りで恥ずかしいよ!
(右腕開放、左腕開放、首のチョーカー解呪完了。)
「い、急ぎますって私を抱えて走るの?自慢の黒いバイクやタクシーじゃないの?」
「人間界の乗り物よりも、この方が早いので。
私の肉体はあくまで借り物ですから…。」
た、確かに行き交う車よりも、佐田くんの方が鬼の様に早い…。
私、また夢を見てるの?
(佐田星明の肉体で、魔力の全開放は流石に反動がキツイか…。)