その日の瑞穂は明らかに彼女らしくなかった。
天才的なプレーは精彩を欠き、ドリブルの切れもパスの精度も低かった。
「ごめん、大丈夫?」
そして今、理恵のタックルをまともに受けて転倒した所で三好先生にプレーを止められた。
「高坂さん、私と保健室に行きましょうね。それで終わったら今日は帰りなさい。
中島さん、みんなを任せたわよ!」
「は、はい!」
三好先生も瑞穂も居ない中で私はキャプテンとしてその日の練習を仕切るのに精一杯で、瑞穂のことは気になったがそれ以上は考えなかった。
そして練習が終り、遂に三好先生も瑞穂も戻ってこなかった。
練習後の女子ロッカールームは無責任な推測と憶測が飛び交った。
「ただの風邪とかならいいけど。」
「だったら三好先生があんな心配しないよー。」
「ケガとか病気とか?」
「それじゃピッチにも立てないわよ!瑞穂的にクオリティが下がってても、十分に普通の選手以上だったわ。」
「待って下さい、以前にも高坂先輩のクオリティが下がった時ありましたよね?」
部員の中で一番瑞穂に懐いてる宇都宮さんが言った。
「うん、高坂先輩がまともにプレー出来ないのは真田先輩に恋してた時!」
「それよ!好きな人出来たのよー!」
「え~誰~?」
ホント、みんな心配する気あるんだか…。
「それはないわ。私、瑞穂とクラス同じだけど、朝から顔が赤くて授業中もボーっとしてて体調悪そうだったわよ。」
とりあえず私も知ってることを言う。
「まさか妊娠?」
「それこそ無いわ!!」
全く、みんな発想が飛躍しすぎ!
「…まさか…高坂先輩の正体はバンパイアで新月の日は能力が低下するって噂は本当?」
「うん、それ信じてるの柳生ちゃんだけだし、噂の出所は相良くんだよね?」
「はい!」
「あの厨二病…。」
「じゃあ、それほど非現実的じゃないけど、男子サッカー部に伝わる『背番号10の呪い』?」
「それこそ無いわよ~。だったら何で小管くんもかからないの~?」
「名プレーヤーじゃないからでしょ(笑)。
佐竹先輩は去年の10から8に変えて凄く上手くなったよ~!」
「えっ、ホントに呪い…?三好先生って除霊も出来るの…?」
みんなの中でオカルト的なオチで終わりそうになった時…。
「私もさすがにそれは無理ね。」
と三好先生が入ってきた。
「心配無用よ。
高坂さんは17歳で初めて女の子の日を経験しただけよ。」
終