「本当に…惚れ惚れする働きっぷりね、会長様。」
生徒会室で久しぶりに京子に話しかけられた。
あれ以来、京子はサッカー部を観に来ないどころか、教室でも俺を避ける様になっていた。
「な、なんだよ急に?」
読めない。今の京子の考えが全く読めなかった。
「そんなに固くならないでよ(笑)。貴方と私の仲じゃない。
ちょっとだけ話を聞いて?」
一切視線を反らさず、口角だけで笑う時の京子は怒っている時のサインだ。
「前に話した…まー君の好きな人がわかったって話憶えてる?」
やっぱり高坂のことか。俺とあいつは部活以上の付き合いはない。避けてるのは京子の方だ。
「あのな、京子!俺と高坂は別に…」
「そんなのわかってるわ。まー君が好きなのは高坂瑞穂じゃない。
でも私でもない!
まー君はね…困っている人が好きなの…」
二人きりの教室に泣き声を堪えながら絞り出す様な京子の声が響く。
「まー君はね、間違いなく正義のヒーローだわ。
いつも弱ってる人、困ってる人の為に喜んで自分を犠牲にする人。
サッカー部の為、高坂瑞穂の為、学校のの為に身体を張って守る鉄壁の守護神だわ。
そんなまー君が好き。だから傍に居たくて副会長になった。
でも…無謀な貴方が怖いの。
高坂瑞穂の天才性に惹かれてるなら、私も諦める…。
でも今のまー君はあの女の『寂しさ』が好きなの!
そして『依存性で元・いじめられっ子』の内藤京子が好きなだけ!!
もっと不幸な女がいたらそっちに流れるだけ!!」
「バン!」
と机を叩くと同時に号泣する京子。
俺は京子の抱える脆弱な狂気も、高坂の抱く絶体的な孤独も守りたい。
ただそれだけなのに世の中はあまりに俺に逆風を向ける。
「それで俺は誰も傷つけない。
俺が犠牲になる。」
泣き続ける京子の顔を上げ、口唇で口唇を塞ぐ。強く抱き締め、京子の中の京子に自分を絡める。
駄目よ!駄目。いつもまー君のこの手にやられてるのよ私は。
泣けば優しくしてくれて、転べば助けてくれる。
そして何にも出来ない私になっていく。
このキスに堕ちたいよ。
頭も心も全身がズキズキするけど、
口唇だけは…痛くないから。
「何で?
何でこんなことするの?
こんなことされても嬉しくないんだから!(ちょっと嬉しいけど)
もう…私一人の想いだけじゃ駄目だね。
今までの気持ち…諦める。」
生徒会室を出る京子の背を見て、心を決めた。
今日が最後の練習だ。